144.秋の味覚はたまりません
ポチはなかなか戻ってこなかった。
どこまで駆けていったんだろうなぁと思いながらおっちゃんちまで戻った。けっこう張り切ってたから、イノシシを本当に狩ってきたりしてな。って、まさかな。
「ええ? アンタ、ポチちゃんにそんなこと言ったの? だめじゃないの!」
家で料理をしながら待っていたおばさんはすぐにポチがいないことに気づいた。それで聞かれたので答えたら、おっちゃんが怒られた。
「冗談のつもりだったんだよ」
「昇ちゃんのところのニワトリはみんな真面目なのよ? そんなこと言ったら狩るまで戻ってこないかもしれないじゃない!」
「おばさん、それぐらいで……」
いくらなんでも見つからなければ戻ってくる、はず。……だよな?
「大丈夫ですよ。疲れたら戻ってきますって……」
ポチは気まぐれなところあるし……ってそれはタマか。ポチは猿もおだてりゃ木に登るタイプなんだよなー。さすがに不安になってきたぞ。でもなぁ。
とりあえず気が済むまで山の中を走らせた方がいいだろう。もしかしたら他の人の土地に入ってしまうかもしれないが、全然手入れができてなさそうだからそこまで問題はないだろう。見回りもろくにしてなさそうだしな。つっても道路に面している土地じゃないから不法投棄とかはなさそうだ。そこはいいなと思う次第である。(不便さには目をつむる)
とりあえずせっかく作ってもらったので先に昼飯をいただくことにした。
野菜の天ぷらに鶏の唐揚げ、栗ご飯にきのこのみそ汁。もちろん漬物だのお浸しも並べられた。
「ごめんね、こんなものしか用意できなくて」
「とんでもない! いつもありがとうございます」
おばさんがすまなさそうに言う。俺たちはぶんぶんと首を振った。これだけお世話になっていて、料理まで用意してもらえて文句を言ったら罰が当たる。ちなみにユマは野菜くずをもらうと庭の方へ行った。おっちゃんの家ではユマもけっこう自由にしている。
「いつも感心しちゃうんですけど、この分厚さでおいしくほくほくに揚げられるって技ですよねぇ」
さつまいもの天ぷらを箸で挟み、桂木さんが呟く。確かに揚げた際の火の通りは難しそうだと思う。おばさんの揚げるさつまいもの天ぷらは分厚くて大きい。ごはんも栗ごはんだったのでいつもより早く満腹になってしまった。栗ってけっこう腹に溜まるよな。
おなかいっぱいになったら眠くなった。あくびをしたら、
「みんな今日は疲れたでしょう。少し昼寝していったら? あっちの部屋でごろごろしてていいから」
「ありがとうございます」
どうせ俺はポチが帰ってくるまでは待っていないといけないからと、縁側のある部屋に移動した。そこに桂木さんと相川さんもやってきた。
「さすがに眠いですねー」
桂木さんも眠そうだ。
「気候がいいから、眠くなりますよね」
相川さんが苦笑する。結局俺を挟んで川の字、というほどではないが、座布団を枕に俺たちは寝てしまった。全体的に涼しくなって、寝やすいというのもあるだろう。食欲の秋の次は睡眠の秋だろうか。いや、眠いのは春じゃなかっただろうか。春眠暁を覚えずなんつって。
ふうっと意識が浮上したら、縁側の向こうからユマが覗いていた。縁側まで移動してそっと抱きしめる。明日何もなかったらユマと昼寝をしようと思った。
「ポチは、まだ戻ってきてないのか……」
庭を見回す。こちらからだと畑の向こうまでは見渡せないので首を伸ばしてもしょうがないのだが、わかっていても少し気になった。ユマは頷くように首を前に倒した。
「そっか、困った奴だなぁ」
そう言って笑った。ポチはまだまだ張り切ってイノシシを探しているのだろう。暗くなる前に戻ってきてくれたらいいのだが。でもそんなポチがたまらなく頼もしいと思う。飼主の欲目もあるだろうが、うちのニワトリたちはとても優秀だ。
縁側でぼーっとしていたら桂木さんと相川さんも起き出してきた。
「まだ寝てていいのに」
「そういうわけにもいきませんよ」
「そういうわけにもいかないんですよ」
二人して同じことを言っているのが少し笑えた。二人とも俺を挟んで腰掛けるのは変わらない。俺はどうやら緩衝材の役割を背負わされてるようだった。ってそれは考えすぎか。単純に山の配置かもしれない。
いつのまにか自分たちにかかっていたタオルケットを丁寧に畳み、またぼーっと庭を眺めた。ユマは畑の方に行ったようだ。
「おばさんに声かけてきますね」
「うん、ありがとう。よろしく」
桂木さんが上機嫌で座敷を出て行った。
「ポチさんは、まだ戻ってきませんか」
相川さんに聞かれた。
「ええ、もしかしたら本気で真に受けたかも……」
「それだけの能力ありますものね」
「そうなんですかね」
心配だから早く帰ってきてほしい。
桂木さんがお茶を持ってきてくれた。本当にこの家の人たちは温かくて、頭が上がらないなと思う。
陽はまだあるが、そろそろユマに声をかけて連れ戻してもらうようだろう。
お茶を一口啜ってから、
「ちょっとユマに声かけてきます」
縁側のつっかけを履いて、畑の方へ向かった。ユマは山と畑のきわの辺りでコキャッと首を傾げていた。
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