215.肉食系が多すぎる

「佐野さん、こんにちは~。連絡が遅くなってしまってごめんなさい」

「あ、おにーさんだ。こんにちはー」


 おっちゃんちの玄関の扉を開けると、最初に挨拶を返してくれたのは桂木姉妹だった。玄関から台所の一部までは土間になっているのだ。おかげで夜はニワトリたちをここで休ませてもらうことができる。とても助かる家の造りだ。


「昇ちゃんいらっしゃい。ポチちゃんたちがまたイノシシを狩ったんですって? すごいわねぇ」

「おばさん、こんにちは。いつもいつもすいません」


 頭を下げる。おばさんがアハハと笑った。


「何もすまながることなんてないわよ。むしろいっぱいイノシシが食べられて嬉しいぐらいだわ。イノシシは特に身体が温まるからありがたいわよ。それに……」


 おばさんがちょっと心配そうな顔をした。どうしたのだろうか。


「本当に余った分はみんなで分けてしまっていいの? 昇ちゃん無理してない?」


 かえって俺が心配されてしまった。


「あー、その……内臓はほとんどニワトリたちにもらいますけど、肉はもらってもうまく調理できないので……。情けない話ですけどね」


 頭を掻く。


「それぐらい教えてあげるわよ?」

「いやー……みなさんとわいわい食べるのはおいしいんですけど、豚肉の方が好きなんで」


 正直イノシシはうまいと思う。でもそこまで手間をかけて食べたいかというとそうでもないのだ。それだったら豚肉のブロックを買ってきて食べている方が俺にはあっている。ようは面倒くさがりなのだ。


「そう? ならありがたくいただくけど……」

「佐野さん太っ腹ですねぇ」


 桂木さんがふふと笑う。


「え? 俺腹出てる?」

「そういう意味じゃないですよ、もう!」


 適当にじゃれて表に出た。女性陣が台所にいる間はあまり邪魔をしてはいけないのである。特におばさんは男が手伝うのを嫌がる。それはきっと昔からの慣習によるものなのだろう。そんなわけで外に出るとニワトリたちが軽トラの周りで待っていた。ちょっと悪いことしたなと思った。

 どうやらおっちゃんも見かけていないようである。畑の方へニワトリたちも一緒に向かうとおっちゃんと陸奥さんの後ろ姿が見えた。


「こんにちはー!」


 声をかける。二人は振り向いて手を振ってくれた。


「おー、昇平と、ニワトリ共来たかー。今日は肉が大量だぞ。たんまり食えよ」


 おっちゃんに声をかけられてポチがクワァーッ! と威勢よく鳴いた。「タベルー!」とか言い出さなくてよかった。


「佐野君とニワトリ共、お疲れさん。うちの方でもまた狩りをしてくれな。そん時は呼ぶから」


 陸奥さんが煙草を片手ににこにこしながら言う。ポチがクァックァツと鳴いた。足がタシタシしている。とても危ない。


「ポチ、タマ、また今度だからな。そのうち、だからな。今日明日の話じゃないからな」


 そう念を押すとタマにそっぽを向かれた。わかってるわよと言いたげである。そのツンの部分、もう少しデレに変えてくれませんかねぇ。


「相川さんと戸山さんはまだ上ですか?」

「ああ、ぎりぎりまで見回るとは言っていたよ。明日も明後日もあるから、できるだけ捜索範囲を潰してくれているんだろう」


 ありがたいことだなーとおっちゃんが言う。雪が降る前にどうにかしたいと思っているのはみんな一緒だ。この辺りは三月ぐらいまでが狩猟期間だが雪が降ればそれだけ機動力が落ちる。早めに狩れるだけ狩っておきたいに違いなかった。

 ニワトリたちは畑の中で虫をつついたり残っている草をつついたりしている。なんとものどかな光景だった。……大きさと爬虫類系の尾を見ないようにすれば……。


「……やっぱ先祖返りなんですかねぇ……」


 ニワトリたち、ディアトリマ系なのかなと思ったけどディアトリマにあんなトカゲっぽい尾があったなんて聞いたことはないからどうなんだろう。やっぱマニラプトル類なのかもしれない。


「ニワトリか? どうなんだろうなぁ。ま、平和なんだからいいじゃねえか」

「そうだなあ。佐野君ちのニワトリにはみんな助けられとるし、平和が一番だ」


 おっちゃんと陸奥さんにそう言われてその通りだなと思った。アイツらがものすごく狂暴で、人に危害を加えるとかでなければいいだけの話だ。


「そうですね」


 だんだん東の空が暗くなってきた。そろそろ相川さんたちが戻ってこないかなと少し心配していたら、相川さんと戸山さんが戻ってきた。オレンジ色のベストを着ているからすぐわかる。俺は二人に軽く手を上げた。

 みんなで連れ立って家の方に戻っていくとちょうど秋本さんがイノシシを運んできたところだった。またみんな目の色が変わっている。どんだけイノシシ肉が好きなのか。


「……今日はみなさんちゃんと昼ごはんは食べられたんですよね?」

「ええ、さすがに食べましたよ。おにぎりを二個ぐらい」

「山の中歩き回るには足りないですよね、それ」

「これからごちそうじゃないですか」


 相川さんがにこにこしながら答えてくれた。それでいいのか。うん、いいんだろうな。

 今日は庭でBBQもするらしい。みんなで器材を準備している間に女性陣が下ごしらえをしてくれた。なんというか、うん、今回もイノシシ祭りである。



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料理のバリエーションはこれから増えていきます~

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