246.まだまだ確認しなければならないことは多いようです

 陸奥さんたちを見送ってから、俺はユマと共に川を見に行った。川を見に行くついでにろ過装置を確認しに行く。パイプのずれがないかどうかとかもろもろだ。そろそろ中身を入れ替えた方がいいのかどうなんだろう。交換は業者に頼んでしてもらわないといけないが。そういえばうちは川から水を引いているけど川の水が凍るということはあるんだろうか。水が動いている間は凍らないのかな。そして川自体が凍らないまでも、この辺りの管の内部の凍結とかはどうなっているのだろう。元庄屋さんに電話をしないとなと思った。

 家に戻って忘れないうちに電話をして聞いた。山倉さんはちょうど家にいた。


「その節は本当にありがとうね」

「いえ、大事がなくてよかったです」


 ぎっくり腰は十分大事だとは思うが、命に別状がなくてよかったと思う。

 挨拶をして、川と川から水を引いている管の話をしたら、気になるなら夜の間水を出しっぱなしにしておけば凍ることはないらしい。やっぱり出しっぱなしにしておかないとだめなんだなと思った。


「春には行くから。よろしく頼むわ」

「はい。またお待ちしてます」


 山倉さんは山の神様に挨拶をしにくるのだ。その時に息子さんが祠を持ってくるだろう。

 あの山の上までの道なぁ……どうしたもんかなぁ。ニワトリに案内してもらわないととても歩けたものではない。冬の間にどれだけ雪が降るかでいつまでぬかるんだままかとかも変わってくるんだろうな。

 どちらにせよ山の整備は春になってからだ。でも木は切っておいた方がいいかな。邪魔な枝とかを定期的に切っておけばそのうち薪とかに使えるだろう。いわゆる間伐である。

 障子の張り替えは明日することにした。どうせ俺の寝る部屋と奥の部屋ぐらいだ。ああでも、更に奥の部屋も片付けなければいけない気がする。あんまり入りたくないなぁ。

 暗くなる前に陸奥さんたちは戻ってきた。今日も調査をしていたようだった。


「思ったより山が深いし広いんだよな。生き物の分布も調べなきゃならんから……イノシシだのは狩れても週末になるだろう」

「お疲れ様です」


 温かいお茶と一口羊羹を出してみなを労った。ニワトリたちには洗った青菜をあげた。バリバリといい音を立てて食べている。そういえばうちのニワトリたちってかなり鋭い歯が生えてるんだよな……。


「いい音するね~」


 戸山さんが感心したように言う。


「うちのニワトリ、けっこう尖った歯が生えてて……」

「え? ニワトリって歯、あったっけ?」


 いつもにこにこ笑顔の戸山さんがいぶかしげな顔をした。

 やっぱりうちのニワトリはおかしいのだろうか。いや違う、きっと先祖返りだ。そうだ、そうに違いない。


「そういうこともあるかもしれねえな」


 陸奥さんはさらりと流した。そのさりげなさ、素敵です!


「ただなぁ……ポチ、タマちゃん、ユマちゃん。知らない奴の前では嘴は開かねえ方がいいぞ。ちょっとばっかり変わってるってだけで騒ぎ立てる奴はどこにでもいるからな」


 ニワトリたちはコッと返事をした。


「いい返事だ。佐野君ちのニワトリ共にはいつまでも元気でいてほしいからよ」


 ワハハと笑って、陸奥さんは一口羊羹に手を伸ばした。


「これはいいな。今度から飴の代わりに買っておいてもらうか……」

「村の雑貨屋で売っていましたよ」

「そうかそうか。近くで売ってるのはいいな」


 疲れた時は甘い物が一番だと俺は思う。煎餅は手持無沙汰な時にちょうどいい。この村で買える煎餅って基本固焼きだしな。こういうの食べてるから歯が鍛えられるのかと思った。

 日が暮れる前に陸奥さんたちは帰って行った。明日もぐるりと調査をするらしい。裏山の更に北には山が連なっている。それはこの村と隣の村が県の外れだということを示していた。


「佐野君ちの裏山の向こうはおそらく国有林なんだよな。明日改めて確認してみるわ」


 道路に面していない山の位置づけってどうなってるんだろう。国のものか、誰かのものなんだろうけど、うちの裏山の更に奥って、どうやって入るんだろう。まんま歩いてなのか? それは難儀だなと思った。


「相川さんちの裏山の奥の山ってどうなってるんですかね?」

「確か、国有林でしたよ。けっこうな広さがそうだったと思います。こちらから車で入れる道はありませんでしたが、もしかしたら別の方向から入れる場所があるのかもしれませんね」

「山の更に向こうの町とか、ですか」

「その可能性はあります」


 山を隔ててしまうとなかなか交流ってないんだろうな。つーか、元々村同士って志を同じくしてないから別れてたわけで。時代によっては敵同士だったかもしれないし、そう考えるとある程度の距離は必要だったのかもしれないと思った。

 迷惑かもしれなかったが、夜はユマの羽を撫でていた。手招きしてユマの羽を撫でていたら心が落ち着いてくる。それほど柔らかいというほどではないのだけど、俺はうちのニワトリたちがいいのだ。ポチもタマも撫でさせてくれないのでユマに甘えている。


「今度、また一緒に出かけようなー」

「オデカケー」


 ユマが羽を少しバサバサさせて嬉しそうに言う。まだ十二月も半ばなのに、早く春にならないかなと少しだけ思った。

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