221.今回のお土産はイチゴです
……でかいクーラーボックス持ってきてよかった。
そう思うような量を買って戻った。俺の買物はほぼ一冬分である。インスタントラーメンだのレトルトカレーが多いがそれはしょうがないだろう。冬野菜はあるので後必要なのは加工品とかもろもろである。豆腐はまた明日の朝村の店で買うことにしている。缶詰類も買った。サバ缶、近年人気上昇中のせいかなんか値段が上がっているらしいようなことを相川さんが言っていた。
おっちゃんちに頼まれたのは主に魚類だった。雑貨屋だと冷凍品しか扱ってないもんな。どうしても山間の村だから海の幸はなかなか手に入らない。寿司屋はあるので頼めば刺身の盛り合わせなども用意してくれるらしいが、普段使うにはそれなりにお高い店だ。
年末年始はもし動けそうならおっちゃんちで過ごさないかと言われた。そこらへんは雪の降り方にもよるだろう。今回おっちゃんちに行って、俺の着替えは二日分ぐらい置いてきた。もし身一つで移動することになっても大丈夫なようにである。昨日雪が降ったことでやっと慌てだすとか、俺ってば本当にやることが遅い。
だから婚約者にも逃げられたのでは? なんて声がどこかから聞こえてくるようだ。勘弁してほしかった。
無事おっちゃんちに着いて、荷物を下ろす。
「あら、おかえり~。思ったより早かったわね」
たまたま家の外で作業をしていたおばさんが気づいて手を振ってくれた。
「ただいま戻りました」
玄関のガラス戸を開けてもらって相川さんと二人でクーラーボックスを運び込む。頼まれた分だけ直接出してもいいが、できるだけ外気に触れない方がいいだろうという判断だった。もちろん中の食材を出したらまた俺の軽トラに戻すのだ。ごめん、相川さん。
「昇ちゃん、ありがとうね。助かるわ~」
食材を渡してお金をもらう。こういうことはきっちりしろとおっちゃんに口を酸っぱくして言われているのでなあなあにはしない。とはいえそのおっちゃんも俺には甘い。俺が金を出そうとすると渋るのだ。ここのところ毎回それで喧嘩になっている。結局おばさんが間に入って「昇ちゃん、いいのよ。気にしないで」と言ってお金を受け取ってもらえないのだ。なので手土産はできるだけいいものをと思っている。
「あら? これは?」
「いちごがおいしそうだったのでつい買ってきちゃって……おばさん、食べよう」
「この時期のいちごはまだ高いのにねえ。昇ちゃんありがとうね」
二パック買ってきたから陸奥さんたちも食べられるはずである。
こたつに入ってぬくぬくしながら食べた。そうしている間にみな山から帰ってきたようだった。
「おかえりなさい」
「帰ってきてたのか。相川君たちもおかえり」
ポチとユマは多少汚れていた。
「相川君、一応巣の跡は見つけたから明日にはまた捕まえられるかもしれない。準備しておいてくれ」
「わかりました」
陸奥さんと戸山さん、相川さんで猟の件だろう。話し合っているのを横目で見ながらポチとユマについている雑草などをざっと取り除いた。
「いやー、ポチ君とユマちゃんはすごいね~。おかげでかなりいろんな場所を見回れたよ」
ありがとうね、と言いながら戸山さんが教えてくれた。さすがにいつものスピードは出していないだろうが、基本的にポチもユマも先を歩くからつられて歩みも進むのだろう。しっかし日がな一日山の中を歩き回るなんてご苦労なことだ。しかも獲物を探しながらである。俺にはとても真似できない。え? お前は山暮らしじゃないのかって? さすがに一日中山の中を歩いたりはしていない。
「おっ? いちごか。贅沢ですね。いただきます」
「昇ちゃんが買ってきてくれたんですよ」
「佐野君、ごちそうさま」
「いえいえ」
陸奥さんと戸山さんに礼を言われた。そんな礼を言われるようなことでもない。
それなーに? と言いたげにポチとユマがやってきた。イチゴってバラ科だし種がついてるからあげちゃだめだよな? 実際はどうだか知らないけど……わからないのでおばさんから白菜の葉っぱをもらって渡した。二羽共おいしそうに食べた。
そうしているうちに日が陰ってきたのでおいとますることにした。
「じゃあそろそろ俺たちはこれで……」
「ああ、佐野君。明日ニワトリを貸してくれないか?」
陸奥さんが言う。
「いいですけど……何か見つかりました?」
「空の巣をユマちゃんが見つけてくれたんだ。多分この間のイノシシじゃなけりゃあ他にもいるに違いない」
この辺りどんだけイノシシ増えてんだよ。
「いいですけど……」
そう答えながらポチとユマを眺める。
「ポチ、ユマ、明日も手伝ってほしいってさ。明日も来るか?」
と聞いたら二羽ともコッと返事をした。だからお前らもどんだけイノシシ食べたいんだよ。雑食なんだろうけどそんなに肉食なのちょっと引く。
「じゃあ明日連れてきます。何時からですか?」
「できれば9時までには来てほしい」
「わかりました。添えるようにします」
明日絶対タマも来たがるに違いない。豊猟なのはいいことなのかどうなのか。こればっかりは俺にもわからないのである。ちょっとだけ遠い目をしてしまった。
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