三話 おにぎり火災
「さて、俺たちもギルドへ行こう」
「そ、そうですね。ウルマーさんの事はいったん忘れて、ギルドへ向かいましょう」
ルイスとプリマリアはウルマーに言われた通りを歩き始めた。通りは割と賑わっており、脇には露店がいくつも並んでいる。
「寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 世にも珍しい特製おにぎりだよ! ここでしか買えないよ!」
「めったに爆発しない安全おにぎり、今なら百オーニだ! 安いよ安いよ!」
「そこのあんた、刺激臭の割と少ない創作おにぎりはいらないかい? 隣の店より安くしとくよ!」
露店からは威勢のいい呼び込みが聞こえてくる。至る所から香ばしいゴミのような匂いが立ち込め、通る人たちは皆わくわくした表情で得体のしれない真っ黒な何かを買っていくのが見えた。
「……ルイス様。おかしいですよね」
プリマリアがルイスに耳打ちする。
「なにがだ」
「いや、ここら辺の露店、どこもおにぎりしか売ってないですよ。しかも全部刺激臭のする真っ黒なゴミみたいなやつです。ウルマーさんの持ってたものに近い奴しか売ってません」
「そうだな。この都市のおにぎりレベルは総じて低いらしい」
「おにぎりレベルってなんですか。何のレベルが低かったらおにぎりをあんなもんにできるっていうんですか。そしてなんでみんなそれを嬉々として買ってるんですか! 千年前の人間はあんな文化ありませんでしたよね!?」
「もしかしたら千年の時が経った中で、文化が大きく変わったのかもしれないな」
「何をどうしたら、こんな文化が発展しなきゃいけないんですかー!?」
プリマリアは都市のおかしさを指摘するが、ルイスの反応はどことなくずれていた。プリマリアはそんな反応にイライラしてしまったのか、次第に語気を強め最終的に町中で叫んでしまった。
ルイスはそんなプリマリアを優しくなだめる。
「まぁ、おちつけプリマリア。他人のおにぎりなんか気にしなくていい。旅の中でそんな小さな事をいちいち気にしていたら、身が持たな……
「おにぎりが爆発して火事になったぞー! みんな逃げろー!」
……くなるぞ。もっとおおらかに生きろ。そうすればもっと生きるのが楽しくなるはずだ」
背後がゴウゴウと燃えて周囲の人たちがパニックになっている中、ルイスは格言めいた事をプリマリアに語り掛ける。その目は真剣そのものである。
「いやいやいや、そんなことよりルイス様! すぐ後ろが火事ですよ!?」
「大丈夫だ。旅の中でそんな小さな事をいちいち気にしていたら、身が持たな……」
「近場の火事は気にしましょうよ!? さっさと逃げなきゃ危ないですよ!」
「……そういえばなんだか今日は暑いな。猛暑日なのか?」
「もしやおおらかに生きすぎてるのか、この人……!?」
プリマリアが大慌てで火事を指摘するが、ルイスは全然気づかないまま格言を語り続けようとする。プリマリアはのんきなルイスに一抹の不安を覚えながらも、彼を強引に引っ張って走り出すことにした。
周囲は野次馬や逃げ惑う人々でごった返したような状況であったが、なんとかそれらをすり抜けて二人は火事の被害に及ばなさそうな場所まで逃げることができた。
***
「はぁ、はぁ。最初の街で焼死するとか、笑えない冒険になる所でした……。しかもおにぎりの爆発で火事とか何なんですか。この都市のおにぎりは火薬でも入ってるんですか?」
「火事があったとは気が付かなかった。炎魔法への耐性があったから熱さはわりと平気なんだ」
「それで鈍感だったんですか……。無敵の勇者の意外な弱点とか、知りたくなかったです……」
プリマリアはぜぇぜぇはぁはぁと息を荒げながら、火事の火が迫ってこないか確認し続けた。そんな中、あまり息を荒げていないルイスが周囲を見回し始める。
「そういえば、そろそろギルドが見えてもいい頃だな。ここらへんだと聞いたんだが」
「もうちょっと火事を気にしてくださいよ……。でも確かに、そろそろ見えてもおかしくはないですね」
二人はウルマーに言われたギルドを探すため、歩きながら周囲を注意深く探し始めた。特にプリマリアはさっさと目的を終わらせたいためか、だいぶ真剣に探している。
「ギルドに着いたらさっさと身分証明手に入れましょう。そして仕事してお金を手に入れて、早めに別の街に行きたいですね。この場所はなんか、怖いです」
「着いたばかりなのに、プリマリアは臆病だな。おにぎりが爆発したくらいで都会を怖がっていたら身が持たないぞ」
「そんな異常事態に気が付かない人の方が、明らかに身が持たないと思いますけど?」
ルイスのおおらか発言に、プリマリアはきっぱりと言い返した。
「……ん。もしかしてあそこがギルドじゃないか?」
そして通りを更に歩いていくと、ルイスはギルドらしきものを見つけたことをプリマリアに伝える。
「え、どこですか?」
「ほら、あの大きな看板の……」
ルイスは通りの先にある建物を指さす。ほかの建物よりも煌びやかな装飾がされたとても大きな建物であった。形状はおにぎりであったが。
そこには巨大なおにぎりの絵が描かれた看板が掲げられており、そこにはこのような字が書かれていた。
【おにぎりギルド カオッカ支部】
「……いや、おにぎりギルドってなんなの!?」
プリマリア、再び叫んだ。
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