176.みんながみんな交流があるわけでもないらしい
鶏……卵……だと親子丼になる。親子じゃないけど。でも親子丼はこの間やった。白菜を大量にもらってきたんだよな。
……鍋にするか。というわけで翌朝早くから豆腐を買いに行ってきた。豆腐の仕込みはとても早いから前日に電話しておけば朝早くでも用意してくれる。木綿豆腐にがんもどき、ゆば、厚揚げなども買った。焼き豆腐をオマケにもらった。おからも大量にいただいた。
「いいんですか?」
「いいのいいの。佐野君はおから持ってってくれるから。ニワトリが食べるんでしょ」
「ええ、まぁ。俺も食べますけど……」
「それにねぇ、佐野君には感謝してるのよ」
豆腐屋の奥さんがしみじみと言う。なんのことだろう。心当たりは全くなかった。
「?」
「こんなに近くなのにね、私たち養鶏場があんなところにあるなんて知らなかったの」
「えええ」
意外だった。離れてはいるが村内のことである。豆腐屋は昔から営んでいたが、養鶏場ができたのはここ十年ぐらいだという。しかも村の東の外れの、山の中腹辺りにあるから交流も全くなくて知らなかったらしい。松山さんも養鶏場を始めた頃は伝手が全然なくて餌も試行錯誤していたそうだ。それこそ穀類が主で、葉物を入れたりと餌もかなり洗練されてきたらしい。
俺がたまたま、この村の豆腐は水がおいしいせいかすごくおいしいですよね、みたいなことを松山さんに言ったことでおからの存在に気づいたという。そういえば豆腐屋ってあるの? とか以前聞かれたような気がする。
「聞いてないの?」
「全然知りませんでした」
松山さん夫婦も忙しいから忘れていたのだろう。おかげでごみとして捨てていたおからを譲ることができるようになって豆腐屋さんも嬉しいらしい。
「それでね、卵はこの村でも作ってないんだけど、豆腐チゲ? とかいう料理を売り出したらどうかって言われてね~」
「えええ」
「この鍋のタレみたいなのと絹豆腐を抱き合わせで売ったらどうかって言われたのよ。食べてみてくれないかしら?」
「あ、じゃあ買います……」
「お代はいいのいいの。今度感想を聞かせてね。もちろん卵も使ってね」
「はい、じゃあ今回は甘えます。ありがとうございます!」
スンドゥブチゲ(豆腐チゲ)用のセットまでいただき、昼食の予定を変更することにした。卵はある。鶏肉はどうするか。
昼前に相川さんたちが来た。何故か朝ごはんの後で遊びに行ったはずのポチとタマも戻ってきている。時間とかどうやってはかってるんだろうか。
「佐野さん、こんにちは。今日もお世話になります」
「いえいえ、こちらが頼んで来ていただいているんですから。今日もよろしくお願いします」
相川さんは一人軽トラから降りると、うちのニワトリたちを見た。
「ポチさん、タマさん、ユマさん。うちのリンとテンが動物やザリガニ等を食べていってもよろしいですか?」
「イイヨー」
「……イイヨー」
「イイヨー」
タマは相変わらずしぶしぶという体である。でも動物かー……動物。イノシシを捕食する光景とか想像するだけで怖い。
「ありがとうございます。リン、テン、降りていいよ。ニワトリには絶対手を出すな」
「ワカッテル」
「シタガオウ」
下半身が大蛇なリンさんと、まんま大蛇なテンさんである。なんというか、危害は加えられないとわかっていても圧がすごい。
「えーと、じゃあ川に向かいましょうか」
最初から大きめのバケツを二個ぐらい用意した。かって知ったる川ではあるが、景色が変わっていることもあり今回もついて行った。川の周りの木々はだいぶ色づいてきてキレイだった。秋だなぁと思う。
「この景色、キレイですね」
「写真撮りましょうか」
スマホでばしばし撮っておく。もちろん送る相手は相川さん限定だ。写真は全然得意ではないが、それなりにいい絵が撮れた。(写ってはいけないものが写っている為。大蛇とかでっかいニワトリとか)
「秋ですねぇ」
「ですね」
リンさんとテンさんに任せて、相川さんと戻った。うちのニワトリたちもついてきて、リンさんとテンさんが川に頭を突っ込んだ時点でポチとタマは再び遊びに行った。なんで戻ってきているのかさっぱりわからないが、そういうものなのだと思うことにした。
「豆腐屋でスンドゥブチゲの素をもらってきたんですよ」
「へえ。それは楽しみですね」
鍋に湯を沸かし、そこにニラやもやし、白菜、スンドゥブチゲの素と豆腐、卵を落として煮立ったらできるというやつである。鍋っていいな。白菜の漬物と宮爆鶏丁、ごはんを出したら相川さんはとても喜んでくれた。
「スンドゥブチゲ、いいですね。今度豆腐屋さんに買いに行こうかな」
「今度感想を言いに行くので一緒に行きますか」
まだお試しの段階かもしれないし。養鶏場と豆腐屋の話などをしたりして、リンさんテンさんが戻るまで家の周りにいた。
11月には使っていない家の解体なども頼まないといけないし、やることは沢山ある。ユマは白菜とおからを食べてご機嫌だった。ごはんがあるって幸せだと思った。
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知っていそうで知らないこともある。
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