184.白菜がおいしい季節です

 これぐらいかな? と思われる比較的大きな石を見つけて、木ぎれの後ろに置いた。それなりに重さがあるのでそう簡単には転がらなさそうである。木が集まっているところに置いたので次にくる時までそこにあるだろうと思った。


「……しめ縄とかつけた方がいいんでしょうか」

「そこらへんは気持ちでいいと思いますよ」


 言われてみればそうだ。

 周りを改めて確認して軽く雑草などを刈り、墓のあるところまで下りた。雑草の手入れはまたしに来るので応急処置である。山頂までの道も作らなければならないし、これは大仕事だぞと内心眩暈がしそうだった。山暮らしはなかなかにハードである。

 とはいえ急いでやる必要もないのだ。開拓だと思えば……おかしいな、俺はこの山に何しにきたんだっけ? のんびり隠居生活をしようと思ってきたんじゃなかったっけか? と首を傾げたがもうよくわからなかった。細かいことは気にしてもしょうがない。

 墓のある場所から軽トラで家まで戻る。いろいろやっていたせいか、太陽の位置が少しずれているように見えた。

 ポチとタマは家に戻ってすぐにツッタカターと遊びに出かけてしまった。そんなわけで家でごはんを食べるのはユマだけである。ごはんより走るのが大事なニワトリ……。きっと走っていった先でおいしいごはんにありつけるのだろう。って何食ってんだよ。


「うわっ、もうこんな時間だ! 急いでごはんの準備しますねー」

「おかまいなく~」


 みそ汁はいつも多めに作ってある。沸騰させないように火を入れればいいだけだ。それでも大体四回目ぐらいでぐらぐら煮立ててしまい、しまった! と思うことが多い。落ち着け、俺。

 白菜の浅漬けとキャベツの塩こんぶ和えをお茶と一緒に出して、昨夜作った白菜と豚バラ肉の煮物に火を入れる。ある程度温まったら器によそり、そこにタマとユマの卵を落として黄身に穴をぷすぷす空けて、ラップをしてレンジで一分半。白身が固まってなさそうならもう少し温めて出せばいい。あとは新米をよそって召し上がれ。


「白菜の煮物いいですね~。味がしっかり沁みてておいしい。そしてこの卵も絶品です……」


 相川さんが顔をほころばせて食べてくれたのでよかったと思った。そう、タマとユマの卵は普通の鶏卵よりもでかいのだ。レンチンは一人分ずつやったのでお互いの皿に大きい卵が一個ずつである。とても贅沢だった。俺もにこにこしてしまう。


「この時期の白菜はやっぱり水分が多くていいですよね」

「本当に水がすごく出ますよね。俺全然知らなくて水けっこう入れちゃって、最初は白菜のスープになっちゃいました」

「それ、僕もやりましたよ~」


 相川さんが笑った。

 あんまり料理という料理はしないがコンビニもない山間部。もちろんスーパーもないし、村に三軒ある雑貨屋にお弁当が置いてあるわけでもない。必然的に自炊せざるを得ないというのが現状だ。(一応個人でお弁当を売っているところはあるが、毎日ではないし昼の時間のみである)とはいえ気ままな一人暮らし、いや一人+三羽暮らしなので時間はある。何時に寝てもいいし何時に起きてもいい。いや、朝はあんまり起きないと胸の上にニワトリが乗る。(タマだ)のしっと。かえって起き上がれなくなるので勘弁してほしい。


「そういえば明日は桂木さんちに行くんですよ」

「そうなんですか……何か?」

「おばさんと電話したみたいで、祠かなにかがナル山にもあるんじゃないかと探しに行きたいようなので」

「まだ妹さんいらっしゃるんでしたっけ」

「ええ、明日はまだいるみたいですね」

「……女性二人だけでは心配ですよね。気をつけていってきてくださいね」

「はーい」


 一緒に行くという選択肢は全くないようだ。そりゃそうだよな、苦手なのが二人もいるんだし。いや、悪い意味ではなく。でもこの村にはいい意味でも悪い意味でも若い女性はあまりいないから、相川さんは暮らしやすいのだろうと思う。ただ心の傷が癒えた時面倒なことにならなければいいのだけど、と他人事なのにちょっと考えてしまった。どちらにせよ他人事である。


「ごちそうさまでした。また何か決まりましたら教えてください。祠作りも手伝いますし」

「ありがとうございます。その時はまたよろしくお願いします」


 相川さんは俺と違って器用だしフットワークも軽い。


「あ、そうだ。またお邪魔してもいいですか。ニシ山の神様にもご挨拶がしたいので」

「わかりました。また都合のいい時に連絡ください」


 そう言って相川さんは帰って行った。そろそろやるべきことをメモかなんかに残しておかないと忘れそうである。

 ちなみに相川さんと話していた置き薬についてだが、すでに家にある。四か月に一度ぐらいのペースで回ってきてくれるというのでその時は事前に連絡をもらっておっちゃんちに薬箱を預けることにした。木でできた救急箱はそれだけでなんとも味わい深い。とはいえ薬箱の中身をあまり使わないで済むように暮らしていきたいものである。


「……あー、またここ切れてる。これは手荒れか? なんか痒いよなー」


 無意識で手をぼりぼりと掻いては流血し、絆創膏のお世話になっている。今までそんなこと一度もなかったのにと思った後で、もしかしてこれは加齢による乾燥か? と愕然とした。ってまだ二十代なのに! そりゃあ四捨五入したら三十だけどまだ早いだろ。

 翌日絆創膏だらけの俺の手を見た桂木姉妹に超怒られることになるのだが、この時の俺はそんなことになるなんて思ってもいなかった。



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