五話 おにぎりギルドマスター
「そこまでだ」
横からいかつい声が聞こえてきた。その場にいた全員がその方向を振り向く。見ると、二人の人物がこちらに近づいてくる。片方は先ほどまで受付に座っていた受付嬢。もう片方は大きなおにぎり型の頭巾をかぶった筋肉質の男だった。ちなみにそれを見たプリマリアは、ダサい頭巾が流行りなのだろうか……と思っていた。
「あんたは?」
ルイスが訪ねると、筋肉質な男は険しい表情を浮かべながら答える。
「俺はここのギルドマスター、スタルードだ。この受付嬢に呼ばれて来たんだ」
「なるほど、つまりここで一番偉い奴ってわけか」
「そういうことだ、新人くん。ところでそいつを離してやってくれないか」
「あぁ。そうだな」
ギルドマスター・スタルードと少し会話をした後、ルイスはガラワールの腕を離してやる。ガラワールはおにぎりを口にくわえたまま、その場に倒れこんでしまった。
「ぐ、ぐぅ……こんなはずじゃ……。というか、おにぎりうっま……」
「おいガラワール。新人相手に何してんだ」
くわえていたおにぎりを咀嚼し始めたガラワールに、スタルードが詰め寄る。ガラワールは途端に、おとなしい態度を取り始める。
「い、いや。新人だったんでちょっとアドバイスを……もぐもぐ」
「だからって殴りかかることはねぇだろ。みんな見てたんだぞ」
「そ、それは……もぐもぐ」
「お前はしばし謹慎だ。反省するまで仕事はなしだかんな」
「ちっくしょう……もぐもぐ」
ガラワールは、一言悔しそうに言葉を漏らしギルドから駆け足で去っていった。おにぎりを咀嚼しながら。
「お二人とも、お怪我はありませんかー」
ガラワールが去ったあと、先ほどの受付嬢が二人に心配そうに話しかけてきた。
「あぁ。怪我はない」
「よかったー。問題が起こったら客の安全度外視ですぐ上の者を呼びに行く規則なんですよー。なので席を外してしまいましたが……何事もなくてよかったですー」
「上司呼ぶのは理解できますが、客の安全を度外視にしないでくださいよ……」
受付嬢が安堵の表情を浮かべた。どうやらギルドマスターを呼ぶために席を外したらしい。客の安全度外視なのはプリマリア的にどうかと思ったが。
「すまんな、うちの奴が迷惑かけて。勤続三十年のベテランなんだが、どうも新人にちょっかいをかける癖があってな」
「その勤続年数であの態度は逆に凄いですね……」
「まぁ、よく反省させておく。今後はせいぜいおにぎり士として出世した奴を裏通りに追い込んで『へへへ、てめぇみてぇな奴はギルドにいらねぇんだよ。野郎ども、こいつを始末しな!』と部下に暴行させる程度しかちょっかいをかけられないようにするから安心してくれ」
「その暴行させるのを止めてくださいよ!?」
受付嬢の横にいたスタルードは二人に謝罪の言葉を述べ、ガラワールを反省させる事を約束した。約束の内容が中途半端に甘い点をプリマリアは指摘したが、一方でルイスは特に気にしてないそぶりで返事をする。
「大丈夫だ。突然殴りかかられた時は驚いたが、誰も怪我がなくてよかった」
「突然じゃないでしょう、ルイス様。ルイス様が煽ったのも原因の一つです。そこは反省したほうがいいと思います」
プリマリアがルイスに対して横から煽りの反省を促した。
「まぁ、煽りの件はひとまず置いといて」
「置かないでください」
「それより登録の続きだ。さっき書類は出したが、ちゃんと登録はできるんだよな?」
ルイスは煽りの件をいったん置き、まだ受理を言われていない書類申請の続きをやることにした。プリマリアが横で厳しい顔つきになっているが、ルイスはスタルードの方を見ていて気付かない。わざと気づこうとしていないようにも見える。
「そうだな、このまま登録受理……と、いきたいがあいにくそうもいかねぇんだ」
「何故だ? さきほど騒ぎを起こしたからか?」
「いや。登録の前に試験があるんだ。なにせおにぎりのギルドだからな。試験をやらずに採用したら……間違いなく死ぬだろう」
スタルードは申し訳なさそうに言った。おにぎりギルドは危険性が高いらしく、試験は避けて通れないのだそうだ。プリマリアは「ここのおにぎり、修羅すぎる……」と言って呆れている。
「そうか、それならしかたない。おにぎりには危険が付き物だからな」
「なんで皆おにぎり作りをそんな危険行為扱いにしてるんですか。全員炊く時の火の取り扱いがヘタクソなんですか? というかそれ差し引いても爆発するのは異常ですよね?」
「それで、試験の内容は何か教えてくれないか? できるだけお手柔らかに頼む」
「聞けよ」
キレ気味のプリマリアのツッコミを無視し、ルイスが試験の内容を尋ねる。するとスタルードがわずかに笑みを浮かべ試験内容を告知した。
「安心しろ。試験は誰でも知ってる、二千年の歴史を持つ古来伝統の【おにぎりデュエル】だ。お前らも一度はやったことがあるだろう?」
「私知らないんですけど」
「なるほど。【おにぎりデュエル】か……。おにぎりギルドなら真っ当な試験方法と言えるな」
「私知らないんですけど」
「【おにぎりデュエル】は裏手にある練習場で行うから、とりあえず付いてこい。まぁ、ルールは説明しなくても分かるよな?」
「私知らないんですけど」
「もちろんだ。行くぞプリマリア、俺たちのおにぎり力を【おにぎりデュエル】で試すとしよう」
「私何も知らないんですけどおおおおおおっ!?」
こうして、二人は裏手の練習場で謎の【おにぎりデュエル】を執り行うことになった。何も知らないプリマリアは、やる気満々のルイスに引っ張られながら叫ぶのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます