250.裏山の調査は時間がかかるものらしい
陸奥さんたちがやってきた。
「ゆもっちゃん、精が出るなー」
「早く着きすぎちまったわー」
陸奥さんとおっちゃんがワハハ、ガハハと笑う。おっちゃんはでかいザックをしょっていた。その中に何が入っているのか考えたら負けな気がした。戸山さんと相川さんはいつもの蛍光オレンジのベストに、荷物と猟銃を抱えている。
そのまま出かけようとするおっちゃんを制してみなさんにお茶を淹れた。一杯も飲まないで行くのは身体に悪い。
「日本茶はいいなぁ……」
お茶を飲んで漬物を摘まみ、みな立ち上がった。おっちゃんもいるせいかポチとタマがいつもよりやる気のように見える。頼むから暴走しないでくれよ。
「俺、村の雑貨屋とかもろもろ行ってくるので。昼には戻ります。一応大鍋にみそ汁は作ってありますから」
「ああ、いつもありがとな~」
また裏山に出かけていく彼らに手を振って送り出した。まだちょっと時間が早いから畑を見たり、うちの周りを見て回ったりする。夏と違って草が枯れているので見回りがしやすい。
「ユマ、ちょっと川の方を見に行こうか」
ふと川がどうなっているのか気になってユマと川に向かったら。いきなりユマがシュバッ! と速い動きをしたかと思うと、嘴に……。
「え? マムシ?」
この時期にマムシいんの? もう冬なのに?
ユマがマムシを咥えたままコキャッと首を傾げた。食べていーい? と聞いているようだった。
「あ、うん。いいよ」
許可を出したら少し離れたところまで行ってガツガツと食べ始めた。なんでこの時期にマムシ……しかもうちのニワトリに見つかるとかなんという哀れ。いや、俺も噛まれたら困るから見つけたら駆除するけど。
マムシなんて、うちのニワトリたちにとってはいいオヤツだよなぁ。たまたま出てきたのか、それとも前からいたけど俺が遭遇してなかっただけなのかはわからない。ユマが食べ終えて戻ってきたので、家に戻って嘴を洗ってやった。その血まみれの嘴はある意味ホラーだ。
で、そろそろいいかなとユマと共に村に下りた。うちから一番近いところにある雑貨屋は開く時間がまちまちなのだ。開いてなかった場合はちょっと足を伸ばす形になる。今日は一番近い雑貨屋が開いていた。
「こんにちは~」
「あら、佐野君こんにちは~。最近猟をする人たちがそっちに行ってるんでしょ?」
出てきたのはおばさんだった。
「ええ、みなさんいらしてますよ。少しは獲れるみたいです」
「そうなのね~。うちもたまにはシシ肉が食べたいわ~」
これはおねだりなんだろうか。そんなに仲がいいわけではないんだけどな。
「今日はおっちゃんが来ているので、うまくすれば何か狩れるかもしれませんよ」
「そう? 今度聞いてみようかしら」
確かここのご主人って秋本さんの親戚じゃなかったっけか。でも秋本さんは仕事で動物の解体をしているわけだしな。みそを一パック買ってから、そういえばと思い出した。今日は豆腐屋は開いているだろうか。豆腐屋でもみそは売っていた気がする。みそ汁に使うには塩分控えめだったような気がするけど、豆腐関係の食品も少なくなってきたしと寄ってみることにした。
ユマは当然だが店内には入らず、軽トラの周りで地面とか草をつついている。
「こんにちは~」
「こんにちは、佐野君。まだ雪降らないね~」
「降りませんね~」
降ったら山を下りられなくなるから困る。チェーンは一応巻けるけど、山道はとにかく危ないのだ。時間がかかっても歩いてきた方が確実な気がする。雪が降った山道を運転するとか考えただけでも恐ろしい。
「もし降ったらさ、佐野君ちのニワトリさんたちにソリでも引いてもらったら?」
「ソリ、ですか……」
身体に縄をつけてソリを引くタマとポチを想像してみる。
……暴走してソリが壊れる未来しか見えない。
「いや、無理だと思います……」
「そっかー。いい案だと思ったんだけど~」
豆腐屋のおばさんがてへぺろした。誰得なんだろう。今回もいろんな種類を買えるだけ買った。おからはもらえるだけもらう。
「佐野君、ニワトリの専用餌とか買わないの?」
「一応養鶏場から買ってますよ。でも食べる量がハンパないんで」
「ああ~大きいもんねえ」
納得されてしまった。おからは俺も食べるからあるにこしたことはないのだ。ひじきと炒り煮にでもしようかな。
忘れ物がないか確認して山に戻った。いつ雪が降ってもいいように買物はしっかりしておかないと。雑貨もお菓子ももちろん買ってきた。
昼前に帰ってきたので、片付けをしたり倉庫を確認したりして昼食の準備をする。今日のニワトリたちの飯はシシ肉とおから、白菜だ。シシ肉は二切れぐらいだけどな。足りない分はおからと白菜を一口分多めに用意しておく。他の鳥はよくわからないが、ニワトリは満腹中枢のコントロールがあまりうまくいかないと聞いたことがある。どちらにせよペットの管理は飼主の責任だ。(ペットだとは思ってないけど)体調管理はできるだけしてやらないとな。
昼になったがみな帰ってこない。スマホを確認したがなんの連絡もない。裏山は電波が入らないかもしれないので待っているしかないだろう。とりあえずみそ汁を温め直しながら待っていることにした。
「もうすぐ着きます。空きペットボトルなどがあれば用意してください」
みそ汁が温まった頃、相川さんからLINEが入った。やっぱり裏山は電波が入らないようだ。
それにしても空いたペットボトル? なんだろうと首を傾げた。
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200万PVありがとうございます! 近々記念SSをこちらか近況ノートに載せますのでよろしくですー。
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