76.お盆はどう過ごしたものか

 相川さんに電話をかけたらすぐ出てくれた。


「お盆って何か特別なことありましたっけ?」

「僕たちには直接関係はないんですけど、正直ゴールデンウィークよりもたいへんです」


 ため息混じりにそう言われて、ああ、となんとなく予想がついた。

 よくTVなどで見るあれである。帰省だ。GWは帰省というより旅行がメインの人が多いので、全国的に動くといってもそれほど特色のない村にはあまり縁がない。だがお盆は帰省がメインの為、車の出入りも多くなるし知らない人が一時的に村内に増える。


「……一度ぐらい湯本さんちに顔を出すようには言われてるんですけど……」

「顔を出すのはかまいませんが、ニワトリは連れて行かない方がいいでしょうね」

「……確かに」


 知らない人に見咎められて、写真を撮られてSNSになど上げられてはたまらない。うちのニワトリは見世物ではない。


「じゃあ、基本はお盆前に買い出しをして山に籠った方がいいですかね」

「見回りもした方がいいです。山には所有者がいないと思っている人もいますので」

「そうかもしれませんね」


 麓の柵のところには、「ここから先は私有地です」という看板があるがそれを無視する輩がいることも確かだ。ただ山を登るぐらいならいいが、火遊びなどされてはかなわない。山火事になったとしても逃げられるだけだ。


「不法投棄も増えるんですよ。ちょっとしたものがほとんどではありますけど」


 そういうのなんとかならないのかなって本当に思う。防犯カメラを設置するったって金もかかるし。


「村の方々も、山には所有者がいるから近づかないようにってご家族には言ってくれているんですけどね……」


 じゃあ山で悪さをするのは誰なんだろう。


「そうすると、不法投棄とかするのはどういう人たちなんでしょう?」

「まぁ、簡単に言ってしまえば村外の人ですね」


 よくわからなかったが、悪いことを考える輩がいるということだろう。


「相川さんは毎年この時期どうしてるんですか? 不法投棄対策とか……」

「日が落ちてから明け方までが多いので主にテンに見回らせてますね。懐中電灯を顔の下辺りにつけさせて」

「……うわぁ……」


 想像するだに怖い光景だ。普通の人が懐中電灯で顔を下から照らしているだけでもけっこう怖いのに、それを大蛇にさせるだと?


「テンさんは眩しくないんですか?」

「意外と周りが見やすくて楽しそうですよ」


 ああ、本人も楽しんでいるわけか。


「効果あります?」

「そうですね。悲鳴はよく聞こえるそうです」


 まぁ夜中に通りがかってテンさんを見るってことは、何かしようとしていたわけだから同情の余地はない。肝試しとかも同様だ。あれも意外と不法投棄が多いらしい。


「あとは山の周辺をできるだけ清潔に保つことぐらいですね。これが意外とたいへんなんですけど……」

「そうですよね……」


 山の周囲はけっこう広いのだ。道に沿っている場所だけでも相当ある。


「でも、佐野さんちはニワトリがいますから、やり方によってはキレイに片付くんじゃないですか?」

「え? そうですかね?」


 ニワトリになんの関係があるんだろう。


「え? だってニワトリが村の手伝いをしていたんでしょう?」


 そこまで言われてやっとピンときた。


「子どもたちを、使うんですね……」

「もちろんニワトリの協力は欠かせませんけどね」

「そうですね。ありがとうございます! また今度改めてお礼をさせてください」

「気にしなくていいですよ~」


 さっそく俺はおっちゃんに連絡をとった。


「ニワトリと一緒にごみ拾い? 昇平、考えたなぁ」

「ヒントは相川さんからいただきましたけどね。朝方うちの前の通りをニシ山の麓付近からナル山の辺りまでニワトリと歩きながらごみ拾いをしていただけたらどうかと思ったんです。終った後はうちの山の麓辺りで遊んでくれてもいいですし」

「お前な、手柄は独り占めにしなきゃだめだろ。そりゃあ面白そうだ。子どもたちが喜ぶだろうから声かけてみるわ」

「お願いします」


 BBQぐらい準備するようだろうか。それなりに出費はあるだろうが、不法投棄のごみ処理費用を考えたら安いものだ。何よりみんなに楽しんでもらえる。

 改めて相川さんに電話をして伝えると喜ばれた。


「みんなでBBQもいいですね。お盆の間に三回ぐらいやるといいと思います。そういうことならテンには佐野さんの山の見回りもさせますよ。BBQの費用も出させてください」

「いえいえ、これは俺の発案ですから……」

「僕が出したいんです。出させてください」


 相川さんは柔和な雰囲気だがなかなかに強引だ。


「は、はい……」


 桂木さんにも一応LINEを入れた。すぐに電話がかかってきた。


「なんですかその楽しそうなの! 私も参加させてくださいよ!」

「……帰省は?」

「できるわけないじゃないですか! 少なくとも一回は参加させてください! あ、もちろんBBQにかかる費用は出しますよ!」


 なんてみんなそんなに気前がいいのか。桂木さんが参加するなら相川さんは別の日にしないとだな。ここらへんはまた話を詰めよう。お盆まであと一週間というところだ。また忙しくなりそうだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る