137.パニック映画の出演者はご勘弁

 なんかー……まるで生存が保証されないパニック映画みたいだった。まんま出演者だったけど。あれは見てる側だからいいんだよ。

 軽トラに乗り込んでドアを閉めたらスズメバチが一匹入ってきてしまっていて、俺がパニくる前に、それをユマがひょいっと食べた程度のアクシデントはあった。心臓に悪い。もういないよな? な?

 ユマは自分についた虫とかも首が届く範囲はぱくぱく食べる。意外とついていたみたいなので、帰ったら丸洗いした方がいいだろうと思った。

 ほうほうの体で山に戻り、でっかいタライを出してポチとユマを一度丸洗いした。草やごみっぽいものもけっこうついていたようで、二羽は気持ちよさそうにぶるぶるした。俺、びしょぬれである。ポチはまだ遊び足りないかんじだったのでまた汚れて帰ってくるだろうが、気分的な問題だ。


「あー、もう無理……今日は無理……」


 卵一個残しておいてよかったと思う。ポチもユマもおなかいっぱい食べたのか上機嫌だった。ハチって栄養価高そうだよな。


「あ、そうだ」


 おっちゃんのことが心配なのでおっちゃんの家に電話してみた。


「あら、昇ちゃん。どうしたの?」


 おばさんが出た。


「おっちゃん、まだ帰ってないですか?」

「まだよ~」


 ってことは直接診療所に行ったのかなと思った。


「何かあった?」

「おっちゃん、けっこうスズメバチに刺されてたので大丈夫かなーと」

「ええー? またなの? 困った人ねぇ」


 その程度なのか。どういうことなんだ。ハチに刺されるって大事おおごとじゃないのか。


「スズメバチなんですけど……」

「そうねぇ。途中で死んでるとしたら連絡がすぐにくるんじゃないかしら。大丈夫よ。心配してくれてありがとうね~」

「はい。あの……虫籠にけっこう捕ってましたけど」

「ええ? またなの!? もー……」


 捕ってきたハチの方が問題のようだ。ハチってアナフィラキシーが起こりやすいのが問題なんだよな。一回目は大丈夫でも二回目には抗体ができてアナフィラキシーが起こるとか……。そういうことが多いけど、全ての人がそうなるわけではないようだった。確かに全ての人がそうだったら駆除の仕事とかする人いなくなるよな。怖い怖い。

 とりあえず防蜂帽子とか、そのへんはネットで注文した。夏は暑いかもしれないが背に腹は代えられない。


「……つっかれたー……ユマ、ありがとうな……」

「ツカレター?」

「うん、ハチ怖い……」

「コワクナーイ。オイシーイ」


 ユマさん素敵です。ちなみにポチはもうツッタカターと遊びに行ってしまった。タマと合流したりすんのかな。やっぱ首にかけるカメラとか買った方がいいかな。なんかずっと言ってる気がする。

 昼飯を食べたら眠くなってしまったので居間で昼寝した。ユマも付き添って一緒に昼寝してくれた。かわいいなぁと思った。

 夕方前、昼寝から起きた辺りでおっちゃんから着信があった。


「いやー、今日は楽しかったなー」


 マジですか。


「……楽しくないって……」

「診療所で嫌がられたのなんのって。出てこないから大丈夫だ! って説得したんだけどなー」

「虫籠持ったまま診療所行ったの!?」

「ああ、車ん中入れといたら暑くて死んじまうかもしれないだろ?」

「ああ……」


 確かに軽トラの助手席に窓も開けないで置いといたら暑さでやられてしまうかもしれない。


「窓開けとけば……」

「近くのスズメバチまで来たらどーすんだよ」

「え? 呼ぶんですか」


 ナニソレコワイ。


「アイツら、匂いで呼ぶんだよ。だから置いとくわけにはいかなくてなー」

「そんなの捕まえないでくださいよ。で、大丈夫だったんですか?」

「いやー五か所ぐらい刺されててなー。搾り出しが痛かったぞー」

「うえええ……」


 俺だったらショック死しそうだ。


「今度は防蜂帽子とか用意してくださいよ」

「そうだな。そうするわ。お前んとこも探しに行かないといけないしな」


 やっぱうちの山でもまたやるのかあれ。おっちゃん、嬉々として巣を獲ってくんだもんなぁ。スズメバチにとっちゃたまったもんじゃないだろうな。


「まぁ、それはそのうちで……」


 電話を切ってため息をついた。疲労困憊である。と思ったら桂木さんからLINEが入っていた。


「明日もう一度巣の確認に行きたいんですけど、付き合ってもらえませんか?」

「えええ~~~~……」


 できれば勘弁してほしい。パニック映画は毎日見たくないし、毎日出演者にはなれない。でも俺が行かないって言ったら桂木さん一人で行きそうだしな……。


「相川さーん!」


 でも俺一人では行きたくないから道連れを頼むことにした。


「明日? いいですよ。先に防護服借りて行きましょう。また遭ったら困りますし」


 そうだ、防護服。役場で借りられるんじゃないか。


「またテンさん連れてきます?」

「いえ、明日は僕一人で行きます。それほど危険ももうないでしょうし。もう一つ見つけてしまったら今度は逃げましょう」

「はい……」


 うん、もう全力で逃げるよ。スズメバチ怖い。

 そんなわけで明日も行くことになった。明日は……確認だけだから大丈夫だよな?

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