77.お盆のイベントに向けて準備する

 梅雨の時期にニワトリを貸し出していたせいか、話はスムーズだった。

 今年は8月15日が土曜日なのでその前の週から会社が休みになるところが多いらしい。8日の土曜日から16日の日曜日まで、9日間がお盆休みと考えてもいいだろう。(会社によって休みの期間は変わる)

 ニワトリとごみ拾いをしようウォーク(そのまんまだな)は8日、12日、16日の朝方からに設定した。うちの山から二手に分かれて相川さんちのニシ山の端まで行って帰ってくる組、桂木さんのナル山の端まで行って帰ってくる組に分ける。ニワトリを貸し出した農家の子どもたちのほとんどが参加することになったのだ。総勢15人。多いんだか少ないんだかはよくわからない。


「……多分12日は増えるだろうな。スマホの持込はさせないようにしないとな……」


 おっちゃんと相談している時そんな話になった。おっちゃんもうちのニワトリの特異性は理解している。この村の人間はいいが、家族とはいえよそから来る人には気を付けなければいけない。


「……それかいっそのこと、ニワトリの背中にファスナーつけますか?」


 相川さんの提案にそれだ! とサムズアップする。ファスナーだけだといじられる可能性があるので、ファスナーをつけた上に薄手の布で作ったポンチョのようなものを被せ、ファスナーの上の方だけが見えるようにするなどいろいろ考えてみた。


「でもそのポンチョは?」

「……裁縫は?」


 三人で顔を見合わせた。ところはおっちゃんちである。


「おばさーん……」

「裁縫? 布は古いのがいくらでもあるけど縫うのはねぇ……」


 おばさんには断られた。裁縫系は苦手らしい。

 提案はしてみたものの困った。そしてそんな時は、


「桂木さんて裁縫とか好きですか?」


 桂木さんにLINEを入れたらポンチョを縫ってくれると言ってくれた。


「縫います縫います! ミシンあるので余裕ですよ! あ、でも上からすっぽり被せられた方がいいですよね。サイズ測りに行ってもいいですか?」


 ということでうちの山に来てもらうことになった。布はおばさん提供である。いろいろ手伝ってもらって本当に申し訳ない。それと参加者には保険に加入してもらうことにした。一日だけのスポーツ・レジャー保険で一人当たり300円というのがある。これだと一日300円で三日参加だと900円かかってしまうが、参加費として一日参加しても、三日参加しても300円にした。それ以上は俺が出す形だ。

 BBQ用の鶏肉は養鶏場の松山さんが手を挙げてくれた。もちろん実費相当額は払う。本当はおっちゃんと相川さんにも礼金を払わなければならないのだが、断られた。

「楽しいからいい」と。

 ありがたいけど気前がよすぎだと思う。

 桂木さんは別の日にドラゴンさんを連れて訪ねてくれた。


「こんにちは~」

「こんにちは、来てくれてありがとう」

「あ、ニワトリちゃん……ポチちゃん、ユマちゃん、タマちゃんでしたっけ? タツキとお邪魔します。こちらで虫とか獣とか狩ってもいいですか?」


 ポチが代表して首を下げるように動かした。うん、桂木さんもいい子なんだよな。それにしても獣を狩るか……鹿を食べていたと聞いたような気がする。さすがドラゴンさん、ちょっと怖い。

 ドラゴンさんはのっそりのっそりと動く。すぐにうちのニワトリたちとなにやら分かり合ったようだった。ドラゴンさんは家から離れたところにある木陰で落ち着いた。タマが近寄ってつついている。身体についた虫などをとっているのだろうか。


「ええと、首回りとかさっそく測らせてもらいたいんですが……」

「じゃあ土間でいいかな」


 玄関を開け放って一羽一羽寸法を測ってもらった。ファスナーはダミーとして、子ども一人ぐらいならかろうじて入れそうな大きさのものを用意してもらった。それが首の後ろから覗くようにしてポンチョを作ってもらうことになった。フードがないからポンチョというよりもケープに近いかな。


「明日にはできると思うので、湯本さんちにお届けすればいいですか?」

「そうだね。そうしてもらえると助かるかな」


 村の子どもたちは問題ないだろうが、村外から参加したいという人が現れた時が厄介だ。こんなカモフラージュをしなければいけないことが面倒だったが仕方なかった。平穏に暮らしたいと思うなら、それぐらいの手間はかけるべきだ。って俺はほとんどなんもしてないけど。


「男の料理で悪いけど……」

「いえいえ、すごいと思います!」


 うちの縁側の向こうはしっかり刈り込みをしていないので、土間から続く居間で昼食を出した。

 みそ汁に炊き込みごはん。漬物とサラダ、肉野菜炒めというなんの変哲もないメニューだ。一人だと肉を焼いてあとは漬物とごはんなんて食事になる。ニワトリが野菜をけっこう食べてくれるので、生で食べられる野菜は適当に切って摘まんでいたりはする。基本山暮らしは肉体労働なので漬物がやたらとおいしく感じられる。


「はー、料理ができる男性っていいですよね……」


 しみじみ言うのはやめてほしい。


「俺なんかできるうちに入らないよ」

「いえいえ、みそ汁を作れる男性ってポイント高いです!」


 だし入れて最後にみそ入れて溶かすだけじゃないか。みそ溶かし用のざるがなかったら絶対やってないけど。あのざるを考えた人は天才だと思う。


「何入れるかとか考えてスープ作るよりは簡単だと思うけど……」


 味付け、みそだけだし。


「佐野さんのスペックが何気に高くてくやしいです……」

「はい?」


 料理スキルでもなんでも相川さんは持っていると思うが、あえてそこには触れなかった。桂木さんに食いつかれたら恨まれかねない。相川さんから桂木さんにモーションかけるならいいと思うけど。モーションかけるってもう古いのかな。

 桂木さんはのんびり過ごして帰って行った。


「サワ山もいいですね。また遊びにきてもいいですか?」

「次はお弁当持ってきてね」

「えー、冷たーい! 佐野さん私への扱いひどくないですか!?」

「そんなことないよ」


 誰にもあまり足を踏み入れてほしくないのは確かだ。桂木さんが帰った後、この家に住んでいた元庄屋さんから連絡があった。できれば9日頃元集落の人たちと共に墓参りに来たいという。


「8日は用があるので対応できませんが、9日であればいいですよ」

「8日はごみ拾いをするんだろう? 聞いているよ」

「ええまあ……」


 そんなところまで連絡がいっているのかと思った。そして着々と準備は整い、お盆休みの前日になった。

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