二十五話 おにぎり決闘

「今から俺様とルイス・ラボーで剣闘技による決闘を行うっ! 審判ゴブリンの合図と共に始める! この剣と剣の語らい、誰も邪魔するんじゃねーぞ!」


 バーベキューの機材は片づけられ、周囲は決闘の準備が整った。先ほどまでバーベキュー会場だった開けた土地の中央にはルイスとキングゴブリンが佇んでいる。二人の横には審判らしきゴブリン、更にその周囲には一般的なゴブリン達とプリマリアがアイスクリームを片手に戦いを見る姿勢になっていた。アイスクリームは先ほどキングゴブリンが持ってきていた奴だ。

 

 キングゴブリンは堂々とした様子で剣を持っていた。剣はとても巨大でありながら洗練された物で、キングゴブリンのこだわりを感じられると同時にキングゴブリン自身の腕力の高さが伺える。

 一方ルイスは冷静な表情で両手におにぎりを持っている。真っ白で温かみのあるそのおにぎりは食欲をそそる一品で……。


「……いや、剣で戦えっつっただろーがよ!? なんでおにぎり両手に持ってるんだよ!」


 キングゴブリンからのツッコミが入った。ルイス、いきなりのルール違反であった。


「俺の戦法はおにぎり流が主流だからな。おにぎりを持って相手をバッタバッタと薙ぎ払う」

「食べ物を粗末に扱うんじゃねぇ! いいからそのおにぎりどっかにしまって剣持てやっ! 持ってないなら貸すからっ!」

「一番戦いやすいスタイルなのに……。もぐもぐ」

「これからバトろうって時に呑気におにぎり食いやがって……むかつく」


 キングゴブリンに言われ、ルイスは渋々と両手のおにぎりを全部食べた。戦いの気分を削がれたキングゴブリンは苛立たしい表情をしている。


 そしてルイスは道具袋から、剣のような物を取り出した。だがそれは持ち手、刀身、鞘全てにおにぎりが施されたデザインで、とても戦闘用とは思えない。


「……そのよく分からん剣のデザインにはツッコまんからな。とにかく、決闘なんだから剣以外は持つんじゃねぇぞ。分かったな」

「分かった。ルールは守る」

「ふん、どこの誰を剣一振りで倒したんだか知らんが……。俺はつえーぞ? お前ごときで倒せるかな?」


 ルール違反やら剣のデザインやらで戦闘意欲がぐちゃぐちゃにされかけたものの、キングゴブリンは気を取り直してルイスを挑発しだした。


「キングゴブリンさん、油断しないでください。ルイス様はああ見えてすっごく強い人なんです。警戒しないとすぐ倒されてしまいますよ」


 その様子を油断していると捉えたのか、プリマリアはアイスクリームを美味しそうに舐めながらキングゴブリンをアドバイスする。


「……嬢ちゃん、坊主の連れなのになんでこっちにアドバイスすんだよ」

「別に負けても私のデメリットはほぼないし、アイスクリームくれた人にフェアじゃない戦いさせたくないなって思ったので」

「人間の社会って、アイスクリームと料理の仕事与えただけでなびく環境なのか……?」


 アドバイスされたキングゴブリンはそう言って、複雑そうな表情になった。




「それじゃあ二人とも、準備は良いゴブか?」


 審判役を買って出たゴブリンが、キングゴブリンとルイスに最後の確認をする。


「あぁ」

「もちろんだ」


 二人は返事をして、剣を構える。そして……。


「では用意……始めっ! ゴブっ!」


 審判のゴブリンは決闘開始の合図を言った。


「へっ、遅ぇっ! 貰ったっ!」


 そう叫んだキングゴブリンの初動はとても早かった。突風のように素早くルイスに近づき、そして自らの剣でルイスに強力な打撃を与えようとする!

 

 が。


「【おにぎりスラッシュ】ッ!」

「もがーっ!?」


 キングゴブリンの剣がルイスに当たろうとしたその瞬間、ルイスがどこから取り出したのかおにぎりをキングゴブリンの口に投げつけた。

 キングゴブリンは突然おにぎりを口に入れられ混乱する。その隙にルイスは自らのおにぎり柄の剣でキングゴブリンの剣をカキィン、と弾き飛ばす!




 ……辺りにいる者達が静まり返る。主に、ドン引きが理由で。 




「ふ、俺の勝ちだな。約束通り人間を二度と襲……

「剣以外使うなっつってたでしょうがー!? あと毎度おにぎりを口に投げるなーっ!」


 剣闘技を汚していつも通りのおにぎりオチにしたにも関わらず得意げになっているルイス。そんなルイスに、アイスを持ったプリマリアは盛大な蹴りを入れたのだった。

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