196.カレーは作ってみた
「用意してあるからいつでもおいで~」
養鶏場に電話するとこういわれてほっとした。決して忘れていたわけではないのだ。いただいてきたポリバケツの中身が心許なくなってきたのは気づいていたが、なんというかタイミングがつかめなかったのである。
……すいません、忘れていました。ごめんなさい。急いで買ってきます。
というわけで翌日は養鶏場に餌を買いに行ってきた。冬の間の分ということで、とりあえず自分で持てそうな分を考えて45リットルのポリバケツを三つ用意した。
「けっこう重いが大丈夫かね?」
養鶏場のおばさんに心配されてしまった。腰で持ち上げなければなんとかなった。台車を借りて軽トラまで運び、荷台に乗せた。それにしてもけっこう重い。餌の重さ舐めてました。やヴぁいです。今日は餌を買ってくるだけだと言ったら、ポチもタマも山のパトロールに行ってしまった。だけどユマは当たり前のようについてきてくれた。ドライブのお供がいるのって幸せだなって思った。
桂木妹について連絡があった。冬の間の過ごし方を桂木さんも話したらしい。山はとても寒いということ。山中さんの家にお邪魔してもいいが、山の上じゃなくても実家よりは冷えるということ。(女性にとって冷えは大敵であるようだ。いや、俺も寒すぎるのは勘弁してほしい)
この村は十二月の半ばからは雪がそれなりに降り始め、二月の終り頃まではほとんど外出ができなくなること。その間にこちらで何をしたいか、何ができるかしっかり考えてからにしてほしいということは伝えたそうだ。
そして冬の間、何をどうしたいかということを考えた桂木妹は、まずN町の教習所に通うことにしたらしい。桂木さんも妹を心配して雪が降る前は山で面倒をみることにし、山に雪が降り出してからはN町にホテルをとって教習所の最終試験が合格するまでは見守る形をとるそうだ。それらの費用は親持ちだというのだから、この辺りの物価が安いとはいえいいところのお嬢さんなのだなと思った。
最終試験に合格した後は一旦地元に戻って筆記試験を受けるそうだ。晴れて免許を取ってからこちらに戻ってくるかどうか考えるらしい。その間に元カレが諦めてくれれば実家に戻るだろう。そうでなかった時が厄介だなと思った。
ちなみにそろそろタツキさんは冬眠に入るらしい。だから冬の間の方が留守にはしやすいそうだ。それでも何日かにいっぺんは様子を見に戻ってくるようだとは言っていた。生き物を飼っているのだから責任はとらなければならない。雪さえ降らなければ俺も様子を見にいってもいいとは思うが、さすがに慣れない雪の中車を走らせるのは危険である。ましてうちらが住んでいるのは山だ。気軽に引き受けることもできなかった。
先のことは今考えてもしかたがない。とりあえず俺たちはできることをやるだけである。
そうして、陸奥さんたちが来る日を迎えた。朝からカレーを沢山作る。スパイスの匂いがアレなのか、朝ごはんを食べるとポチとタマはすぐに家から出て行ってしまった。ユマもトトッと家の外に出たから、あまり好きな匂いではないのかもしれない。
今日は建物などの確認ということで、陸奥さんたちは十時頃にやってきた。もちろん今日陸奥さんたちがいらっしゃるということはニワトリたちに言ってある。報・連・相は大事である。その相手がニワトリであってもだ。不審者と勘違いされて攻撃されてはかなわない。
今回はおっちゃんも見にくると言い出したので麓の柵の鍵は開けてもらうことにした。
「こんにちはー」
「こんにちはー、佐野君」
相川さん、おっちゃんも来たので、陸奥さん、川中さん、畑野さん、戸山さんの総勢六名である。みんな各自軽トラで来たので駐車場として使っている場所がぎゅうぎゅうになった。どうにか全部停められてよかったと思う。
「来ていただいてありがとうございます。今日からよろしくお願いします」
「今日は見るだけだがな。建物によっては足場を組まにゃならんか」
「そうですねー、足場板どうしましょうかー」
「うちに板状のものはけっこうありますから、持ってきますよ」
廃屋を見ながら、みながあーでもないこーでもない言い合う。足場かーとか思いながら眺めていたら、戸山さんに苦笑された。
「佐野君、何かあったら声かけるからそれまではいつも通りにしててくれ」
「はーい」
本当に彼らだけでどうにかしてくれるらしい。ところでおっちゃんはなんで混ざってるんだろう。
まだ話の段階であるが、廃屋の解体をして片付けた後の場所を狩りの拠点にしたいようなことを言われている。どうせ全く使っていなかった土地なので冬の間だけならかまわないと伝えた。問題はここから裏の山に向かう方法だ。だがうちのニワトリたちが裏山に行っているのではないかという話をしたので、ニワトリに案内させることも考えてはいるらしい。そこらへんはポチとタマに直接交渉してもらうよう言ってある。
まだいろいろ始まったばかりだが、今年の冬は賑やかになりそうだなと思った。
ーーーー
レビューコメントいただいてしまいましたー! ありがとうございます!
全体を通して話がまったりですが、このまま進んでいきまするー。
初リワードいただいて嬉しかったので近況ノートを書きました。ただの自慢です(えっへん
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます