六月頃

19.ニワトリの成長が著しいのだけどどうしたらいいんだろう

 うちのニワトリ共が微妙に成長している気はしたんだ。多分昨日の時点で70cmぐらいあったかもしれないのだが(4月の終り頃で50cmぐらいだったはず)、毎日一緒にいるから気のせいだと思うようにしていた。でもさすがに一晩でここまで成長したらわかる。


「……どうしよう」


 成長が早すぎてついていけない。身体とか痛くないんだろうか。


「成長痛とかないわけ?」


 首を傾げて聞くと、三羽とも同じ向きで首を傾げた。くそう、でかいのにかわいいな。


「骨とか一気に成長するわけだろ? どっか痛くないのかって聞いてんの」

「キイテンノー」

「キイテンノー」

「キイテンノー」

「……お前らわざとだろ……」


 どうやら身体に痛みやら違和感やらはないらしい。


「……獣医……ったってわかるわけないよな。ニワトリなのに尾が爬虫類系だもんなー」


 トカゲというかなんか立派すぎてやっぱ恐竜っぽい。許可を得て尾を触らせてもらう。すべすべしててけっこう堅かった。骨もしっかり入っているようである。羽毛恐竜だなと思った。


「……これじゃ切り離すことはできないよな」


 やはりトカゲの尻尾とは違う。そしてくちばしを開けてもらうと鋭いギザギザの歯がいっぱい生えていた。こわっ。うちのニワトリこわっ!

 調べたら一般的なニワトリに歯はないらしい。卵から産まれた時くちばしの先についていたりするそうだがそれはすぐに消えてしまうんだとか。こんな如何にも肉食獣です! と主張するような歯はないようだ。だからお前らは本当になんなんだよ。


「あの時……他に買った人っているのかな……」


 他のうちでもこんな風に育っているのだろうか。

 想像してみる。


「うーん……でもこんな風に育ってたら目立つよな……」


 そもそもどれだけの人があのカラーひよこを買ったのか。それに桂木さんのところのドラゴンさんとか、相川さんちのリンさんたちの例もある。こんな生き物たちをみんなが育てていたら話題にならないはずがない。なんとも不思議な話だった。


「なんかあったらすぐ言えよー」


 考えてもしかたない。今日は買い出しに行かなければいけないのでその前に草むしりをすることにした。

 うちから離れたところだと根っこからなんて抜いてられないから電動の草刈り機で刈っていくのだが、さすがに畑の周りは根っこから引っこ抜くことにしている。某アイドルがガチで作った無農薬農薬を撒いてあるので虫はつかない。ただしニワトリたちもあまり近づいてはこない。でもよく考えたらうちのニワトリって虫食べるんだから無農薬農薬もいらなかったかもしれない。でもなー、作物には安心して育ってほしいよなー。

 うちの畑でもきゅうりが実り始めた。小松菜もでき始めたのでほくほくである。こういう自分で食べるものを作るっていいよなーとほのぼのしていたらスマホが鳴った。

 おっちゃんからだった。


「今日は来るのかー?」

「はい、買い出しに行くつもりなのでその前になりますけど」

「昼飯食いに来いよー」

「はーい。あ、ニワトリがまた大きくなったんで、びっくりしないでくださいねー」


 おっちゃん夫婦はよく俺のことを気にかけてくれていて、こうしてよく声をかけてくれる。用事がある時はお断りすることもあるが、だいたいは素直にお世話になることにしていた。


「野菜って……おっちゃんちも作ってるしなぁ……」


 なにかお土産に持っていくものはないかと思っていたら、ポチがなんか大きいものを咥えてやってきた。

 ええー、嘘だろー。


「えええ……うさぎとか……」


 野ウサギだった。耳が短めで後ろ足が長い。ポチに咥えられながらも暴れている。


「おっちゃーん、ウサギってどうすればいいのー!?」


 急いで電話をかけて聞いたら、この辺りでは準絶滅危惧種だから被害がない限りは離してやれとのことだった。ほっとした。


「ポチ、奥の方まで行ってポイしてくれ。うさぎはダメだってさ」


 ポチは素直にノウサギを咥えたまま駆けて行った。見た目がかわいいウサギだが場所によっては害獣である。ペットなどとして親しまれている反面、農作物は食べるし、木の樹皮なども食べるから林業にも影響する。


「まぁ昔は日本でも普通に食べてたしな……」


 跳ねるから鳥の扱いにして一羽二羽と数えているぐらいだ。(現代では一匹二匹と数えることが多いそうな)確かあれって江戸の第五代将軍徳川綱吉が制定した「生類憐みの令」かなんかが発端ではなかったか。別に動物がメインじゃなくて、捨て子や病人を保護する為に作られた法令で動物はオマケだったはず。鳥は確か対象外だったからウサギを鳥の扱いにして食べたんだっけ。「生類憐みの令」は天下の悪法だなんて言われてはいるけど、捨て子保護はその後も継続されている。ってウサギの話だった。

 害獣だなんて言われているけど、俺自身は直接被害を受けているわけじゃないから実感がわかない。つまりはそういうことなんだろうと思う。オーストラリアではウサギによる被害が深刻で、州によっては買うのも売るのも違法だとか聞いたことがある。オーストラリアの場合は人間が持ち込んだことが原因だけど。

 ウサギでもシカでも見た目がかわいいから余計に可哀そうだのなんだのと言われるが、もし自分がそれによって被害を受けていたらそんなことは言ってられない。批判するのは簡単だが少し考えようと思った。

 前回おっちゃんちに行った後に捕れたマムシ入りのペットボトルを積み(いつまでマムシ捕れるんだよ。この山危険すぎるだろ)、今回はタマがお供をしてくれることになった。タマはけっこう俺には厳しいから真面目にしないといけない。でも何をどう真面目にすればいいんだろう。


「じゃあ行ってくる。日暮れまでには戻るから見回りよろしくなー」


 ポチとユマに山を任せ、軽トラを走らせる。ニワトリってどれぐらい生きるんだっけ。もうニワトリたちがいない生活は考えられなかった。

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