119.おっちゃんちに顔を出しに行く

 泥だらけのニワトリを洗うのが難儀です。ニワトリ洗い、一時的にでも誰かに依頼したい。

 ……無理だけど。

 さすがに相川さんが来ていた時は遠慮していたのか、あまり汚れて帰ってはこなかった。でも相川さんがいなくなった途端泥だらけ、砂だらけになっている。あのさ、一応俺の指治ったって言っても完治したわけじゃないのよ? まだ痛むのよ? って言っても聞いてくれない。一週間我慢してくれたんだからしょうがないかーと諦めて洗っている。だいたいのことはゴム手袋を使えばどうにかなる。時々羽が刺さって痛い。やっぱり痛いものは痛い。

 ユマとも一緒にお風呂に入るのを再開した。すごく喜んで、珍しく羽をばしゃばしゃしていた。濡れる濡れる。かわいい。

 さすがにいつまでもはばしゃばしゃしなかったので二人でぼけーっとした。幸せだなってしみじみ思った。

 注意一秒怪我一生とはよく言ったものだ。ちょっとの油断で怪我をして、それがそう簡単には治らない。ニワトリたちにさびしい思いをさせてしまったし、俺も指が使えないことでかなり不便を強いられている。気を付けないとなと改めて思った。


「ユマ、熱くないかー?」

「アツクナーイ」


 かわいい。本当にユマはお風呂好きだ。洗い場でブルブルしてもらって水気をできるだけ切ってからバスタオルで丁寧に拭いていく。冬になったらドライヤー必須だろう。それよりもストーブかな。石油、買ってくるようだよな。

 そんなことを考えながら寝た。

 翌朝もタマとユマの卵をもらって元気いっぱいです。

 で、ちょっと調子に乗ったらしく指をぶつけた。


「~~~~っっっ!!」


 ポチとタマにすんごく冷たい目で見られました。ねえひどくない? 身体とか洗ってあげてるのにひどくない?


「今日はおっちゃんちに行くけどどうする? そんなに長居しないから、夕方前には帰ってくるけど」

「イクー」

「アソブー」

「イクー」


 はいはい、タマさんはパトロールと。ポチはどちらかといえばお出かけが好きなようである。タマは、うちの山はアタシが守るっ! ってタイプ。決してインドアとは言わない。思いっきりアウトドアだ。なんか最近裏山まで出張してるんじゃないかと思うこともある。なんか見たことがない葉っぱとかつけてたりするんだよな。クマとかに遭わないことを祈る。

 昼前から出かけるということでポチも近くにいてくれた。家の周りや空き家をさぐってマムシを捕まえた。

 いる? って顔をされたのでありがたくいただくことにした。パトロール中に見つけたのは普通に捕食してるんだろうな。


「ポチ、ありがとうなー」


 マムシなんて噛まれたらたいへんだから捕まえてくれるのは本当にありがたい。ペットボトルに入れて、と。おっちゃんへのいい土産ができた。


「あ、そっか……手土産……ビールでいいよな」


 24缶入りを一箱でいいだろう。途中雑貨屋に寄って買ったら、


「宴会でもあるのかい?」


 と聞かれた。


「いえ、ただの手土産ですよ」

「ほーう、豪儀だねえ」


 ビール24缶入り一箱で豪儀だなんて大げさだ。


「いやいや……」


 と手を振っておっちゃんちに向かった。「今日は煎餅はいいのかい?」と聞かれたから俺は煎餅を買いすぎだと思う。手土産にも自分のおやつにもなるんだから煎餅は優秀じゃないか。

 おっちゃんちに着くと桂木さんの軽トラがあった。本当に女性は行動が早い。特に食が絡むと手伝いがあるから余計なんだろう。この村では、男は飯時はふんぞり返っているものだ。男が台所に立つなんてとんでもない! という前時代的な風習がまだ残っている。だから桂木さんも村では村のやり方に従っている。確かに波風立たないようにするにはそれが一番だろう。俺的には少しもやもやしてしまうのだけれども。

 ポチとユマを下ろしたところで桂木さんが出てきた。


「あ。佐野さん来ましたよー」


 家の中に声をかけてくれた。


「指はどうなりました?」

「あるよ」

「あるのは知ってます!」


 そっか、知ってたかー。玄関に顔を入れて、


「こんにちはー。ポチとユマ、畑に行かせていいですかー?」


 と聞いた。「いいわよー」とおばさんの声が聞こえたのでそのように指示した。ポチとユマはツッタカターと畑に駆けていった。基本的に秋植えをほじくり返したりはしないから大丈夫だろう。

 桂木さんにビールを持ってもらい家の中に入る。さすがにマムシを見た時嫌そうな顔をされた。


「おっちゃーん、マムシ捕ってきたよー」


 ドタドタドタと音がしておっちゃんが廊下を駆けてきた。


「おー! 昇平ありがとなー!」


 おばさんがなんともいえない顔をしている。確かに、家の横にある倉庫の棚はすでにマムシを入れた酒でいっぱいだ。まだ増やすのかと呆れているに違いない。俺は内心おばさんに謝った。


「もう、そんなにマムシばっかり集めてどうするのよ。三年漬けるったって、三年後にはアル中まっしぐらじゃないの」

「いくらなんだって一人で飲むわけねえだろ!」


 あああああ、夫婦喧嘩の要因に……。

 ハラハラしていたらおばさんはバツが悪そうな顔をした。


「昇ちゃんは一つも悪くないのよ! 今日のはかば焼きにしましょうね」

「そ、そんな~」


 おじさんが情けない声を出していたが、マムシのかば焼きはおいしそうだと思った。

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