118.一応治りました
……うん、相川さんが西の山に帰ってもちゃんとやれたよ。あちこち手をぶつけてその度にうずくまっていたりはしたけど! それ全然できてないじゃん! とかいうツッコミはいらないよ!(誰に向かって言っているのか)
やっぱり作業をする際は絆創膏があった方がいいという結論になった。それでも縫ってもらったから治りは早いと思う。
俺が指を負傷したことで鳥居作りは完治してからという話になったようだ。別に俺のことは気にせず養鶏場の方で作ってくれればいいのにと思ったが、そんな暇はないのだろう。
相川さんが帰った翌日は山の中を見て回った。相川さんに指摘された箇所を再度チェックして必要な物品をリストアップしていく。それにしても涼しくなってきたら蚊が多くなるのが困りものだ。昼間はそうでもないのだが夜のうちに雨が降っていることが多いらしく、朝起きるとそこかしこに水たまりができていたりする。泥だらけになるほどではないが蚊が増えるのは本当に困る。それでもユマがけっこう器用にぱくりぱくりと食べてくれるので家の中では蚊の被害はない。って、ニワトリって蚊も食べるんだっけ? タンパク質足りてないのかな。
畑の抜き取りはそろそろ真面目にやらないといけないだろう。秋植えをそろそろしないと間に合わない。
そんなことを考えていたら桂木さんから恒例のLINEが入った。
「指の具合はどうですか? 買い出しが必要なら言ってください!」
これは一度ぐらい頼んだ方がいいんだろうか。でも自分で行った方が早いしな。それにそろそろおっちゃんちにも顔を出さないといけないし……。
「大丈夫です、ありがとう」
と返したら今度はLINEで電話がかかってきた。うわあ。
あまり出たくないと思いながらも電話に出る。
「佐野さん! なんで頼ってくれないんですかあっ!」
電話越しに怒鳴られた。
「いや、相川さんが帰宅ついでに買い出し行ってくれててさ。だから特には……」
「昨日相川さん帰ったんですよね!? 私知ってますよ!」
「買物なんて毎日行く必要ないだろ……」
基本俺一人なわけだし。ニワトリたちにタンパク質がほしいようなことを言ったら、昨日相川さんが豚肉買ってきてくれたし。
「気にしなくて大丈夫だから。指もだいたい治ったから明日おっちゃんちに顔出す予定だし……」
「そうですか? 運転できなさそうだったら言ってください! 足ぐらいにはなりますんで!」
「大丈夫だっての」
何をそんなに桂木さんは張り切っているのだろう。もしかして相川さんと似たような理由なんだろうか。まぁ、山暮らし同士連絡は密にしておいた方がいいだろうし、お互い何かあった時はお互いさまなんだろうけど。
「そういえばもうすぐ四連休だな」
「どこか行きますか!?」
「いや、行かないけど……」
話をそらそうとして失敗した。
「じゃあなんで四連休……って鳥居の計画はまだ先ですよね?」
「うん。来月あたり試しに一基作ってもいいかなとは思うけど」
「不法投棄対策が必要ですね!」
「そうなんだよなぁ」
でも確か、と思い出す。おっちゃんやおばさんが山菜採りをしにくると言っていた気がする。知り合いには四連休に集中して山菜採りをしてもらえば不法投棄もしにくいんじゃなかろうか。
「明日おっちゃんに相談してみるよ」
「えっと、それって私も行っちゃだめですか?」
「不法投棄対策の話?」
「ええまあ……」
「だったらおばさんに連絡しといてくれ。俺はおっちゃんに話すから」
どちらか一方が連絡してまとめた方がいいのかもしれなかったが、今回はもうさすがに面倒だった。指はもう治ってきてはいるけどそれでも思うように動かせなくてストレスが溜まっている。今夜は早く寝ようと思った。
「おっちゃん、明日行くからよろしくー」
「おー、ごみはまとめて持ってこいよー」
食べ物のごみは畑の横に埋めればいいが、プラスチックや紙ごみなどを山に捨てるわけにはいかない。家庭ごみはおっちゃんちに預けて、そうでないものは自分でごみ処理場に運んでいる。これは前にも言った気がする。
明日は昼頃来いと言われた。昼食をいただけるらしい。桂木さんもおばさんに連絡したらしく、「お前ら一緒なんだろ?」とおっちゃんに言われた。用件は多分同じかと思われる。山菜採りの話だと本当は相川さんにも聞いた方がいいのかな。あっちこっちといろいろ考えたらやっぱり面倒だった。
「秋の山菜採りってきのこがメインですよね……看板のチェックをしないといけないなぁ……」
相川さんに連絡したら困ったように言っていた。きのこ狩りはこっちが思っているより難しい。シイタケかと思ったら実は毒キノコだったなんてざらにあるし。おっちゃんとおばさんはベテランらしくあやしいと思ったものは絶対採らないのだとか。うん、それぐらいの慎重さは大事だと思う。
「看板っていうと、私有地につき、ってやつですか」
「知り合いならいいんですけどね、時々勘違いした人たちが町からやってくるんですよ」
「ああ……」
山に所有者がいるとは微塵も思っていない人たちだろう。
「なので猟友会を通じて周辺の見回りを頼んでいます。もちろんお金は払ってますよ」
うん、お金は大事だ。そんなたいへんなことボランティアとか冗談じゃない。
「猟友会以外でも頼めるところとかあるんですかね」
「一応シルバー人材センターのようなところはあるみたいです。そこだと用途によって料金が決まっていますから話はしやすいかもしれません」
「ありがとうございます」
俺ってなんにも知らないよなぁと反省しながら電話を切った。
今日もタマとユマは卵を産んでくれた。俺、幸せ者だと思います。
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