219.冬の山は雪かき三昧らしい

 ポチとタマが無事帰ってきたので、タライにお湯と水を混ぜてばしゃばしゃ洗った。だんだんお湯の分量が多くなる。しかも冷めるのも早いし。乾かすのにドライヤーをと使ったらポチとタマが何事!? というような顔をした。ちょっと面白かった。その後タマにつつかれた。なんでだ。

 夕飯にはイノシシの内臓をあげた。念の為玄関の外で、ビニールシートの上で。どうしてもスプラッタな光景になる。無我の境地にいかなければ直視できない。

 食べさせて片付けをしながら先に洗うんじゃなくて後で洗えばよかったなと思った。足や口元はぬるま湯ですすぎ、羽に汚れがないかとどうか確認した。意外とキレイに食べてくれたようだった。それにしてもやはり内臓は臭う。耐えられなくてポチとタマをまたざっと洗い、ユマとお風呂に入ってさっぱりした。

 二回も洗われたことでタマは不機嫌そうだった。お風呂から出たらつつかれそうになったので白菜を夜食代わりにあげたらそれを食べた。もちろん三羽共にである。


「それにしても……大きくなったなぁ……」


 しみじみと呟く。ポチの背がもう俺の胸の辺りまである。大体130cmぐらいはあるんじゃなかろうか。このまま育ったら俺の背を超えるのか? さすがにそこまで育つと軽トラには乗せられない気がする。


「お前らが育ってくれるのは嬉しいんだが、これ以上大きくなると軽トラに乗せられないぞ」


 以前にも伝えてはいるが再度言う。言ったところでうちのニワトリたちがコントロールできることではないと思うが、言わずにはいられなかった。ニワトリたちがショックを受けたような顔をする。ショックじゃあないけどびっくりしてるのは俺の方だよ。

 そんなやりとりをしていたら相川さんから電話がきた。


「もしもし、相川さん。ありがとうございます」

「いえいえ、寒くなりましたね~」


 テンさんは無事冬眠用の小屋に入り、春を待っている。リンさんは動きは鈍くなったもののまだ自分で獲物を捕らえて食べているらしい。もちろんイノシシの肉と内臓をあげたら喜んで食べていたそうである。よかったよかった。


「雪降りましたね。もう12月ですから降ってもおかしくはないんですけど……」

「そうですね。平地に比べると降雪は早いですし、積雪もそれなりにあります。12月の終りには辺り一面真っ白になりますよ。買い出しは終えられましたか? それともご実家に?」

「明日N町に買い出しに行こうかとは思ってます。今年は実家には帰りません。……まだ家族と顔を合わせたくないので」

「そうですか。僕も帰るつもりはないので、一緒に過ごしませんか?」

「それもいいですね」


 男二人で年末年始とかやってらんないと思うけど、今は女性と過ごしたいとは思えない。来年のクリスマスになれば寂しいと思うようになるのか、それも未知数である。

 雪深くなれば軽トラも走れなくなるかもしれないが、足があるのだ。時間はかかるかもしれないけど歩いていけばいいと思う。……もちろん降ってない時だけだけど。


「今日ぐらいの雪であれば雪かきも必要はありませんが、積もるようになったら雪かきはした方がいいですね。道路の雪はできれば箒で掃いてください。絶対にお湯などは流さないように」

「ああ、凍るからですか」

「ええ、つるつるになりますから水とかお湯は絶対だめですよ」


 めんどくさいからと撒きそうだった。なにせうちの山、川が多いから水だけは豊富だし。危なかった。


「融雪剤とかってどうなんですか?」

「うーん……道路には有効だと思いますけど相当使わないと溶けませんし、それにニワトリさんたちが歩く危険性を考えると撒かない方が無難でしょうね」

「……けっこう有害だったりします?」

「融雪剤は塩化カルシウムですからね、靴を履いていれば問題ないですけどニワトリさんたちは素足でしょう。火傷しますよ」

「それは怖い」


 やっぱり聞いておいてよかった。となると地道に雪かきをしないといけないようである。冬はそれほどやることがないのかなと思っていたが雪かきに明け暮れることになりそうだ。


「でも佐野さんちには来週から僕たちが行きますから、雪かきは手伝いますよ」

「え? でも相川さんちも雪かきしないとじゃないですか」

「うちはリンがかなり活躍するんですよ。あの尾で道路の雪ぐらいなら一掃します」

「えええ……」


 リンさんありえない。怖い。やっぱ大蛇とんでもない。

 リンさんが特別なのかもしれないけど……。


「その分餌は豊富に与える必要はありますけどね。狩猟免許が役に立って何よりです」


 怖いよー、怖いよー、怖いよー。おまんま十分にあげないと自分が餌になるよー。

 なんとなく「鬼の腕」という民話を思い出した。一日一合の酒をかければ疲れも知らず働くという鬼の腕の話である。ケチな主人は酒を減らしていき、水で薄めたりしたことで最後は鬼の腕に縊り殺されてしまうというような結末だったはずだ。相川さんがそんなことをするとは思えないが、


「相川さん、リンさんのこと大事にしてあげてくださいね」


 と言わずにはいられなかった。

 明日も相川さんはおっちゃん宅に行くが、午後は買い出しに行こうか迷っていたらしい。なので午後はおっちゃんちで合流して買い出しに行くことにした。


「リンさんは……」

「この時期になると山を下りたくないみたいなんです。なので春までは山から出ませんね」

「そうなんですか」


 寒さで動きも鈍くなるというしいろいろあるんだろう。


「明日は買い出しに出かけるけどどうする?」

「イクー」

「イカナーイ」

「イクー」


 タマは留守番と。珍しくポチもドライブに行くようだ。おっちゃんちに寄るって言ったからそこで一旦預かってもらってもいいかもしれない。おっちゃんにも電話をかけることにした。

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