138.大蛇が化け物扱いされてしまう問題について(いや化け物だろ)

 さすがにおっちゃんに声をかけるのはやめた。でもまた向かうってことは言っておいた方がいいかもしれないとも思う。誘わないけど。絶対に誘わないけど。(大事なことなので二度言いました)

 というわけで電話だけはしてみた。


「明日改めて今日見てきた巣の確認に行ってきます」

「俺は?」

「誘いませんよ!」

「なんでだよー、行ったっていいだろー?」


 とても不服そうである。


「明日は新しい巣とか探しませんから!」

「つまんねー」


 五か所も刺されたってのになんでそんなに元気なんだ。


「とにかく! おっちゃんは負傷してるんだからだめです」

「なんだよ。また見つけたら教えろよー」


 教えたらどうする気なんだ。押しかけるのか。全く困ったおっちゃんである。もう少しおばさんに心配をかけさせない方向でお願いしたい。

 で、明日も桂木さんのところの森に行くという話をニワトリたちにした。


「相川さんも一緒に行くんだけど、リンさんとテンさんは行かないんだって」


 と言ったら、タマがスッと一歩前に出た。


「タマ?」

「ハチー」

「うん、巣を見てくるだけだぞ」

「ハチタベルー」

「いやいや、いるかどうかわからないから」

「タベニイクー」

「いやいやいやいや……」


 きっとポチから聞いたのだろう。タマはもうスズメバチを食べる気満々のようだった。リンさん、テンさんが行かないとなったら食い気を優先させるらしい。欲望に忠実でいいことだと思う。

 というわけで明日はタマとユマが一緒に行ってくれることになった。相川さんが先に役場で防護服を借りて来てくれるらしい。暑いかもしれないが刺される恐怖にさらされるよりはましだ。


「じゃあ飲み物用意しますね!」


 桂木さんが張り切って飲み物を用意してくれることになった。うん、水分は大事だと思う。熱中症になったら困るもんな。準備が整い次第出かけて、昨日と同じ手順で桂木さんの山の敷地内に入り、ガタガタ道を抜けて森の手前で軽トラを停めた。今日もドラゴンさんは荷台に乗っていた。

 そこでふと、昨日考えたことを思い出した。


「桂木さん、その、さ……」

「はい、なんですか?」

「今日はおっちゃんがいないから、なんだけど……昨日先に見に行った巣とかさ、タツキさんに直接聞けばよかったんじゃないかなって……」


 桂木さんは目を見開いた。そしてギギギと音がするようにぎこちなく首を動かし、ドラゴンさんを見やった。


「ああー……」


 あれ? もしかして全く考えてなかった、とか?


「……そうですよね……なんで私全く思いつかなかったんだろう! この間見つけた時にタツキに聞けばそれで済んだのにっ! あああああ~~~ごめんなさい!」

「……そういうこともあるよ、多分、きっと。うんまぁ、おそらく?」

「全然フォローされてない!」


 桂木さんと俺のやりとりを聞いて相川さんが笑いをこらえていた。


「……暑いから、とりあえず行きませんかっ……はははっ……」


 こらえきれなかったらしい。そういうこともある。しかたない。しかたないんだ。

 待ちきれなくてタシタシしていたタマがやっとなのー? と言うように一緒に歩き始めた。どうせなので、昨日先にわかっていた壊れた巣の方を見に行った。桂木さんはドラゴンさんと巣の手前まで行って、何やら話していた。そしてほっとしたように戻ってきた。


「……やっぱりタツキが食べたそうです。スズメバチだけじゃなくて、ハチは全体的においしいらしくて……」

「そっか。じゃあミツバチとかもタツキさんは食べるのかな」

「これぐらい小さいハチはどうなの?」

「チイサイ」


 ドラゴンさんはそう言ってふいっとそっぽを向いた。どうやらミツバチは好みではないらしい。確かに大きい方が食べ応えはあるだろうしな。相川さんが目を丸くした。


「……タツキさんもしゃべるんですね」

「え? あ? ああっ! さ、佐野さんっ!」


 桂木さんが慌てた。まあ落ち着け、どうどう。(馬ではない)


「相川さんはうちのニワトリがしゃべるのも知ってるから大丈夫だよ」

「ああ! そ、そうなんですね! ってことは、昨日のテンさんはっ?」

「……うちのテンも片言ですがしゃべりますね」

「ええ~~!! も、ももももしかしてテンさんはヨルムンガンドではっ!?」


 北欧神話に出てくる世界蛇とか大きく出たなー。


「ヨルム……なんですか?」


 相川さんはイマイチわからないようだった。テンさんよりもリンさんの方が化け物っぽいしなー。あっちはラミアかなーと思っていたけど、テンさんはヨルムンガンドかー。って、毒蛇じゃねえか。


「相川さんはそういう話わかんないよ」

「そ、そうなんですか……失礼しましたー」

「いえ……」


 桂木さんはあからさまに落胆したようだった。そんなにそういうの知ってる人いないからな? え? 俺? ……いやほら、中学生とか高校生の時とかいろいろ調べてみたりするだろ? そういうことだよ。(俺は誰に弁明しているのか)

 はっと気づくと、タマがだいぶ勝手に動いていた。


「タマー、頼むから待っててくれー」


 タマがえー? と言いたげに、少し離れたところでコキャッと首を傾げた。協調性がなくてたいへんである。

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