六話 おにぎりデュエル

 いくつかの練習道具が隅に置かれた、やや広めの練習場。

 その中央で、スタルードとルイスが木刀と盾を持って向き合っている。プリマリアは、先ほどいた受付嬢と一緒に隅の方に待機していた。


「これから俺とおにぎりデュエルを行ってもらう! 聞くまでもないだろうが、一応簡単にルールは説明しておく!」

「よかった、ルール説明してくれるんだ……」


 スタルードはプリマリアにもよく聞こえる通った声で、ルール説明を始める。おにぎりデュエルのルールを知らないプリマリアは、少し安堵の表情を見せた。


「このおにぎりデュエルは、一対一で相手におにぎりを食べさせて戦う試合だ!」

「しょっぱなから意味がよく分からない」

「様々な技術を使っておにぎりを食べさせ、なんやかんやあって相手に負けを認めさせればクリアだ!」

「負けの基準が曖昧すぎる」

「ちなみに木刀、盾などの装備品はあらかじめ支給した物を使用する! それらを使って優位におにぎりを食べさせてこい!」

「おにぎりを食べさせる戦いでなぜそんな装備を……?」

「俺が説明できるルールは以上だ! あとはフィーリングでやってくれ!」

「テキトーかよ」


 しかしルール説明は全体的にテキトーかつよく分からない物だったので、プリマリアはすぐさましかめ面でツッコミを入れまくった。


「ちなみに立会人は受付嬢のジョーナにやらせる。ジョーナ、不正がないようにきっちり見ているんだぞ」

「はいー。不正なおにぎりを見つけたら、速攻判定いたしますー」


 ジョーナと呼ばれた受付嬢は、のほほんとした表情で試合がよく見えそうな位置へと移動する。プリマリアは「不正なおにぎりって何だよ」とツッコんだ。


「ルイス、だったな? 先手は譲ってやる」

「いいのか?」

「あぁ。新人おにぎり士だからそこらへんは優しくしないとな。だがあまりにしょぼいおにぎり攻撃してきたら、追い出すから覚悟しとけよ」

「安心しろ。おれのおにぎりはそこまでやわじゃない」

「はは、言うじゃねーか! 新人なのに堂々としてるな!」


 ルイスの落ち着いた表情を見て、スタルードは大いに笑う。どうやらルイスの態度を気に入ったようだ。


「それでは合図をしたら、試合開始してくださいねー。準備はいいですかー?」


 ジョーナが二人のそばに近づき合図の準備を始めると、その場の空気がピシッと引き締まった。ルイスは相変わらず落ち着いた表情であったが、スタルードは先ほどの笑顔が消え真剣な表情となった。


「……おにぎり・ファイっ!」


 ジョーナがちょっと変な合図をし、試合が始まる。先に動いたのは、ルイスであった。

 ルイスは盾と木刀を両手に握りしめたまま、道具袋から炊き立ての米を取り出しそれを一分ほど時間をかけてぎゅむぎゅむと握る。そして出来上がったおにぎりを持ったまま、スタルードの間近まで近づいたのだ。


「なっ、白いおにぎりをそんな超速で……!?」

「一分は超速なのだろうか」


 プリマリアのツッコミが飛ぶ中、あまりの行動の速さに驚くスタルードは何とか反撃しようと木刀を振り下ろす。しかしルイスはそれを盾で防御し、更に木刀を振って牽制、その上に両手に持っていたおにぎりをスタルードの口へと投げ入れる!


「む、むぐっ!?」


 スタルードはおにぎりを直で食べる形となり、思わずしりもちをついて倒れる。ルイスは更におにぎりを作り出そうとしたのか、道具袋に再び手をかけるが……。


「ま、まいった! おにぎりデュエルはお前の勝ちでいいっ!」


 おもわずスタルードはおにぎりをくわえたまま叫ぶ。

 それを聞き、ルイスは「そうか」と言いながらスタルードに近づく。そしてスタルードの片手を引っ張り、彼を起き上がらせた。


「やったぞ、プリマリア。俺の勝ちだ」

「……なんか途中で腕、増えてませんでした? 『盾握りしめて』『木刀握りしめて』『両手におにぎり持って』の動作を同時にこなしてたように見えたんですけど」

「多段おにぎり戦法を使ったからな。同時に並行して複数の行動を起こせたんだ」

「多段おにぎり戦法ってなんなんですか。そもそも、戦法だけで腕は増えませんよね?」

「多段おにぎり戦法は便利だからな。そういうこともできるんだ」

「怪奇現象を『便利』で片づけないでください……」


 ルイスは勝利の喜びを隅にいたプリマリアに伝えた。しかし肝心のプリマリアは途中の動作回数が多い点が気になったようでそこの指摘をした。ただ、ルイスから返ってくる回答は相変わらずよく分からないものだったのでプリマリアの疑問は晴れなかった。


 そんな中、スタルードは負けたにもかかわらずはははと大きな声で笑っていた。


「いやはや、すごい新人がいたもんだ。盾の使い方、木刀での牽制、間合いの取り方。ベテランおにぎり士に必要な技術を、全部熟達された状態で習得しているじゃねぇか!」

「なんでおにぎり作る人にそんな技術が必要なの」

「それに普通の新人なら真っ黒なおにぎりを二時間かけて握るっていうのに、こんな短時間でおにぎりを握るだなんてな!」

「むしろ何を無駄な行為をしたらそんな時間かかるの」

「しかも作られたおにぎりが真っ白なうえに普通に食べられるなんて……。まるで奇跡じゃねぇか!」

「それが普通のおにぎりですって」

「お前は問答無用で合格だ! こんな新人が出てきたならこのギルドも安泰だな、ははは!」


 相変わらず合間合間でプリマリアのツッコミが飛ぶが、スタルードはルイスの技術を褒め称えすぐさま合格を通知する。その顔は期待に満ち溢れていた。


「お前は今日から立派なおにぎり士だ。後で窓口で初回説明を聞いたら、ギルドメンバーカードを受け取ってくれ。それが身分証明となる」

「分かった。これから世話になる」

「期待しているぞ、新人! これからガンガン活躍してくれ!」


 こうしてルイスは、おにぎり士となった。

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