193.台風一過のようなかんじ

 笑顔で桂木両親と妹の乗った車を見送った後、みんなしてふう、とため息をついた。ユマがどーしたの? と言うようにコキャッと首を傾げる。ああ、ユマがかわいい。


「ユマ、もう少しいるから遊んできていいぞ」


 ユマはわかったというように羽をばさばさ動かして畑の方に駆けて行った。うん、後ろ姿の尾がすごく長いしトカゲっぽいけどかわいい。

 で、おっちゃんちの居間に戻り、俺たちは示し合わせたようにぐでっとした。別に何も悪いことはしていないのだが、未成年の娘の親に会うというのはみな思ったより緊張したようだった。


「みやちゃん、リエちゃんはもうこちらに来ることはないのかしら?」


 少し残念そうにおばさんが聞く。


「んー、ちょっとそこはまだ私にはわからないんですよね。わかり次第お伝えします」

「わかったわ」


 漬物がうまい。心を落ち着かせるには漬物が一番であると俺は思う。


「いやー、なんか緊張したなー」

「何もしてないじゃないの」

「年頃の娘さんの親が来たんだぞ? あけちゃんとふみちゃんのご両親と挨拶した時を思い出しちまったよ」

「そうねえ、懐かしいわねぇ」


 あけちゃん、ふみちゃんはおっちゃんの息子さんたちのお嫁さんである。桂木さんは嫁に来るわけではないが、その親がわざわざ……というだけで緊張するものらしい。俺だけじゃなくてほっとした。


「すいません、本当にご迷惑をおかけして……」


 桂木さんが申し訳なさそうに頭を下げた。


「あら、みやちゃんが気にすることないのよ? こっちが勝手に緊張したんだから。別に何も悪いことしてないんだからそんなに緊張することないのにねえ」


 女性は強い。おばさんの強心臓を少し分けてもらいたかった。


「そういえば、イノシシの被害はどうですか?」

「……また流れてきたっぽいな。ゴミなんかは片付けるようにしてるんだが、土が柔らかいところを掘り返すからどうしようもねえ」

「困りますね」

「この時期は特にな」


 本当に農家はたいへんだと思う。夜は電気柵を利用しているようだが、それでも柵の下を掘って入ってきたりするのでどうしようもないらしい。やっぱりうちのニワトリを貸すようなんだろうかと思ったりもするが、毎晩ではないから泊り込むのも現実的じゃない。やはりそろそろ始まる狩猟シーズンで、猟師さんに山を開放するしかないのだろう。


「猟友会には声かけてあるから、それで減りゃあいいけどな」

「そうですね」


 冬の間に数が減らせるかどうかが問題だ。


「イノシシはうちの方はそれほど見ませんけど、うちはどうしても鹿が多いですね」

「タツキさんに頼んで捕ってもらえればこっちで解体は頼めるぞ」

「ですよねー。内臓だけ食べるって食べ方やめてほしいなぁ」


 桂木さんがぼやく。ドラゴンさんの狩りはなかなかワイルドのようだった。ワイルドじゃない狩りってどんなんだろう。

 そんなこんなでぐだぐだしてみんなおのおの帰って行った。相川さんには翌日訪問しますと言っておいたので、翌日は相川さんちに向かった。山の神様の祠を見せてもらう為である。お供はポチとユマだった。タマは「イカナーイ」と言ってぷい、と顔を背けた。あんまり暴れないように言ったが、どうせいつもと同じだろう。それでも一応言っておかなければいけないことである。

 ニシ山の山の神様の祠は、相川さんの家から少し上がったところにあった。そこに先祖代々の墓もあった。一緒にあるって便利だなとか、ちょっと不敬なことを考えてしまった。ごめんなさい。先祖代々の墓の外れにある祠は、長くそこにあることを表していて、ところどころ苔むしていた。手前につけられている紙垂(しで)が新しいことから、それは相川さんが付け直したのだろうということはわかった。


「紙垂は改めてつけたんですよね?」

「はい。せっかくなので」


 ニシ山の神様に挨拶をし、この山に住んでいた人々の墓にも手を合わせた。

 祠の現物を見たことで大体のイメージができた。後は祠自体をネットで買うか、オーダーメイドで注文するか、もしくは自力で作るかである。それについてはまだ決めていない。相川さんの家で話し合った。


「自力でもいいですけど、使う木材が乾いてないとすぐには制作できませんよね」

「そうですね」


 そうだ。木材はいくらでも山から調達はできるけど乾かさないといけないのだった。薪だって、切ったらすぐ使えるというものではない。


「確か1年半ぐらい乾かさないといけないんでしたっけ?」

「そうですね。それぐらい乾かすのが理想ですが、実際は1年ぐらいでも薪としては使ってますよ。たまに乾きが悪いのだと煙が出たりもしますけど……」


 そこに山の神様がいることがわかっているのに1年半も放置するのはどうかと思う。


「ネット注文ですかねー」

「それか、村の人に頼んで作ってもらってもいいんじゃないですか。もちろんお金は払って」

「確かに、それもいいですよね」


 なんて話をし、そのまた翌日はリンさんとテンさんにうちの山に来てもらった。今年最後のアメリカザリガニ狩りである。タマが相変わらずとても嫌がったがこれだけは譲れない。

 俺は川魚が食べたいんだよお!

 相川さんたちが帰った後はタマに盛大につつかれた。いくら大蛇が嫌だからってひどいと思う。


「マムシとかヤマカガシは捕まえて食べてたのに……」


 ぼやいたらああ? とガンつけられた。タマさん超怖いっす。ごめんなさい。

 そんなことをしている間に11月になった。

 狩猟の季節到来である。


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