191.大事なことを忘れていたかもしれない

 おばさんの作った筑前煮がうまい。秋冬の根菜がたっぷり入った煮物が最高である。ほくほくと食べていると、


「これも作ってみたから食べてみて~」


 と、タケノコとシイタケの炒めみたいなものが出てきた。味付けは醤油ベースで中華っぽい。


「あ、おいしい。おばさん、この料理何?」

「中華料理でね~シャオアールドン(焼二冬)っていうんだって。どんこと冬タケノコの醤油炒めよ~」

「へー。冬タケノコ?」

「中国は冬でもタケノコが獲れるんですかね。暖かい地方なのかな」

「ああ、そういうこと」


 中国広いもんな。どんな食材でもありそうだ。ちなみに日本でも冬タケノコが採れる地域もあるらしい。(四方竹、中国原産で高知県が有名)

 相川さんとわちゃわちゃ言い合いながらごはんが進む。今日は泊まらないからビールはなしだ。食うしかない。


「おばさん、煮物おいしーい!」

「あらよかったわ。いっぱい食べてね~」


 桂木妹も嬉しそうにもりもり食べている。桂木さんは妹に比べると食べ方がちまちましていて女の子だなって思った。(あくまで俺から見た女の子のイメージだ。豪快に食べる子も好きだ。って誰に言い訳をしているのか)


「おばさんこういう料理ってどこで知るワケ?」

「TVとか~……たまに町で料理の本を買ったりするわね~。昇ちゃんたちはどうしてるの?」

「俺は主にネットですね」

「今時ねぇ」


 今はスマホで大概のことは調べられるし。もちろん紙で見たいなってものは本を買ったりもしている。音楽も配信……と言いたいところだがPCがあるのでCDは買っている。


「あ、あと一時間ぐらいで山中さんちに着くって」

「まだ食べる時間あるよね!」


 御両親があと一時間ほどで村に着くようだ。二人は慌てて料理をもぐもぐと食べた。よく食べるっていいことだと思う。


「ちゃんと噛んで食べろよ~」


 おっちゃんがそれを見ながらガハハと笑う。確かにサツマイモの天ぷらは肉厚ででかいから、急いで食べたら喉に詰まりそうだ。ちょっとだけハラハラしてしまった。

 これは、というのはこっそり自分の皿に移して俺たちはゆっくり食べる。


「レンコン、もうひとかけら~!」

「リエ、そろそろ行かないと」

「レンコンを食べる余裕ぐらいあるはず!」


 筑前煮に入っていたレンコンをもぎゅもぎゅと食べて、桂木姉妹は一度ぺこりと頭を下げて出かけて行った。


「気をつけて行ってこいよ~」

「はーい」


 二人がいなくなった後は途端にシーンとなった。まるで台風のようだったなと思った。


「また後で来るんだろうけど、急がないで食べてね~」

「はい」


 野菜のかき揚げはうまいし、鶏の唐揚げもうまいし、また俺は食べすぎてしまった。


「ふー……」

「あら、昇ちゃん、もういいの?」

「食べすぎです」

「そーお?」

「そうなんです」


 なんでもてなしをする方は食べきれない量を用意しようとするのだろうか。足りないよりは多い方がいいって考え方なんだろうな。俺も誰かを招く時はそれなりに気にするし。相川さんも思ったより食べ過ぎたようだった。


「大勢で食べるのっていいですよね。いろいろ食べられて」

「そうですね~」


 食休みを少ししてからは、桂木姉妹が戻ってくる前にとおばさんの手伝いをして片づけをした。


「もーお皿とかいいのに~」

「運ぶだけですから」


 おばさんは男子に台所仕事を任せるのは嫌なようだ。自分の台所だからかもしれない。食器の片づけをした後はぼーっとしていた。もしかしたら食べ疲れかもしれない。なんとも贅沢で幸せなことである。


「……寂しくなるな」

「そうね」


 おっちゃんとおばさんがぽつりと言う。桂木妹のことだろうか。確かに数日しか会っていないけれども、いなくなったら少しばかり寂しく感じるだろうとは思う。なにせ騒がしい。

 そうしているうちに外から車の音がした。とうとう桂木姉妹のご両親と対面である。ま、俺ができることは何もないんだけど。

 あれ? でも前になんか言ってなかったか? 桂木さんの両親がお礼に来るかもしれないと言っていた時に……。

 ピンポーンと呼び鈴が鳴った。


「はーい! どなた~?」


 おばさんが返事をして玄関に出て行く。この家で呼び鈴が鳴るってあんまり聞かないなとかどうでもいいことを考えた。

 あ。

 以前とんでもない話していたことを今更ながら思い出した。


「何度もすいません。桂木です、お邪魔します」

「初めまして、桂木実弥子とリエの父です。いつも娘がとてもお世話になっていると伺っています」

「いえいえ、そんなことはないんですよ。いつも実弥子さんには手伝ってもらっているんです。どうぞ上がってください」


 冷汗がだらだら流れる。

 あれ? 結局どんな話になってるんだっけか?


「佐野さん?」


 相川さんが挙動不審になっている俺の様子に気づいた。


「いえ、なんでも……」


 なんでもある、ような気がする。どうしよう。

 摺りガラスの障子が開けられ、桂木姉妹のご両親が居間の前で立ち止まる。


「こんにちは、桂木と申します。お邪魔します」

「どうぞどうぞ、座ってください」


 桂木父が挨拶をする。おっちゃんが手を差し出して桂木両親を促した。俺たちも座ったままだったがぺこりと頭を下げた。桂木母が手土産をおばさんに渡してるのが見えた。


「アタシおにーさんの隣ねー!」

「こら、リエッ!」

「いーじゃん、まだ付き合ってないんでしょー?」


 まだってなんだ、まだって。桂木さんはどこまで話したんだ? 俺は事前に桂木さんと話しておかなかったを後悔していた。桂木父の視線が痛い。俺、絶体絶命である。




ーーーーー

桂木両親がいずれ来るかも、という話は128話参照のこと。その時にちょっとした話をしています。

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