122.遠出をしない為には

 山暮らしをするにあたって、ポケット山野草みたいなものは買ってあった。でも何度見比べても同じ物とは思えない写真もあり、これはもしかしたら俺には判別できないのではと思って、しまいっぱなしになっている。これはなんておいしそうなニラだ! とか言ってスイセンの葉っぱ食べたらやヴぁいじゃん。食中毒起こすじゃん。

 だからそういうのは正しく見極められる人以外はやっちゃいけないんだと思う。少なくとも俺にはできない。

 明日の昼は桂木さんちかー。何持って行けばいいんだ? と首を捻っていたらおっちゃんから電話がかかってきた。


「昇平、元気にやってるかー?」

「ええ、元気ですよ。山菜いっぱい採れてます?」

「おう、わんさか採れてるよ。みんな感謝してるぞー」

「それならよかったです」


 おっちゃんの声が上機嫌だ。俺もそれを聞いて嬉しくなった。誰かが採ってくれているんだからいいじゃないか。


「昇平、明日なんか用事あるか?」

「明日はー……ナル山に呼ばれてます」

「おお、そうかそうか。ならいいんだ。じゃあ明後日の昼にこいよ。うちのがはりきって料理するからよ」

「ありがとうございます。お言葉に甘えます」


 よし! と内心ガッツポーズをした。明日の昼は桂木さんちに行かなきゃいけないし、明後日はおっちゃんに呼ばれている。これで実家から催促がきても大丈夫だ。ま、予定がなくてもあるって嘘つけばいいんだけどな。実際にあるとないでは言い方も変わるだろう。俺、嘘つくのうまくないし。

 というわけで夜は出欠をとった。


「明日は桂木さんちに昼行ってくる。一緒に行く人ー!」

「パトロールー」

「イクー」

「イクー」


 はい、ポチさん留守番。って何カッコよくパトロールとか言ってんだ。駆けずり回って遊んでるだけだろ。


「明後日はおっちゃんちに昼行くけど、一緒に行く人ー!」


 こちらも先に聞いておく。


「イクー」

「アソブー」

「イクー」


 タマさんは素直でよろしい。


「ユマは……運動しなくて大丈夫なのか? 毎日俺の側にいてくれるのは嬉しいけどさ」


 と言ったらユマにフイッとそっぽを向かれ、タマには何故か盛大につつかれた。なんでだ。ポチは我関せずと背中を向けた。男同士少しは助けろよ!

 という夜の出来事を翌日桂木さんに話したら笑われた。


「んー……私も大概空気読めないとか言われますけど、佐野さんは女心を理解していませんね~」

「空気読めてないって自覚あったんだ?」

「ツッコむところはそこですかっ!?」


 お盆で叩かれそうになったのでごめんごめんと謝った。

 ノビルが沢山採れたという。確かノビルって春じゃなかったっけと思ったが秋も採れるものらしい。なんかエシャロットみたいな山菜だ。酢味噌和えにしたものと、スパゲッティに入れて出てきた。むかごをかなりがんばって採ったらしく、揚げて塩がかかっていた。酒のつまみにすごくよさそうだったけどさすがに飲むわけにはいかない。あとは桂木さんの畑の野菜を漬物にしたものが出てきた。秋植えはとっくにしたらしく、しばらく作物がないんですよとぼやいていた。


「作物ができる時期はいいですけど、冬になると死活問題ですよね。だから保存食とか発展したんだなーって思います」

「そうだね」


 今は日本全国で収穫した野菜が食べられるし、外国からもかなり輸入しているから食べ物で季節を感じることは減ったように思う。獲れる時期と食べる時期がずれている野菜もある。確かかぼちゃが獲れる時期は夏みたいだけど売られ始めるのは秋から冬にかけてだ。これは長期保存ができる野菜ならではだろう。とはいえ保存状態には気をつけなければいけない。冷暗所の乾燥しているところに置いておくといいようなことを聞いた。

 タマはドラゴンさんをつついてから好きなように遊びに行った。ユマは俺と桂木さんの間にいて、虫を食べたり草をつついたりしている。今はとてもいい季節だ。


「冬になったら……縁側ってわけにはいきませんよね」


 桂木さんがぼそっと呟いた。寒い中縁側で飯食うとか俺は嫌だぞ。


「冬になったらさすがにこないよ」

「ええー……家の中に入れますから来てくださいよ」

「入らないって」


 なんかあったらたいへんだし。ユマが間に入ってくれている、この1mぐらい離れた距離感がいいのだ。


「ええー……」


 不満そうな声を出さないでほしい。


「佐野さん、明日って何か予定あります?」

「おっちゃんちに呼ばれてる」

「じゃあ、帰りに買物とかできます?」

「いいよ。リストくれれば買い出ししてくる」

「ありがとうございます。助かります」


 連休中は山を下りるのが怖いのだろう。来るなんて確信はないが、村に下りて会いたくない人と顔を合わせたら困る。こういうのはちゃんと協力しなければいけない。


「むかごってけっこうおいしいな」

「ですね。本当は自然薯を掘れたらいいんですけど」

「野生のは掘りづらいだろ。ああいうのは買った方がいいよ」

「ですよね」


 今回の手土産は豚肉のブロックにした。かなり喜んでくれたから当たりだと思う。色気もなんにもない手土産だが生活しているのだからそれでいいのだ。

 さて、明日はおっちゃんちだ。帰りには桂木さんの買物もしなければならない。いやー、忙しいなー。



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