160.台風の備えはしっかりと
何かあった時の為にとクーラーボックスを積んでおいてよかったと思う。おばさんに頼まれた買物も自分の買物もできてほくほくした。台風の備えのせいか、スーパーなど、多少品薄になっているかんじがした。カップラーメンの棚がずいぶんとすかすかしているように見えたのだ。
停電になってもどうにかなるように米を沢山炊いておいた方がいいだろうか。缶詰や、レトルトなどを買ってみた。レトルトカレーがあればだいたい生きていける。ガスはプロパンだから停電になっても大丈夫だし、卓上コンロもある。それ用のガスも買ってあったはずだ。懐中電灯用の電池も買ってあるし、水もある。明日はお風呂に早めに入っておくことにしよう。停電対策としては一応発電機もあるが使わないに越したことはない。
「台風、被害があまりないといいですね」
相川さんとそう話した。おばさんに買ってきた品物を渡し、タマとユマを回収して山に戻った。雨が降り出したら雨戸をしめればいいとして、玄関はガラス戸だから養生テープを貼っておくべきだろうか。用心はしないよりはした方がいいのである。
よく台風情報などに対して大げさだとか怒る人がいるが、そこは大事がなくてよかったと言うべきだと思っている。自分だけはそんな目に遭わないなんてことはないのだ。
「なんかー……山暮らしって真面目にやらないと死ぬよなぁ……」
こんな過酷な土地によく昔の人は住もうとしたなと思ってしまう。でも開拓すれば自分の土地になるというのなら、山の上だって天国だったのかもしれない。他の山はともかく俺の山は川が多い。その分地盤が緩い場所もあるようだが、とりあえず今のところはどうにかなっているようだ。水が豊富というのはすごいアドバンテージだ。でも近年はそれこそ何が起こるかわからないから備えは必要だと思う。
起きないことなんてない、と思っていれば大概はどうにかなる。
桂木さんにLINEを入れた。タツキさんがいるとはいえ女性の一人暮らしである。台風は怖いのではないかと思ったのだ。
「台風の備えはどう? 大丈夫?」
「もー台風怖いですよねー。一応窓とかには養生テープ張ったんですけど。家なくなっちゃったら佐野さんちにやっかいになるようかなぁ」
LINEから察するに、桂木さんはわくわくしているようだった。不謹慎とか言われそうだが気持ちはわかる。怖い物見たさ、というかこういう状況も楽しんだ者勝ちというか。どちらにせよ当事者なので大目に見てほしい。
「その時は引き受けるよ。そちらに新しく家が建つまでは」
「ええ~。そこは全部任せとけ! っていうところじゃないんですかー?」
「責任はとれないし」
「もー!!」
怒っているような絵文字が入っていたが、元気そうなのでいいことにする。実際ヘルプがきた時出られるかどうかはわからないが、山にいるのならある程度覚悟もしているのではないかと思った。明後日ぐらいまで山中さんかおっちゃんちにお邪魔になるという選択肢もないわけではないのだから。
翌日は風が強かった。家の周りの物を改めて片付け、ポチとタマには雨が降る前に帰ってくるように言った。
「タイフー、ナニ?」
コキャッと首を傾げてポチに聞かれた。いい質問だ。
「うーん、すごい風と雨が同時に来ることだな。ポチとタマが風に飛ばされたら困るし、飛んできた何かにぶつかって怪我とかしたら困るだろ? 雨が降ってくると滑るしな。だから雨が降る前に帰ってきてくれよ?」
「ワカッター」
「ワカッター」
聞き分けがよくてとてもよろしい。……実際はどうなるかわからないが。
明日も一日雨だろう。雨の日は外には出ないだろうが、出ようとした時止められるだろうか。
「明日も多分台風だから、家から出たらだめだぞ」
念の為言っておいた。
「ワカッター」
「……ワカッター」
タマがとてもあやしい。俺はやだぞ、大雨の中探しに行くとか。
今のところ一番心配なのは近くに建っている家屋である。無人の家屋の周りにあった物はあらかた処分してあるが家や小屋などはそう簡単に解体できないから困る。こんなことならもっと早く解体しておくべきだった。後悔先に立たずである。
「台風って……あと何回来るかなぁ……」
年に一回というわけではないから困る。日本列島は地震の巣で、台風の通り道だ。他にも災害にいとまがない。なんでこんなたいへんなところにみんな住んでいるんだろう。それを言ったら俺もか。でも世界中どこへ行ったとしても楽園なんてないと思う。不満が全くない土地なんて想像がつかない。(あくまで俺の考えです)
できることはやった、と思う。夕方黒雲が出てくる前にポチとタマが戻ってきた。やっぱりうちのニワトリは最高だ。
「ありがとうなー」
ざっと洗って家に入れてから少しして雨が降り出した。降る前に洗えてよかった。
スマホでニュースを確認する。随分と台風が近づいてきている。上陸はしないようだが、それでも緊張でどきどきしてきた。
何事もありませんように。急いでユマとお風呂に入り、強く、願った。
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