255.狩りをしたようです

 思ったより帰りが遅くなった。どうにか四時前に着いたが、みんな戻ってきているようだった。


「ただいま戻りました。すみません……」


 玄関のガラス扉を開けたら全員がバッとこちらを向いた。思わずその圧にのけ反ってしまった。なんだなんだ。


「ああ、まだか……」

「この時間だと一晩沢で冷やしておいた方がいいかもしれませんね」


 陸奥さんと相川さんが言う。


「え? もしかして何か獲れたんですか?」


 今日はちょっと真面目に狩りをするみたいなこと言ってたけど、本当に獲れたのか。


「イノシシを一頭、ニワトリさんたちが連携で捕まえました」


 コッ! と三羽が得意そうに鳴く。

 えええ、どんだけ。

 連携って何? 尻尾ぶんぶんかよ。足もけっこう逞しいんだよな……。


「ど、どんなことに……あ、いえ、いいです。聞きたくないです……」


 ニワトリたちの狩りの様子とか恐ろしいから聞きたくないと思った。


「そうですか? すごくかっこよかったのに……」


 ニワトリの狩りでカッコイイってなんだ。いや、聞かないったら聞かないぞ。

 残念そうに言う相川さんは無視した。


「そのイノシシはどうしたんですか? もう秋本さんが運んで……?」

「いや、まだだ。捕まえたのがそろそろ撤収しようかって頃でな。一応内臓だけ取って川に沈めてきた」

「あー……じゃあもうこんな時間ですし、明日回収してもらった方がいいですね」


 おっちゃんが教えてくれた。やっぱ狩りってけっこうたいへんなんだな。


「内臓はどうだったんです?」

「病変もなくてキレイなもんだったぞ。とりあえずうちで持ち帰っておくわ。お、秋本からだ? ちょっと待ってな」


 そう言っておっちゃんが電話に出る。やはりこの時間では取りにこれないという話だったようだ。


「悪いけど内臓冷やさせてもらってるぞ」

「あ、いいですけど、冷蔵庫入りました?」

「冷凍庫に空きがあったから袋ごと突っ込んだ。臭くなったらすまん」

「いえいえ、かまいませんよ」


 どうせ冷凍庫なんか肉しか入ってない。これ以上臭くなりようがないと思った。


「じゃあそろそろ帰ろうか。内臓はあきもっちゃんとこに持って行けばいいよね」


 戸山さんが言い、みな同意した。


「佐野さん、ごみ出しと買い出しありがとうございました。明日は秋本さんへの引き渡しに僕が来ますから。何時ぐらいがいいですか?」

「明日は一日いますからいつでもいいですよ」

「じゃあ詳しい時間がわかったら連絡しますね」


 みんな「疲れた、疲れた」と言いながらも笑顔だ。狩り自体はうちのニワトリたちがしたとしても、解体も運ぶこともできない。川があったらその場で開いて内臓だけ取って川に沈めた方が楽なようだ。もちろん内臓だけだってけっこうな重さだ。病変とかなくてよかったなと思った。


「明日秋本が取りに来て解体だから……明日の夜ってわけにはいかねえか。日曜の夜だな」


 おっちゃんが難しそうな顔をして言った。日曜日の夜はどうやらイノシシ祭りをするらしい。


「おっちゃんちでやるのか?」

「ああ、うちは大掃除の真っ最中だからよ。あまりゃあもらって帰るが宴会するぞなんて言ったら怒られちまう」


 陸奥さんがそう言ってワハハと笑った。それを言ったらおっちゃんちだって大掃除するんじゃないんだろうか。


「うちは二人だからな。そんなに片付ける場所もねえし、宴会終ってからやるわ」


 俺の視線で何を言いたいのかは伝わったようだ。これはおばさんに何か用意せねばなるまい。ネットでお歳暮でも贈っておくか。ってまだ俺手配してなかったじゃん。もう遅くね? と思って愕然とした。なんかもういろいろ不義理しまくりな気がする。

 陸奥さん、戸山さん、おっちゃんが先に帰って行った。もちろんイノシシの内臓を持って。

 おっちゃんがニワトリたちに、


「明後日の夜うちに来いよ。イノシシ食おうな」


 と言ってくれていた。これで今夜「イノシシー」の大合唱を聞かなくて済む。助かったと思った。

 相川さんに頼まれていた物を渡し、明日の件を確認してから見送った。お釣りを渡そうとしたが受け取ってもらえなかった。多め多めに渡して釣りはいらねえよとやるのは江戸っ子っぽい。(俺のイメージだ)


「こんなにお釣りいただくならもう頼まれませんよ」

「そんなこと言わないでくださいよ~」


 イケメンに苦笑された。ホント、いつ見てもイケメンだと思う。肌もけっこうキレイだと思うし。やっぱスキンケアとかしてんのかな。桂木さんの肌も冬になったせいか、それとも町に下りたせいか白くなっているように見えたけど、あれは化粧だったんだろうか。どうであれキレイっていいよな。


「ではまた明日~」


 相川さんの軽トラを見送って、うちに戻った。麓の鍵を今日は相川さんに預けた。どうせ明日また来るし。


「ポチ、タマ、ユマ、お疲れ~。明日は相川さん以外は来ないから好きにしてていいぞ」

「オミヤゲー」

「オミヤゲー」

「オミヤゲー」


 お前らおかえりとかの前にお土産かよ……。ちょっと泣きたくなったけどちゃんと買ってきた豚肉を切ってあげた。俺えらい、と自分で思った。



ーーーーー

近況ノートは昨夜書きましたが、お礼とただの自慢です(何

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