182.穏やかな秋の日の過ごし方

 そういえば今朝タマもユマも卵は産まなかったらしい。きっとメンタルも関係してるんだろうなって思う。すまないことをした。

 ちょうど休養日だったのかもしれないけど、それはそれでいいのだ。俺の気持ちの問題だから。

 土間がけっこう汚れていたのでごみを掃いて出したり、ニワトリたちの皿を片付けたりした。食べづらかっただろうに白菜はけっこうキレイに食べられていた。芯の方が少し残っていた程度である。こんなもの食べられない、だったのか、それとも食べきれなくて残したのか悩むところだ。とはいえどうせ外側の部分だったので捨てることにした。一度口をつけたものはばい菌が繁殖するし。

 あとは畑と家の周りを確認した。畑には菜っ葉類が植わっている。いわゆる冬菜と呼ばれるものは、植えてからそんなに待たずに収穫できるので嬉しい。でもここは山の上だから雪が降ったらだめになってしまうかもしれない。そこらへんがちょっと心配ではあるが、すでに白菜も大根もかぼちゃも大量に保管してあるから大丈夫だ! と思いたい。

 そういえば、最近はあまり農薬を使っていない野菜も出回ってますよね、とおっちゃんに聞いたら、消費者のニーズなのだそうだ。


「だからって虫がついてたらアイツら文句言うんだぞ。農薬使わないで虫もつかないようにしろとかバカ言ってんじゃねえってんだ」

「そうですよね……」


 適切に農薬を使う分には全く問題ないと俺は思う。よっぽど輸入野菜の方が怖い気がする。ポストハーベスト問題とか、親がよく言ってたし。ま、これはあくまで俺の考えだ。知識もアップデートしないといけないな。

 明日相川さんが来ると言っていたけどリンさんやテンさんはどうするんだろう。また後で聞いてみようと思った。


「ユマー、川見に行くぞー」


 一緒に川を確認しに行った。うちから一番近い川の周りを確認し、川の中を覗き込んでみる。


「あ、ザリガニ……」


 まだいるのかよ、と落胆した。明日川も確認してもらってまた改めて来てもらうようだろうなと思った。どんだけ長い間アメリカザリガニの巣になっていたのか。勘弁してもらいたいものである。


「炭っていつ作るんだろうな……」


 炭焼きにも参加させてもらいたい。水のろ過装置として炭は必須である。アメリカザリガニがうじゃうじゃ住んでいた川なのだ。見た目はキレイでもろ過装置がなければとても飲めたものではない。基本飲むのは沸かしてからだし。(取水は湧き水からだけど)

 そんなことを考えていたらユマがザリガニを捕まえて食べづらそうに食べていた。


「無理して食べなくてもいいぞー」

「タベルー」


 嫌いではないらしい。しかしやはり食べづらそうだ。嘴に咥えてもいろいろ刺さっているように見える。やはり選んで食べたいものではなさそうだった。

 お昼ご飯を食べてからネットで「祠 作り方」と検索したら祠がまんま販売されていた。いったいどういうことなんだ。中に仏様がいるタイプはだめだろう。作りますよ~ってサイトもあったし、作り方も載せているサイトもあった。どうにかなりそうだと安心した。

 寒くなってきたせいなのかなんなのか最近眠い。おっちゃんちでもしっかり寝たと思ったんだが緊張して眠りが浅かったのかもしれなかった。


「ユマー、昼寝するなー。ユマは遊んできていいからなー」

「イッショー」

「うんうん、ありがとうなー……」


そんなことを言っている間に意識が落ちた。家の擦りガラスの扉は鍵が開いてるから大丈夫だ。ユマが遊びに出かけても大丈夫……。

 もちろんその日の夕方もすっかり汚れて帰ってきたポチとタマを洗った。そろそろ家の中で洗うようだろうか。日が陰ってくるとかなり寒くなる。そんなことを考えていたら珍しく桂木さんからLINEが入ってきた。


「こんにちはー。お元気ですかー? 山の神様の話、聞きましたよー」


 ということはおばさんに電話でもしたのだろうか。そういえば桂木さんのところは妹が来ていたな。強烈な妹ではあったが、いろいろあって忘れていた。


「元気だよ。そっちは?」

「うるさいくらいです。明日はうちも山の神様がいらっしゃらないか探してこようと思ってます」


 けっこう行動派なんだよな。でもドラゴンさんが護衛につくとはいえ女性二人だけでは心配だ。


「明後日でよければ付き合うよ」


 と送ったら、


「じゃあ明後日よろしくお願いします!」


 食いつかれた。あれ? 俺早まったかな、とちょっとだけ思った。

 気を取り直して相川さんにLINEを入れる。


「明日いらっしゃるとのことですが、リンさんとテンさんはどうされますか?」

「今回はご挨拶なので僕だけで伺います」


 山頂まで上るということだろう。木ぎれの上に欠けた陶器の茶碗を置いて、そこに水を供えただけなんだよな。それを見られるのはなんとなく恥ずかしいが、何を供えればいいのかとか、どんな風に作ればいいのかなど聞きやすくはなるだろうと開き直った。

 そして来客があるということはニワトリたちにも伝えておかないといけない。


「ポチー、タマー、ユマー、明日相川さんが山の上の神様を見に来るんだってさ。リンさんとテンさんはこないから」

「ワカッター」

「……ワカッター」

「ワカッター」


 うん、やっぱりタマはリンさんとテンさんが苦手なんだな。何度も再確認しなくてもいいのだが、ついつい確認してしまう。うちの大事なニワトリたちだしさ。


ーーーーー

140万PVありがとうございます!

面白いと思っていただけましたら、フォロー、★等どうぞよろしくお願いします♪

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る