256.意外と自由に歩ける山はないものだ
もう12月も半ばを過ぎた。
慌ててネットで各方面にお歳暮の手配をした。今はこうやってボタン一つで注文できるんだから便利だよな。だからこそいろいろ注意しないといけないわけなんだけど。
そういえば年賀状の用意……いっか。今年はなしだ。つーかしばらくなしでいいだろう。だいたい誰になんて書いて送るんだよ?
明日来るのは相川さんと秋本さんだ。秋本さんが来たらイノシシを沈めたところまで案内しなければならない。沈めた場所は前回と同じ場所だと言っていたから今回は場所の確認ができるはずだ。
イノシシを狩ったという興奮からか、ユマはとてとてと普通に近づいてきてくれたが、きっと何も獲れなかったらまたプイッてされてたんだろうなと思う。いつもこっちの都合で悪いなとは思っている。
「明日、秋本さんが来たらイノシシのあるところまで一緒に行くけど、お前たちはどうする?」
「イクー」
「アソブー」
「イクー」
タマさんは相変わらずマイペースのようです。そんな君が嫌いじゃないぞ。
「じゃあ、ポチとユマが付いてきてくれるんだな? よろしくな」
ポチとユマの羽を撫でて、タマの羽も撫でた。タマは一緒には行ってくれないけど、山中のパトロールをしてくれる。ただ好きなように回っているようだが、日々のその行動がマムシとかいろいろ減らしたりしてくれていたんだよな。もうホント、うちのニワトリたちには感謝しかない。そしてうちのニワトリたちに巡り合わせてくれた山の神様にも感謝だ。
そういえばこの家神棚ってないな。昔はこの家にもあったのだろうが、きっと元庄屋さん家族が持っていったんだろう。明日相川さんに神棚をどうしているか聞いてみようと思った。
翌朝10時頃には秋本さんたちが来るということで、それに合わせて相川さんも来てくれることになった。
朝家の外の確認をするのは日課になっている。地面が霜で白っぽくなっているのが心臓に悪い。天気予報は毎日欠かさず見ているが、ここは山だからあまり参考にならないのだ。まぁでも村が雪だったらこの辺りは間違いなく雪だろう。一面銀世界とか、傍から見ている分にはキレイだがそこで生活をすることを考えるとぞっとしない話だ。
「よし、今日も雪じゃないな」
そういえば今日桂木さんが、妹さんの教習所の予約が取れなかったら帰ってくるみたいなこと言ってたな。そのまま一晩こちらに泊まる、のは寒すぎるだろう。後で確認してみるか。
朝食を用意し、最近のクセでみそ汁を大鍋で作ってしまった。今日はわかめとじゃがいものみそ汁である。毎日誰かしら野菜をおすそ分けしてくれるのだ。最初は恐縮していたが、山に入らせてくれて休憩場所まで用意してくれているからという話らしい。なのでありがたくいただくことにした。俺にとっては大したことではないし、むしろ来てくれてありがとうなのだが、自由に足を踏み入れられる山林というだけで貴重なのだと言われた。
「この辺りはほとんどが山だから意外だと思うだろ? だけどな、一応猟師同士にも縄張りっつーもんがあるんだ。うちの林はそのまま上がれば山だが、その向こう側は国有林だ。相川君が猟友会に入ってくれて、しかもうちに来てくれてよかった。佐野君にも知り合えたしな。本当にありがとう」
陸奥さんに先日改めてそう言われたことを思い出した。俺がこの山を買ったことで誰かの役に立ったのならそれでいいと思う。相変わらず俺自身は何もできていないし、何も進めていないようだけど。
それでも、彼女のことを思い出す時間は確実に減っている。
このまま忘れてしまえるならと思うのだ。
タマは朝飯を食べると、ろくに食休みもせずツッタカターと出かけて行ってしまった。
「どんなに遅くなっても、暗くなる前に帰ってくるんだぞー!」
と声をかけたが聞いていただろうか。今日はなんとなくこの山を回ってくれるような気がした。
そうだよな。全員が常に一緒に動く必要なんかない。俺とニワトリたちがいて、好きに山の中を駆けてもらってそれで暮らしていくんだ。雪が積もってほしくはないが、積もってからのニワトリたちの行動を見てみたいとまた思ってしまった。
軽トラのエンジン音が聞こえてきた。相川さんが来てくれたようだった。
「相川さん来たみたいだな」
ちょうど畑を見ていた時である。畑の周りをつついていたポチとユマが頭を上げた。軽トラが停まる。下りてきたのは果たして相川さんだった。
「おはようございます、佐野さん。精が出ますね~」
「おはようございます」
思わず笑ってしまった。
「今日はポチさんとユマさんですか。よろしくお願いします」
「ヨロシクー」
「ヨロシクー」
今は相川さんだけだからいいけど、秋本さんが来た時には気を引き締めてほしい。俺のせいだかなんだか最近気が緩みすぎだと思う。
あ、と思い出した。
「そういえば、相川さんちには神棚ってあります? うちは山倉さんが持っていかれたみたいでないんですけど……」
「ああ……そういえばうちもないですね。きっとうちも持っていったんでしょうね」
そんなことを話していたら、また軽トラのエンジン音が聞こえてきた。秋本さんが来たようだった。
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