178.更に上まで登ってみました

 翌日は山でのんびり過ごすことにした。のんびり、と言っても山を下りないだけで山でできることはやる。

 それってのんびりとは言わないと言われるかもしれないが、俺の気持ちの上ではのんびりなのだ。

 家の周りの草むしりとか、畑の確認と草むしりとか、空き家の周りの点検とか。(中にはまだ怖くて入れない)

 ユマと山の上の墓参りをして、そういえばこの山の山頂ってどこだろうと少し気になった。うちの家があるのが山の中腹より上ぐらいである。墓は更に上にあり、道はそこで終わっているのだがここは頂上ではない。その件について元庄屋さんに聞いてみようと思っていたのだがすっかり忘れていた。


「北側の……こっちだよな、上るとしたら……」


 墓の後ろ側にある斜面を見ながら呟いた。


「なー、ユマー。この上って行ったことあるか?」


 木々が植わっている北側を指さして聞いたら、「イッター」と返事があった。


「お? 一番上まで行ったのか?」

「イッター」

「なんかあったか?」


 ユマがコキャッと首を傾げた。質問の意味がわからなかったかもしれない。まぁいいかと思った。


「この上に行きたいんだけど、上りやすい道とかある?」


 ユマが止まる。少し考えているようだった。


「……アルー」

「じゃあ連れてってくれないか?」

「ワカッター」


 コミュニケーションとれるのって大事だ。

 で、上ることにしたんだけど……。

 俺はニワトリをなめていた。

 雑草をかき分けていくのは想定内だったが、掴む場所がないところは無理だ。というわけで大幅に迂回してもらってどうにか山頂まで連れて行ってもらった。道なき道を踏破したかんじだったのでえらく時間がかかった。


「こ、これ以上は登らない、な……」


 うん、どこからどう見ても上がる場所はない。もっと上まで行こうと思ったら木を登るぐらいである。夏ならば鬱蒼と茂っているだろう木々の葉はところどころ色づいていて思っていたよりも明るかった。陽はそんなに射しているようには見えないが、やはり色というのは重要らしい。秋も深まってきて葉が落ちてきているというのもあるのだろう。


「落ち葉の絨毯だなぁ……」


 なんだかわくわくしてきた。ここが山頂だとわかっても景色はそんなに変わらない。木々に埋もれて全く外の景色は見られない。思ったより頂上の部分が広く感じた。


「あれ? なんかある……」


 大きな木の側に、なにか小さな木切れの塊が……。


「これって……」


 近づいてみると、明らかに人為的に作られた何かがあった。木切ればかりでよくわからないが、陶器などもあったことからもしかしたらこれはほこらなのではないかと思った。


「もしかして、神様がいらっしゃったのかな……」


 山だから山の神だろうか。元庄屋さんは全然話してくれなかったから知らなかったが、頂上では神様を祀っていたのかもしれない。ただ木は変色しているし、陶器もあちこち欠けたりしている。まじまじと見なければ何があったのかわからないぐらい損壊していた。詳細は元庄屋さんに尋ねるとして、俺は急いでペットボトルを出した。木ぎれを重ね、その上に欠けた陶器を置き、そこにペットボトルから水を入れた。


「ご挨拶に来なくて申し訳ありません。お名前は存知ませんがいつも山を守ってくださりありがとうございます。いずれささやかながらも祠を作らせてください。よろしくお願いします」


 二回礼をして手を二回たたき、また一回礼をした。これで不義理を許してくれればいいのだが。

 さすがにここまで来ると電波が届かない。


「ユマ、一度戻るぞ」

「ハーイ」


 小さいながらも鳥居も作ろうかなと思った。

 でも祠って何を入れればいいんだろうな? 山の神様のご神体ってなんなんだろう。山全体が神様だからいらないのかな。

 そんなことを考えながら慎重に下りた。やっとの思いで墓のところまできて川で手を洗う。うちの山は川が多いから便利だ。


「……疲れた……」


 山を更に上ったということもそうだが神様の前である。意外と神経を使った。

 また墓の周りを見てこれ以上汚れなどがないことを確認してから家に戻った。


「やっぱ神様っていたんだな……」


 以前相川さんが西の山の元所有者に墓などがないかどうか聞き、実際にご先祖様の墓があって、その近くに山の神を祀る祠があったらしいと聞いたような気がする。ということはうちの山も多分祀られていたのは山の神様なのかもしれない。


「庄屋さんに確認して……相川さんにも連絡して……」


 やることがいっぱいある。でも、神様がいたんだなと思ったらなんだか嬉しくなった。神様は基本見守ってくれているだけなのだろうけど、その存在があるとないではえらい違いだと思うから。

 宗教、というほどではないけどちょっとした心のよりどころって大事だと思う。


「ユマ、連れてってくれてありがとなー」

「アリガトー」


 こういう時の返しはよくわかっていないみたいだ。「どういたしまして」とか返されても困るけど。

 とりあえずは昼飯だ。思ったより時間が経っていて、太陽が少し傾いているように見える。ごはんを食べたら元庄屋さんに連絡しようと思った。

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