43.隣山にお邪魔した。気になる理由はちょっと違ったみたい

 ニワトリたちは田畑の密集した同じ場所を二日間巡り、毒蛇などを駆除していく。いなければそれでいいし、いたらみんなで食べてしまうそうだ。なんかどこぞのアイドルがそんなことをやっていた気がする。グリルなんとかだっけ。駆除するだけじゃなくて、その命をいただくって大事だよな。そういうこと考えるのは人間らしいけど。

 今日はユマと一緒に桂木さんの山に行く。天気は、今にも泣きだしそうな曇だった。降らなければいいなと思う。桂木さん宅では縁側にいるだけなので。少し降ってるぐらいなら風情があっていいのだけど。

 山の手入れは村の人にお金を払ってやってもらっているそうなのでそこまで荒れているかんじではない。ただ、道の整備もできることならしてもらった方がよさそうではある。

 手土産はうちに買い置きをしていた煎餅にした。だんだんいいかげんになるものだ。そう考えると相川さんちへの手土産とか特に持ってってなくてひどい。初心にかえらないとなと少し反省した。


「こんにちは」

「こんにちはー佐野さん、来ていただいてありがとうございます」


 今日も畑仕事をしていたようだった。俺も帰ったら畑の確認をしないと。

 野菜籠にきゅうりやししとう、えんどう豆などが入っている。ししとうおいしいよな。


「タツキさんはー、と……」


 畑の側の木の下にドラゴンさんがいた。


「こんにちは、タツキさん。お邪魔しています。うちのニワトリが虫等食べていってもいいですか?」


 ドラゴンさんは今日も薄っすらと目を開け、軽く頷いてくれた。


「片付けてきますね」

「あ、手伝います」


 桂木さんから籠を受け取って家の前まで運ぶ。


「ありがとうございます。今お茶を用意しますね」

「おかまいなく」


 縁側に腰掛けた。ユマは俺から離れない。


「ユマ、遊んできていいんだぞ」


 ユマが何を言ってるの? と言うように首をコキャッと傾げた。かわいい。手を伸ばして羽を撫でる。毎日お風呂に一緒に入っているユマの羽はキレイだ。ポチとタマが汚いという話ではない。あの二羽も砂浴びだの水浴びだのは自分たちでしているし、汚れたら俺が洗っている。鳥ってそんなに洗っていいものなんだっけ? と首を傾げてはいるが、本人たちが元気だからいいんだろう。


「お待たせしました」


 家の内側から桂木さんがお茶とお茶菓子を出してくれた。ついでに白いブタの蚊取り線香が出てきた。そういえばもうそんな時期である。


「ありがとうございます。あ、これ」

「ありがとうございます。今ごはんの準備をしますから待っててくださいね」

「はーい」


 手土産の煎餅を渡すのを忘れていた。桂木さんは素直に受け取ってくれた。

 今日のごはんはなんだろう。

 風が吹いてきた。気持ちいいな、と思ったところでチリンチリンと音が鳴る。上を見ると、縁側にかかる屋根のところで風鈴が揺れていた。ブタさんの蚊取り線香に風鈴。日本の夏だなぁというかんじだ。うちも縁側に風鈴ぐらいつけた方がいいんだろうか。縁側でゆったりする時間とかまだとれないけど。


「お待たせしました~」


 ガラス障子が内側から開いた。

 今日はそうめんだった。


「おいしそうです」

「けっこう暑くなってきたのでこういうのがいいかなと思いまして」

「そうですね。いただきます」


 千切りのきゅうり、ハム、薄焼き卵。薬味に大葉とみょうが。ししとうとえんどう豆は茹でて出てきた。つるつるとしたそうめんの喉越しが心地いい。そういえばみょうがは日本でしか食べられないなんて聞いたことがある。


「おいしいなぁ……」

「よかったです。ししとう、いっぱい採れたので持っていきませんか」

「ありがとうございます。いただいていきます」


 ししとう、焼いて食べるとうまいんだよな。そのままでもイケるけど。

 ある程度食べて胃が落ち着いた頃、桂木さんが口を開いた。


「あのぅ……あの尻尾って……」

「ああ、蛇ですか。聞いてないので、まだわからないんじゃないですかね」

「尻尾だけじゃわかりませんよね。普通の蛇だったらいいんですけど……」

「そうですね」


 俺と桂木さんの間にはユマがいて、今日も最低1mは離れている。これぐらいの距離がいいなと思うのだ。


「あの、佐野さん」

「……はい」


 なんか切羽詰まったような声音に緊張した。何を言い出すんだろう。どきどきする。


「私、ここにきて二年以上が経ちました」

「はい」

「でも、相川さんに会ったのはこの間が初めてです」

「……そうなんですか」

「そうなんです!」


 橋渡ししてくれとか言われたら断ろう。ストーカー問題がどうにかなったとはいえ、相川さんがまだ妙齢の女性を苦手としていることには変わりないようだし。


「噂では聞いていたんですけど、あんなにカッコイイ方だなんて思いませんでした!」

「そうですか」

「佐野さんも、相川さんのことカッコイイって思いませんか!?」


 ん? なんだろうこのへんなかんじ。


「ええ、まぁ……アイドルの誰かみたいですよね」


 思っていた通りのことを答えた。


「ですよね! この間近くにいらっしゃったからもうどきどきしてしまって。惚れっぽくて本当にだめなんです、私。同棲してた人も顔だけは本当によくて」

「そうなんですか」


 へー、メンクイなんですね。対象外だからって泣かないぞ。


「でもそんな自分から脱却したくてここに来たんです! なので!」

「はい」


 なんだろう。


「私、相川さんと佐野さんの仲を見守りたいと思います!」

「…………は?」


 何言ってんだろう、この子。頭沸いてんのかな。思わず口から出そうになった。いけないいけない。


「……えーと……?」

「あ、誤解しないでください! 私腐った女子ではないので! なんか佐野さんと仲良くしてる相川さんていいなぁって。男同士の友情っていうんですか。そういうのに憧れるんですよね」

「ああ……」


 何を言ってるんだかさっぱりわからないけど、慌てた様子でそう言ってるからそうなんだろう。あまり追及する気もないからそれでいいや。


「まぁ、行き来はしてますけど」

「……そういうのいいですよね……。あの……相川さんとの話とか聞かせてもらえると嬉しいです」

「……特に話すことなんてないですよ?」


 なんか桂木さんが近づいてくる。ユマが間にずずいっと入ってくれた。ありがとう。


「町に一緒に行ったりしてるんでしょう?」

「ええまぁ」


 なんか話すことなんてあったかな。


「……そういえば前に相川さんの山に泊まりましたね」

「詳しく!」


 なんだか別の意味で桂木さんが怖いです。でも元気ならそれが一番いいと思う。差支えない程度に、俺は桂木さんに話した。

 帰りに、本当に山ほどししとうをもらった。どんだけ植えたんだろう。


「ありがとうございました! またお話してくださいねー!」


 満面の笑みを浮かべた桂木さんが手をぶんぶん振って見送ってくれた。なんだかなぁと思った。


「なぁユマ……腐った女子ってなんだろうな?」

「……ナンダロウネー」


 コキャッと首を傾げた姿がかわいかった。うん、ユマはすんごくかわいい。





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「世間知らずの八十八歳」

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88歳なのは間違いないんだけど? さらりとどうぞ~



腐女子 やおいやBL好きの女子のこと。(らしいです)

だからBLじゃないって言ってるでしょー。

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