220.冬準備の買い出しに行くことになりました

 午後は相川さんとN町に買い出しに行くのでポチとユマを預かってもらえないかとおっちゃんに連絡したら、


「お前ら仲いいな。うちの分も頼んだら買ってきてもらえるか?」


 というので二つ返事で引き受けることにした。さっそく大きめのクーラーボックスを用意する。


「ポチ、ユマ、明日はおっちゃんちに寄るからそこで待っててくれるか?」

「ワカッター」

「……エー」


 ポチの返事はよかったがユマには不満そうな声を出された。だからそういうのどこで学んできてるんだっての。


「ユマ、リンさんは冬は山から出ないんだってさ。だから明日出かけても相川さんと二人なんだよ。話し相手はいないんだ」

「……エー」

「おっちゃんちで陸奥さんたちとデートしててくれよ」

「デート?」


 ユマがコキャッと首を傾げる。


「うん、遊んでもらってくれ」

「デート」

「うん、毎日俺と見回りしてるだろ? あれもデートだよ」

「デート!」


 ユマがよくわかってないけど楽しそう! というかんじで羽をバサバサさせた。ユマって本当にかわいいなぁ。思わずデレデレしてしまう。ふと視線を感じてそちらの方を見るとタマに冷たい眼差しを向けられていた。ひどい。

 翌朝は霜は降りていたが雪は降らなかった。俺はほっと胸を撫で下ろした。


「セーフ……」


 これからはいつ雪が降ってもおかしくない。一応発電機用のガソリンはそれなりに買ってある。プロパンガスもしっかり補充してある。この辺りの電線には雪がたまらないようにそれなりの対策はされているようだが、それでも油断は禁物だ。水は最悪雪を溶かすこともできる。あまりしたくはないけど。そんなわけでミネラルウォーターも二箱ぐらいは常備している。ここは簡単に陸の孤島になりえる場所だ。最悪を想定して備えをすれば、どうにか一冬越せるぐらいの準備はできるものだ。まぁそれも土地が広いからできるんだけど。

 ポチは午前中パトロールするらしい。太陽が中天に差し掛かる前に帰ってこいとは言っておいた。戻ってこなかったらユマと行けばいい。ただできればみんなうちでお昼も食べてほしいなと思った。俺はおかーさんか。

 ポチもタマも昼には戻ってきたのでみんなでごはんを食べ、その後はタマに見送られておっちゃんちに向かった。もちろん家の鍵は開けてあるので万が一俺が戻ってこれなくても家の中には入れるし、寒い時はオイルヒーターをつけるように言っておいた。嘴で優しくを実践させたから壊しはしないだろう、たぶん。壊さないでほしいなあ……。

 おっちゃんちに着くとみんな縁側でお茶を飲んでいた。この寒いのになんで縁側。


「おお、佐野君か」

「こんにちは、陸奥さん。相川さんをお借りします」

「ああうん、連れていくといい」


 相川さんはもうオレンジのベストなど狩猟仕様の服は脱いでいた。今日は元々銃火器も持ってきていないらしい。


「銃を人に預けるわけにもいきませんので」


 確かにそれもそうだ。N町に持って行くのも人の不安を煽るから止めた方がいいしな。いろいろ制限があるものだ。


「ポチ、ユマ、おっちゃんたちの言うこと、よく聞くんだぞ」


 ポチとユマはコッと返事をした。


「おー、昇平来たのか。ちょっとリスト持ってくるから待ってろ」

「はーい」


 ユマは陸奥さんの前まで行って首をコキャッと傾げた。


「ん? どうしたユマちゃん。一緒にデートするか?」


 陸奥さんがにこにこして言うと、ユマは頷くように首を動かした。


「そうかそうか。ユマちゃんは優秀だなぁ。じゃあおじさんと一緒に少しだけ山に登ろうか?」

「ポチ君は僕と一緒に登るかい? でも勝手に駆けて行ったらだめだよ」


 戸山さんがポチに声をかけてくれた。ポチも頷くように首を動かした。なんでうちのニワトリたちはそんなに山が好きなのか。って山育ちだからか。ようは山の方が落ち着くんだな。


「昇平、これで頼むわ」

「わかりました。お預かりします」


 メモを受け取って確認する。わからないものがあっては困るからだ。


「ん? ニワトリたちも山に登るのか?」

「陸奥さんと戸山さんが連れて行ってくれるみたいです。事前に勝手な行動をしないように言っておけばいなくならないので大丈夫だとは思います」

「つくづくお前んとこのニワトリは優秀だなぁ」


 おっちゃんが感心したように言った。ええ俺にはもったいないくらい頭がよくていい子たちです。誰にもあげません。


「すみませんがよろしくお願いします」


 頭を下げて相川さんとN町に向かった。相川さんも戸山さんに何か買物を頼まれたようだった。久しぶりに大蛇もニワトリもいない二人行動なので、なんとなく二人でコーヒーショップに入った。

 温かいブレンドコーヒーを一口飲んでため息を吐く。こんな、ただ誰かと店でコーヒーを飲むなんていうのは久しぶりだなと思った。(相川さんの関係で喫茶店に付き添ったのは含まない)


「「……あの……」」


 二人で同時に話しかけてしまい狼狽えた。見合いじゃないんだぞ。


「……あ、相川さんどうぞ……」

「すみません、大したことじゃないんですけど……」


 相川さんが苦笑した。


「こうやって、店に入ってコーヒーを飲むなんてことは久しぶりだなと思ってしまいまして……。これも全て佐野さんのおかげです」

「え? 俺、何もしてませんけど?」

「佐野さんが覚えていなくてもそうなんですよ。感謝だけさせておいてください」


 夏の頃のことを言っているのだろうか。相川さんといい桂木さんといい俺に恩を感じすぎである。とはいえそんなことはないと否定し続けてもしょうがないので黙ることにした。とりあえずコーヒーはおいしいし。

 そうして冬に必要なものなどをお互い確認してからスーパーへ買い出しに向かった。やっぱり一人で備えるより二人で考えた方が漏れが少ない。そんなわけで荷物がすごい量になったのだった。

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