183.西の山のイケメンと山頂まで登ってみた
昨夜もユマと風呂に入った。おっちゃんちだとユマをお風呂に入れるわけにはいかないからやっぱり不便だと思う。自分の家が一番だ。洗い場でしっかり羽の汚れを落としてお風呂に浸かると、ユマは満足そうに目を細める。そんなところがかわいくてずっと一緒にお風呂に入れたらなと思うのだ。……これ以上でかくならなければだけど。
今日は十時頃相川さんが来てくれた。山の上まで行くと朝言ったらポチとタマも一緒に行くことになった。ユマはいつも一緒なので全員集合である。ご神体をどうすべきなのかとか、何を供えたらいいのかなどを聞きながら、まずは上の墓へ向かった。
「本日も山頂まで行ってきます。どうぞよろしくお願いします」
墓の周りを掃除して、近くの川から水を汲んできて墓を洗い、水を入れ、花と線香を供えて手を合わせた。おいおい祈る相手はこちらじゃないだろうと墓の中から声が聞こえてくるようだった。何をおっしゃる。ずっとご先祖様として、ここに住まわれていた人たちを守ってきたじゃありませんかと心の中で問答をする。うん、俺は赤の他人だけどさ。
花はそこらへんでまだ咲いていたものを供えた。雑草かもしれないがそういうものだ。
「お待たせしました」
「いえいえ。ご挨拶は必要ですよ」
相川さんも墓の周りの草を抜いてくれたりと協力してもらい悪いなと思う。あんまり甘えてはいけないと気持ちを新たにした。……祠に関してはすいませんがお願いします。ヘタレでごめんなさい。
「えーと、一昨日ユマと一番上まで登ったんだけど、ポチとタマは登ったことあるか?」
「アルー」
「アルー」
「アルー」
ユマも返事してくれた。かわいい。相川さんもにこにこしている。
「一昨日はここからだとうまく道が探せなくてぐるーっと回りながら登ったんですよ。ポチ、タマ、俺たちが登れそうな道ってあるか?」
改めて今度はポチとタマに聞いてみた。もしかしたら別の道を知っているかもしれないし。
「アルー」
「アルー」
今回はユマは答えなかった。代わりにツンッと軽くつつかれた。なんかかわいい。
「ユマも一昨日はありがとうなー」
羽を撫でてみる。ポチとタマに何やってんの? って顔をされた。大事なスキンシップじゃないか。ちょっと、いやかなり傷つくぞ。でもユマが満足そうだったからよかった。
「……ニワトリもいいですよね」
相川さんが遠い目をして呟いた。所詮叶わぬ夢と言いたそうだった。うん、大蛇じゃなかった頃ならともかくさすがに今は以下同文。
ポチとタマに付いて登っていく。一昨日ほどではなかったがところどころ藪っぽいところや崩れていて登れないところなどもあり、やはり多少は迂回をしながら山頂についた。
……木でいっぱいだから山頂という気がしないのはいつものことだ。ここは登山用に整備された山ではないのだ。
「けっこう上は平らなんですね」
「そうなんですよ、けっこう平らな部分が広くて。相川さんのところはどうですか?」
「うちはこんなに広くはありませんね。何度か登ってはみましたけど、こんな景色ですし」
「そうですよね」
整備された山を思うと、きちんと手入れしている人がいるからなんだよなぁと思う。でもここに山の神様がいるのだからある程度は整備しなくてはいけないなと思った。
「こちらですか?」
さっそく相川さんが一昨日仮に用意したものを見つけてくれた。自分で木を重ねて水を供えたのに見失っていたなんて申し訳ないと思う。
「あ、そうですそうです」
「この、木ぎれが散乱していたんですよね……」
「そうなんですよ。多分この茶碗がなければ気づかなかったかもしれません」
「庄屋さんにも確認されたんでしたっけ」
「はい」
「なら確かにそうですね。サワ山の神様なのですね」
茶碗に入れた水は半分ぐらい残っていた。いっぱい入れていった記憶があるから蒸発したのだろう。
「さすがにここまでくると川がないんですよねー」
そう言いながら茶碗から水を捨ててペットボトルの水でざっと洗い、また水を満たして置いた。そうして二人で挨拶をした。サァー……と涼しい風が吹いてきた。さすがに11月も目前なので風が冷たい。木で覆われているとはいっても山頂である。少しだけ寒いなと思った。
「祠を建てようとは思っているんですが、ご神体をどうしようかなって。山の神様ですから山自体がご神体ですもんね」
「そうですね。僕もうちの神様は確認していないのですが、おそらく仏様ではないだろうかと聞いています」
「ああ、祠がしっかり残っているんですか。確かにご神体の確認はしずらいですよね」
俺もさすがに形がしっかり残っていたら扉を開けるのはためらうかもしれない。
「うーん、困ったな……」
参考にしたかったのだけど、見たことがないというならしかたない。
「それなら、形のいい石とかどうでしょう。サワ山自体がご神体なんですから」
「……それ、いいかもしれませんね」
確かにこの山自体がご神体なのだから、祀るのは山のものならばなんでもいいのだ。でも草や木だと腐ってしまったりするから石を祀るというのはいい考えだと思った。
「ありがとうございます」
やっぱり相川さんに来てもらってよかったと思った。
「じゃあ、この辺りにある形のいい石を探せばいいですね」
「そうですね。それなりの大きさの石がいいでしょう」
岩とかの方がいいんだろうか。その上に祠を建てたらカッコよさそう。……でも建てるのがたいへんだなと思った。
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ユマちゃんかわいいよユマちゃん(何
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