245.困った時はチェーン店に限る
ホームセンターの中は見ているだけで楽しかった。目的のものも買えたしと、ほくほくしながらいつもの駐車場に軽トラを停めてから、相川さんと顔を見合わせた。
「……飯、食いに行きます?」
すんごくナチュラルにスーパー行ってお弁当を買おうとしていたことに愕然とした。だって駐車場でユマとリンさんを待たせてるって思ったらさ。お弁当ついでによさげな青菜売ってないかなとか普通に考えてた。
「……あそこで飯食ってくればよかったですねー……」
ホームセンターの駐車場の向かいにあったラーメン屋、おいしそうだったな。
「ラーメン屋でも行きますか」
相川さんが提案してくれた。
「この辺りのラーメン屋って入ったことありますか?」
「いえ……普段リンと一緒なので全然入ったことないんですよ。それに、人と顔を合わせること自体が怖かったので……」
相川さんは苦笑して言う。俺のバカって思った。
今でこそ普通にしているけど、桂木姉妹に会えば一、二歩さりげなく離れていく相川さんが外食するわけはなかったのだ。
「じゃあ、ほとんど外食はしてないんですか?」
「そうですね。一年で数えるほどだと思いますよ」
それもせいぜい山を売ってくれた人が連れて行ってくれたところぐらいなのだそうだ。だから場所も特に覚えていないのだという。
「こうしてみると、なんともぼんやり過ごしていたように思えます。もったいないですね……」
相川さんが自嘲するように言った。
「……俺は地元でもほとんど外食はしていませんでしたし……」
フォローでもなんでもないことを言ってしまい、自分でもなんだかなと思った。
結局チェーンのラーメン屋に入った。知らない店に入る冒険心は俺たちにはなかった。情けない話だが、めったにしない外食で失敗したくなかったのだ。久しぶりに食べたお店のラーメンは、可もなく不可もなくという味だった。失敗はしていないが成功もしていないかんじである。
「…………」
「餃子、食べます?」
「あ、いただきます」
二人で餃子一皿を分けて食べた。うん、まあまあというかんじだ。
「……シシ肉の餃子ってどうなんですかね?」
「……ああ、いいかもしれませんね」
「粗みじんでもいいのかな」
「フードプロセッサがあると楽ですけど、あります?」
「買ってないなぁ。ホームセンターで売ってましたっけ?」
そんなことを話していたせいか、スーパーで餃子の皮を買ってしまった。包丁で粗みじんでもいいだろう。相川さんは春巻の皮を買っていた。そんなもの売ってるんだなと思った。
「試しに春巻を作ってみるので、うまくできたら食べにきてください」
「はい!」
ほくほくしながら山に戻ったら、ちょうどみな戻っていて食休みをしていたらしかった。
「ただいま~」
ニワトリたちが畑の周りで何やらつついている。頭を上げてこちらを見たが、ポチとタマはすぐに興味をなくしたようだった。なーんだというようにすぐに頭を戻すのはどうかと思うんだ。ユマは少しバサバサと羽を動かし、ポテポテと近づいてきた。ううう……ユマ、お前だけだよ俺の癒しは……。
と思ったんだけど。
「ユマ~」
ユマは俺から1mぐらい離れたところで立ち止まると、フイッと顔を背けてまたポテポテと戻っていってしまった。
「ユ、ユマあああ~~~~」
俺はその場でくずおれた。ひどい。ひどすぎる。
「あー……ユマさん、ツンデレですか?」
ツンデレはタマだけで十分だ。しかもタマはツンがひどすぎるツンデレだ。そんなこと学ばないでほしい。
「ユマあああ~~」
「佐野さん、ほら行きますよ……」
くっ……浮かんだ涙を振り切るようにして荷物を抱えて家に運んでいく。畑の辺りに差し掛かるとユマがまたポテポテ近づいてきて、ツン、と俺を軽くつついて元いた場所へ戻って行った。
「……ユマって……」
かわいいなぁ……。
思わず和んでしまった。
「うわあ、ユマさん……あざといですねぇ……」
あざとくたってユマはかわいい!
俺は思わず相川さんを睨んでしまった。相川さんはすぐに気づいて苦笑した。
「すみません」
「いえ、俺の方こそすみません……」
なんつーか、俺はペットバカが過ぎるかもしれない。少しは自重しないと。
気を取り直して家のガラス扉を開ける。
「ただいま戻りました」
「ああ、おかえり。もう少ししたらまた行くつもりだ」
「佐野君、相川君おかえり~」
陸奥さんと戸山さんが笑顔で迎えてくれた。
「まだ荷物あるんで」
「ああ、ゆっくりな~」
障子紙は丸めてあるけどがさばるので他の荷物とは一緒に持ってこられなかった。相川さんは冷蔵品しか買わなかったので一度戻る必要はなさそうだった。
そして粛々と準備をし、陸奥さんたちと共に裏山へ出かけて行った。今回相川さんは猟銃は持ってこなかった。さすがにうちに置いておくわけにも、軽トラに置くわけにもいかなかったからね。銃の扱いは丁寧に慎重にが基本のようだ。
ユマは俺の側に残ってくれたので、俺の機嫌は途端に上向いた。ま、ユマじゃなくても誰か残っててくれればいいんだけどな。
……すみません、やせ我慢しました。
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