128.やたらと評価が高すぎる

 秋の日は釣瓶落とし。

 あれ? 今日って俺何しに行ったんだっけ?

 首を傾げてユマを見た。家に着いた時には暗くなってきていたから、珍しくタマが家の前にいた。


「タマ、遅くなってごめんなー」

「オソイー」

「タマ、そこは”今きたとこ”って言うところだろ」


 相変わらず視線が冷たいですタマさん。冷え冷えです。泣きそうです。

 急いでみんなをざっと洗って拭いて家の中に入れた。もう表は真っ暗だ。家の中に一緒に入ってきた虫はニワトリたちがシュババッと捕って食べてしまった。うわあ、いいたんぱく質。おかげでうちの中ではほとんど虫の姿は見ない。あ、でも奥の部屋とかどうだろうなー。また大掃除しないとだめかもしれない。

 とりあえず明日は何もないからいろいろ掃除することにしよう。ちなみに指は順調に見た目だけは治ってきている。ただどうも内側は治っていないのか、やっぱり神経をやってしまったのか時折痛む。誰にも言えないけど。


「イタイー?」


 俺がよほど顔をしかめていたのか、ユマがコキャッと首を傾げた。


「大丈夫だよ。ユマは優しいなー」


 顔を上げるとポチとタマもうかがうようにこちらを見ていた。ニワトリたちは本当にかわいいなと思う。日が短くなってきたから急いで夕飯も用意することにした。

 野菜くずと野菜の盛り合わせに豚肉を添えて出してやった。モリモリ食べてくれた。うん、うちのニワトリたちは本当に以下略。

 翌朝になって、買物のことを思い出した。

 あれから桂木さんは買物して帰ったんだろうか。やっぱり買い出しに行った方がいいんだろうか。一昨日LINEで送られてきた買物リストを眺める。


「おはよう。買い出し、どうしたらいい?」


 とLINEを送った。いい男ならここで買い出しして、「買い出ししておいたよ」とか連絡するところなんだろうか。いい男じゃないからなぁ。


「おはようございます。電話しますー」


 とすぐに返ってきて、電話が鳴った。


「もしもし……」

「昨日はありがとうございました!」

「ああ、うん……」


 朝からけっこうなテンションである。


「買い出しは大丈夫です。お騒がせしました。自分で行きますので! それより佐野さんも買い出しが必要だったら言ってくださいね、いつでも行きますから!」

「え? うん、大丈夫だよ?」


 張り切ってるなという印象だ。


「昨日山中のおばさんと、実家に電話したんですよ」

「そうなんだ。どうだった?」

「ええと、怒られちゃいました」


 目の前にいたら舌でもぺろりと出していそうだなと思った。

 なんでそんなたいへんなことが起きていたのに昨日連絡をくれなかったのかと山中のおばさんには怒られ、実家の両親にもGWからの話をやっとしたのですごく怒られたそうだ。特に父親が怒髪天を衝く勢いらしく、ナギさんを文字通りぎったんぎったんにしに行きそうになったという。

 俺や相川さん、そしておっちゃん夫婦がいろいろ気にかけてくれたから大丈夫だと宥めたら、今度はお礼をしに来たいと言い出したとか。いや、そんな必要ないから。


「なので、もしかしたらそのうちうちの両親がお礼に来るかもしれません。その時は是非顔を出してくださいねっ」

「お礼とか……全然そんなの必要ないからさ。お互い様だし……」

「お互い様とか言って、私ずっと佐野さんに助けられっぱなしなんですけど! 全然佐野さんの役に立ってませんよ?」

「あー、まあそれはそのうちでいいんじゃないかな」


 女の子にしてもらうようなことって特にないし。


「タツキさんが鹿捕ってくれたじゃん。おいしかったよ」

「あれはタツキの功績じゃないですかー」

「いつもごちそうしてくれるだろ」

「あんなのごちそうのうちに入りませんよ!」


 なんで相川さんといい桂木さんといい俺になんかしたがるんだろうな? 俺こそ何もしてないんだが。

 首を傾げる。一つ思いついたことがあったが、それを桂木さんに頼むのははばかられた。まぁうん、一時間ぐらいああでもないこうでもないと母親に文句を言われればいいだけの話だ。


「本当に私、佐野さんの力にはなれないですか?」

「んー、だったら自分で一番かわいく撮れてる写真でも送ってくれよ。親に彼女できたから心配しないでくれって見せるから」


 ダメ元で言ってみたら、


「いいですよ。後ででいいですか?」


 あっさりと許可が下りてしまった。


「え? いいの?」


 ちょっと驚いた。嫌です、って即答されると思ったのに。


「いいですよー。なんでしたら一緒にご挨拶だって行きますよ。私も実は頼もうと思ってたので」

「ええ?」


 桂木さんはともかく俺でいいのか? と思う。


「うちは父親が心配性なので、まだフリーだって言ったらこっちに住むとか言いかねないんですよね。佐野さんと付き合ってることにすれば安心させられるかなーって」

「俺で安心するもん?」

「隣山ですから」


 それはそうかもしれないと納得した。隣山ならなんかあった時すぐに助けに行けそうだよな。実際はそんなすぐになんて無理だけど。


「写真、見繕って送りますねー」

「ああうん、ありがとう」


 これで親からの追求が回避できたらいいなと思った。

 それにしても桂木さんてドライだな。はっきりと歳は聞いてないけど俺より二、三歳は若いはずだ。高校なんかでも高三になったら高一が宇宙人みたいに見えたから多少ギャップがあるのかもしれないとも思った。



ーーーーー

佐野君はヒロインぢゃありませんっ、れっきとした成人男性ですっ!(主張だけはしておく

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