258.ちょっとこまごまとした話をしてみた

 昼ご飯はどうしようかと考えた。冷蔵庫を漁ってみる。昨日N町に行ったから食材だけは豊富にあった。

 イノシシの肉の醤油漬けを焼いて、ニラと、タマとユマの卵を炒めて出した。卵のボリュームが素晴らしいことになっている。一個一個がでかいからな。


「ほら、ごちそうじゃないですか」


 相川さんが嬉しそうに笑った。


「すっごいいいかげんですよ?」


 イノシシ肉はニワトリたちにあげる分以外は、食べる前に一晩漬け状態にしている。その方が臭みが取れるからな。


「タマさんとユマさんの卵、やっぱ最高ですよね~」


 ニラ玉を食べて、相川さんがしみじみ言う。今日イノシシを沈めていた川の件について聞いてみた。

 相川さんは少し難しい顔をした。


「うーん……多分そこまで明確に切れてないような気がするんですよね。佐野さんの山の権利区画ってどうなってますか?」

「川までは書いてないんですよね……」


 そういう意味では地図があいまいである。


「川がなければそこまで悩むこともないですか……。川の水は佐野さんの山から流れてきていますから、佐野さんの土地で問題ないと思いますよ。気になるようでしたら山倉さんに確認してみたらどうでしょう」

「そうですね。今から気にすることではないと思うんですが、俺に何かあった時はっきりさせておかないと迷惑かなと思いまして……」


 まだ若いからそこまで気にしなくていいと思うかもしれないが、先日怪我をした時のことを思い出した。だからはっきりさせられることははっきりしておいた方がいいと思ったのだ。


「ああでも……リンやテンがあの川を使うことはあると思います」

「使用とかそういうことはいいんです。土地に線が引けた方が何かあった時揉めないだろうってだけの話ですから」

「佐野さんは……若いのにいろいろ考えてらっしゃいますよね」

「相川さんだって若いじゃないですか」


 即答した。相川さんはふふと笑った。


「そういえば……多分あの上辺りに神棚ってあったんでしょうね」


 相川さんが指さした先には、確かに何かを置いていたらしき板があった。壁に棚が付いているような形である。


「……そうですね」


 立って位置を確認してみる。俺の手が余裕で届く位置だった。ここなら神棚を置いて毎日挨拶ができるだろう。


「相川さんちはどうでしたか?」

「うちは奥の部屋に棚があったので、そこだと思います」

「神棚ってやっぱり、作るんですかね?」

「どうなんでしょう? 湯本さんに聞いた方が早いと思いますよ」


 ってことでさっそく電話してみたら。


「神棚? そんなものホームセンターで手に入るだろ?」

「……ホームセンターで買えるものなんですか……」


 なんでも手に入るな、ホームセンター。もしかして祠とかも売ってたりして。どんだけ万能なんだ。


「ホームセンターで買えるんですね。すごいな……また行ってみましょうか」


 相川さんも感心していた。


「はい、また今度行きましょう」


 ホームセンターは素晴らしいところである。

 ポチはお昼ごはんを食べると「アソブー」と言ってツッタカターと遊びに行ってしまった。付き合ってくれてありがたかった。


「暗くなる前にはタマと一緒に帰ってくるんだぞー」


 連れ立ってこなくてもいいけど、どっちかが帰ってきてないとかで探しに行かれても困るしな。ユマは外で畑とか駐車場付近まで見回りをしてくれるようだった。この寒い時期でも虫をよく見つけているみたいだ。ユマで思い出したので聞いてみる。


「リンさんて、山の中では普通に行動してるんですか?」

「まぁ、動きは鈍くなっているようですが、好きなように狩りをしているみたいですね。佐野さんの山には近寄らないように言っているので見つかる心配はないはずです」

「それならいいですけど……」


 よく考えてみなくても今日の水場はリンさんやテンさんも使うんだよな。やっぱりそう簡単に人を入れるのも考えものだ。


「明日の夕方はおっちゃんちですね」


 またイノシシ祭りだ。牡丹鍋おいしいんだよな。


「ええ、でもその前に少しこちらに寄らせていただきます。川中さんと畑野さんが悔しがっていましたから……」

「ああ……今は日曜日しか来られませんもんねえ」


 師走はなかなか休みが取れないようだ。


「もし明日、何か獲れたらどうするんですか?」

「できれば急いで秋本さんのところに持込ですね。昨日みたいに内臓を取って川で冷やしても明後日取りにこられるとは限りませんし」


 二日酔いとかはなくても酒は抜かないと運転できないからだろう。


「まぁでも、明日は獲れないと思いますよ。狩るならもっと奥に行く必要がありそうですから」

「そうなんですか」


 標高や広さがそれほどなかったとしても、木や草をかき分けて進むので思ったより距離は進めないものだ。確かに狩れればいいだろうが、そうでなくてもみな楽しんでいるみたいだった。


「みそ汁のおかわり、いただいていいですか?」

「はい!」


 みなさんのおかげでどうにか本日中になくなりそうだった。明日はまたみそ汁を新しく用意できるだろう。明日の具材は何を入れようか。そういうのが少しだけ楽しみだった。

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