十一月頃

194.11月になりました

「うむ、そろそろわしらの出番だな」


 裏山解放しますって話をしに陸奥さん宅へお邪魔したら、陸奥さんがもう猟銃の手入れをしていた。今年は超張り切っているらしい。息子さん夫婦が苦笑していた。

 今日は相川さんが一緒である。ニワトリたちも今日は全員来ていた。裏の林が気に入ったようだった。

 今日も陸奥さんは畑で作業をしていたらしく、軽トラを停めたら家じゃない方向から現れた。


「こんにちは、陸奥さん」

「おお、こんにちは、佐野君、相川君。ニワトリたちは……またでかくなってないか?」


 陸奥さんは目を見開いて、ニワトリたちをまじまじと眺めた。苦笑する。


「そうですね。以前こちらに来た時より縦に伸びている感じはします」

「まあゆっくりしていってくれ。なんだったらまたイノシシでも狩ってくれると嬉しいがなぁ」


 まずい、と思った。ポチが聞いた途端林の方に向かってタシタシと走る準備を始めた。


「待て! ポチ、待て!」

「どうかしたのかい?」


 陸奥さんは不思議そうな顔をした。


「今日は夕方には帰るから! ちょっと暗くなってきたら帰ってくること!」


 ポチとタマが途端に不満そうな空気を出す。いつ覚えたんだそんなこと。


「遊んできてもいいけど、イノシシは見つけたらで! わかった?」


 ポチはしぶしぶクァー! と鳴いて返事をした。よし。だがタマに睨まれてしまった。余計なこと言いやがって、というように。いやいや、いくらなんでも予定してないのに泊まるわけにはいかないだろ? おっちゃんちじゃないんだし。


「ユマも遊んできていいよ? 中に入るから」


 ユマは頷くように首を動かすと、ポチとタマと共に林の方へ駆けて行った。一安心である。


「……佐野君、なんかあったのかい?」

「あー、ええと、その……」


 以前おっちゃんのところの山で起きた出来事をかいつまんで話した。それで陸奥さんも納得してくれたようだった。


「そうか……確かに下手なこと言って真に受けたらたいへんだな。わしも気をつけよう」

「いえ、うちのがすみません……」

「今度来る時は泊まりで来たらいい。イノシシだのシカだのの被害はけっこうたいへんでな~」

「そうですよね」


 狩猟の時期なのでみな猟銃の手入れは念入りに行っているようだった。ただ基本は罠猟らしく、すでに罠も設置しはじめているらしい。銃を使うのは最終手段だと思っているようだった。確かに人がいないところならいいけど、そうじゃなかったら危ないし。


「それで? ニシ山とサワ山の裏山を開放してくれるんだっけか?」

「はい、お願いします」

「こっちも確認しとくよ。許可してもらえるのは助かるからよ」


 許可のない山にはそう簡単に入るわけにはいかない。それは狩猟の時期でも変わらない。ただ裏山に関して言うと分け入る為の道もないので勝手に人が入るとも思えないのだが。

 でも、自分の山だと思ってたのに見知らぬ人が住んでたりしたらやだなぁ。それはいったいなんのホラーだろうか。俺は思わず身震いした。

 そして、狩りもそうなのだが今年の冬はうちの山の使っていない家屋の解体も頼んでいる。それはそろそろスケジュールを合わせて来てもらうこととなった。相川さんの狩猟仲間ということで、夏に会った面々にお願いする形だ。


「安心しろ。佐野君には一切手伝わせねえから」


 頼もしいお言葉をいただいた。

 うん、実は家屋の確認とかしたくないんだよな。謝礼をしっかり用意すると言ったらおじさんたちがはりきってしまって、全部やってくれることになったのだ。もちろんごみ処理などの費用も俺が負担する。ちょっと懐は痛むが必要経費だと割り切った。食事の用意なども俺がすることになった。それぐらいは当然させていただきます。

 金の話ついでだが、山の上の祠については元庄屋の山倉さん一家が用意してくれることになった。俺が水を供えたことで神様が教えてくれたのだとどうしても聞かない。山倉さんのぎっくり腰は大分よくなって、そろそろこちらに戻ってこられるようだった。その時は息子さんの圭司さんがこちらに寄っていくという。


「申し訳ないんだけど、その時に祠のあった場所に案内してくれないか?」


 と言われたので快諾した。今のところ毎日登るということはできていない。登りやすい道が整備できれば、と思うところである。そこらへんのことも圭司さんが来てから相談することになった。まあ、祠以外の金を出してもらう気はないが。

 話を戻そう。

 今日は陸奥さんの息子さん夫婦に負担をかけないようにと午後にお邪魔した。当然ながら手土産持参である。陸奥さんの奥さんがにこにこしながら一度仏壇に捧げ、その後お嫁さんに渡していた。お嫁さんから礼を言われた。今回の手土産はお孫さん用にお菓子の詰め合わせにしたのだった。そういうお菓子をあまりあげてない家だったら迷惑だったかも、と後で思ったりはした。(家庭によってはというやつである)

 午後に行ったからポチとタマはすぐ帰ってくることになって不満だったようだ。


「今度泊りでお邪魔することもあるみたいだから、そん時な~」


 とフォローしておいた。言ってからお嫁さん聞いてないよな、とどぎまぎした。


「じゃあすみませんがよろしくお願いします」

「わかった。みんなに言っておくよ」


 狩猟よりもまずうちの使っていない家屋の解体に来てくれることになった。一週間後ということで、とても楽しみだなと思った。

 さて、ごはんは何を用意しようか。


「やっぱり肉の方がいいんですかね?」

「年寄りが多いですから、どうでしょうね。肉も炒め物とかならいいでしょうが、揚げ物はやめておいた方がいいかもしれません」

「そうですね」


 相川さんに相談したらそう答えられた。やっぱり思い込みは危険だ。


「好みを聞いておきましょうか。それを作る作らないに限らず参考になるかもしれませんし」

「お願いします」


 そうして、俺は俺なりに準備を整えていくのだった。

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