121.秋の四連休はいつも通り
桂木さんのところへは四連休が終わってからみんな(おっちゃん、相川さんも一緒に)で行くことにした。四連休中はおっちゃん夫婦とおっちゃんの知り合いが山菜採りに来ることになっている。つっても麓付近で勝手に採って、帰りに連絡が来るぐらいだから俺が何かする必要はない。柵の合鍵はおっちゃんに渡してあるから俺は普段通りだ。
「またリンさんとテンさんが見回りをするんですか?」
相川さんに聞いたら、夜から明け方にかけて二人が山の見回りをするらしい。
「佐野さんの山の麓付近も見回りをさせますから安心してください」
「ありがたいですけど……リンさんとテンさんの無理がない程度で……」
この辺の、山に沿った川沿いの道は街灯があってもかなり暗い。そんな中ほぼヘッドライトの光だけで進んだ先にリンさんやテンさんを見たら心臓が止まるんじゃないだろうか。その時間は絶対出歩かないようにしようと思った。
「大丈夫ですから。山菜採り、湯本さんたちがみえられるそうですね」
「ええ、秋本さんも来るとか聞きましたよ」
「そうですか。楽しそうですね」
村は山間にあるので山菜採り放題だと思われるかもしれないが、山には基本それぞれ所有者がいるので勝手なことはできない。ただ山菜程度なら採った者勝ちみたいなところはあるので特に咎めないが、一応山に入る際所有者に声をかけるぐらいは必要だと思う。だって自分の山で遭難とかされたら困るし。
電話を切って、いろいろ考える。四連休は山菜採りをしてもらって、連休明けは桂木さんの山を見に行って、その後は……。
「あー……じいちゃんの墓参り行かないとな……」
せめてお彼岸の間に行けるといいだろうか。知り合いには絶対に会いたくないのでどうしても行こうという気にならない。だがここでうだうだしていても始まらない。
震える手で母親にLINEを入れた。
「お彼岸のうちにじいちゃんの墓参りに行く。なんか他に用事ある?」
自分でもどうかと思うほどにそっけない。一応実家に顔を出した方がいいだろうが、行きたくない。
面倒だからいっそのこと桂木さんでも連れて行こうか。とりあえず受け答えは基本しないでほしいと頼んで。ただ横にいてくれるだけでいい。そうすれば向こうが勝手に判断してくれるだろう。
ああでもそうしたら俺の事情を桂木さんに話さなければならないのか。それはまだ勘弁してほしい。できれば一生聞かないでほしい。
「来る日は事前に教えてね。マンションの管理のことで話があるって兄さんが言ってたわよ」
母親からの返信を見てうええ、と思った。母の兄、ということはマンションの管理を頼んでいる伯父のことだろう。そういえば買いたいとかなんとか言ってたな。いっそのこと売るか。でも一括で売ると税金が面倒なんだよな。なにせ一度も住んでないし。なかなかに悩ましい話である。
今考えてもしょうがないことは考えない!
パン! と顔を叩いて気分を切り替えようとしたが、負傷した指が当たった。
「~~~~っっ!」
俺はあほか。
で、四連休になった。
「この四連休で来るんじゃなかったの?」
母親から催促のLINEが入っていた。
「四連休は避けて平日に行く」
と返したら怒られた。四連休中に来るものだと思って伯父さんにも声をかけてしまったとのことだった。そんなことは知らない。25日頃まで彼岸のはずだ。
「顔を合わせたくないってことはわかってるけどあんたって子は……」
「ごめん」
できることなら地元の誰とも顔を合わせたくないのだ。もちろん事情を知っている親戚なんかとんでもない。その時は「残念だったね」とか言いながら、内心は俺をせせら笑っているに違いないのだ。まぁこれは被害妄想かもしれないけど、そう思ってしまうのだからしかたない。
「誰か……道連れがほしいよなぁ……」
おっちゃんやおばさんに頼むわけにもいかないしと、ユマをぎゅっとする。ユマについてきてもらえれば百人力だが後が怖い。どこかで撮られてSNSで拡散されてしまうかもしれない。そんなことになったら困る。うちのニワトリたちにはのびのびと暮らしてほしいし、見知らぬ誰かに存在を知られているとかぞっとしない話だ。
「イクー?」
「行かないよ」
ユマが首をコキャッと傾げて聞く。うちの大事なニワトリたちを連れて行くなんてできない。
四連休の二日目に桂木さんから連絡があった。
「むかごが採れたので食べにきませんか?」
「むかご?」
なんか聞いたことがあるような気がする。
「むかごって何だっけ?」
「小さいお芋ですよ~。自然薯の蔓にできるんです」
「ああ……」
確か野生の自然薯ってなかなかとれないんだっけ。上の蔓に小さい芋ができるからそれを採ってもおいしいとか聞いたことがあった。
「俺、イモ類好きだからけっこう食べるけど?」
「じゃあいっぱい採ってきます!」
「え? いや、無理しなくても……」
「明日来てくれますよね?」
「ああうん、行くよ……」
なんか悪いことしたかなと思う。困ったようにユマを見たら、じいっと見られていた。しっかりしてと言われた気がした。
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