134.ニワトリたちの写真を撮ってみる

 朝からニワトリたちをモデルにしてばしばし写真を撮る。三羽で集まってーとか、こっち向いてーとか言いながら。ユマはすぐ近寄ってくるので、ちょっと離れてーと距離を取ったりした。スマホの中の画像がニワトリで埋まったなと思った頃に確認をした。

 これはピンボケだなー。これは尾が写ってるとかそういうのを除外すると、送れそうな写真はそんなに残らなかった。そうか、だからカメラマンは沢山撮るんだな。

 あとは景色を撮ったりし、ポチとタマがツッタカターと出かけてからユマと写真の確認をした。ユマはスマホの中の写真を見て、


「ポチー、タマー、ダレー?」


 と聞きながら首をコキャッと傾げた。かわいいな。


「んー? これはユマだよ」

「ユマー?」


 ユマは自分の姿にピンときていないようだった。しきりに写真と自分の身体を見比べている。そして何故かその場に座り込んだ。


「ユマ? どうしたんだ?」


 またもふっとしててかわいいけど。


「ユマー?」

「うん、かわいいだろ? ユマだよ」


 そう言って見せたら、


「カワイイー?」


 首をコキャッと傾げる姿もかわいい。


「うん、ユマはかわいいよ」

「カワイイー」

「うん」


 ユマはすっくと立ち上がった。


「ユマ、カワイイ」

「うん、ユマ、かわいい」


 なんかよくわかんないけど何度も言ってた。本当にかわいいからにまにましながら俺も言ってた。かわいい。

 誰もこのやりとりは聞いてなかったからツッコミ不在である。

 んで、桂木さんにLINEを入れた。スズメバチの巣の件である。なんだかんだいって後ろ倒しになってしまっている。


「そっち異常ない? いつ行ったらいい?」

「いつでもいいですよー」


 と返ってきた。

 おっちゃん、相川さんと日程調整して行くことにする。


「じゃあ決まったら連絡する」


 と書いて送って、おっちゃんと相川さんに連絡した。みんないつでもいいというので、明後日行くことにした。


「なんにも準備しなくていいから、どこへ行けばいいかだけ教えてくれ」


 桂木さんの住んでいる山自体はけっこうとんがっているが、そのすそ野の森というか林の部分がけっこう広いのだ。日中誰もこない時、ドラゴンさんはそっちに行っていることが多いらしい。俺が行った時はいつも畑の側の木の下とかにいるらしいから意外だった。夕方から朝までは桂木さんの家の中で過ごすといっていたから、ドラゴンさんはやっぱり桂木さんのボディガードなのだろう。なんとも頼もしい王子様である。

 すそ野の部分は一見川沿いの道からは入れないようだったが、他に入口はあるのだろうかと思って聞いてみたけど、やっぱり麓の金網を越えないと入れないようになっているらしい。そうでなければ山道を歩いて遠回りするようだった。

 破壊されているとはいえスズメバチの巣に近づくわけで、防護服とか準備する必要はないのかどうかおっちゃんに聞いたが、いらないだろうという話だった。


「気になるなら防蜂用の帽子があるといいだろうがな」


 だったらまんま防護服借りた方がいいのでは? と思ったが、とりあえずいつもの作業服の下にも長袖を着て首にタオル、帽子などいろいろ準備してみた。さすがに刺されたくないし。


「桂木さんの山に行くけど、森の方に行くんだ。スズメバチの巣とか見に行くけど、誰か行くかー?」


 一応ニワトリたちに声をかけたら珍しくポチが行く気になったらしい。


「イクー」

「アソブー」

「イクー」


 順番に答えてくれた。タマさんは留守番で遊ぶわけですね。素直でたいへんよろしゅうございます。


「スズメバチ、タベルー?」

「うーん、どうだろうな? 捕まえられれば食べられるんじゃないか?」


 どうもポチは食い気らしい。頼もしいというか食い意地が張っているというか。それでもついてきてくれるんだからいいと思う。ハチと聞いて全員に「イカナーイ」と言われたらさすがにへこむ。でもこの羽で身体を守れるものなんだろうか。刺されないといいけど。

 翌日は持って行くものなどを確認して、また派手に生えた雑草を電動草刈り機でおりゃあああ~~~と刈った。いや、おりゃあああ~~ってかんじでは刈れないけど。気分だ気分。散らばったのをまとめたり、引っこ抜く方がたいへんだったりする。本当に山暮らしは雑草との闘いだ。この草とかなんか他に用途があるといいんだが、そんなことを考えるのは人間ぐらいだよな。

 タマとユマの卵が毎日の癒しだ。朝産んでない日があるとちょっと落ち込む。そうだよな、身体休めないとな、と思いながら活力が出ない。勝手なものだ。でも二羽共産んだ卵を無造作に放っているが、有精卵の可能性は少しも考慮しないんだろうか。そもそもポチが相手にされているのかという問題もある。全く相手にされていないのなら有精卵の可能性はないのだろう。それはそれで切ない気もするが。

 川の周りできのこを見かけるようになったなと思う。こわいから採らないけど。ユマも全然つつかないし、だからそういうことなんだと思っている。きのこは素人が知ったかぶりをすると死ぬ。そういうものはプロに任せておけばいいのだ。

 母親から返事があった。返信はのんびりである。


「三羽も飼ってるのね。大事にしなさいよ」

「そうするよ」


 違和感はなかったようだった。ほっとした。

 そして、桂木さんの山に向かう日になった。本日も晴天である。

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