第4話 彼女の決意と彼らの事情
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『登録名〝メイ〟とのパーティ登録を解除しました』
味気のないテキストメッセージ。
登録の際には激しい痛みに襲われたけど、解除の方は本当にあっさりとしたものだった。
それに、改めて考えても残酷なシステムだ。
登録には一定の条件(友好度?)があったけど、解除する際の条件はなし。パーティメンバー当人の同意すら必要としない。つまり〝プレイヤー〟の匙加減一つ。
ゲスな考えだけど、『パーティ登録を解除されたくなければ……』みたいな脅しなんかもあり得ると思う。
ダンジョン関連は、地味にこういう嫌らしい仕掛けが散りばめられてる。人の醜い部分を炙り出そうとする気がしてならない。
「……本当に終わりなんだね」
僕とメイちゃんとレオ。
諸々の事情の説明(肉体言語含む)から数日が経ち、今日は改めて〝同志トリオ〟だけで集まってる。
事実上のお別れ会。
「ごめん。勝手に巻き込んだ上に、結局はこんな結果になっちゃった」
「……ううん。謝らないで。この結果がイノ君の所為じゃないのも、イノ君が望んだものじゃないのも分かってるよ。レオや学園側の言い分にしたって、私も頭では理解してる。……納得はしていないけど」
レオとガチンコファイトを繰り広げた時に比べると、ずいぶんと落ち着いたメイちゃん。
だけど、相変わらずその圧は強い。静かな語りだけど視線が痛い。メイさん仕様。本人の言葉通り、この結果に対してまったく納得してませんよ。ホント。
「あくまでシステム曰くだけど、一度パーティ登録をしたメンバーは、登録解除後もこれまで使用していたストア製アイテムに限って使用可能らしいけど……本当に危険がないかは、念の為にヨウちゃんたちと確認して欲しい」
「……うん。分かった。野里教官の言い方には腹が立ったけど、現実問題として、私は川神さんたちと行動を共にするしかないのは理解してる。学園側が他の選択肢を与える気がないのも分かってるつもり。イノ君の時みたいに、川神さんとパーティ登録ができるかは分からないけど……」
学園も今さらメイちゃんを他の生徒と組ませはしない。特殊実験室の所属というのは変わりなし。
「一緒には征けなくなったけど、メイちゃんが探索者としてダンジョンに挑むのであれば……ダンジョンは応じると思う。どんな形になるのか分からないし、単純に喜んでいいことでもないだろうけど」
ダンジョンの思うがままって感じで癪だけど、僕とパーティ登録ができたメイちゃんも、いわゆる適合する人材。ダンジョンが求める人材なんだろう。
ヨウちゃんとパーティ登録ができるかどうかは今のところ定かじゃないけど、メイちゃんがダイブを続けるのであれば、ダンジョンから何らかの干渉があるんじゃないかと思ってる。
一方で、ダンジョンは去るものは追わずという印象もある。
僕ら〝プレイヤー〟ですら、ダンジョンから離れれば一般人として普通に暮らすこともできなくはないっぽい。
なら、現地人である〝
ただ、だからこそ……ダイブを続けるとなると、来るもの拒まず的にダンジョンから色々と無理難題を押し付けられるんじゃないか……という不安も拭えない。
「はいはい。イノもメイ様もしんみりするのはもういいじゃない。パーティは解散したけど、別に今生の別れでもないでしょ? 学園にいる間は普通に会えるし、学園側も今さら守秘義務がどうのとか言わないだろうから、連絡を取り合うのだってオッケーでしょ?」
からっとしたお姉さん風のレオ。よく言うよ。ついこの前、メイちゃんと肉体言語したのは誰だ。
「……そうは言ってもやっぱり寂しいよ。私は、レオやイノ君と一緒だからこそ、ダンジョンの先を目指したいと思ったから……」
寂しげに呟くようなメイさん。
言葉のトーンとは裏腹に、圧がメチャクチャ強いんだけど?
この子、絶対諦めてないよね?
「メ、メイ様。い、い、いくら言っても、ダ、ダメなものはダメだから……」
からっとしたお姉さんはあっさり萎れた。肉体言語の悪影響はレオの方が顕著(トラウマ)だね。はは……。
「ま、今回の件はあくまで学園側の顔を立てた形なだけだし、この先、探索者として僕とメイちゃんが再度組むこと自体は可能だと思う。……だけど、僕とレオについては、チームなりパーティなりでのダイブ継続は無理だよ。流石の僕も、クエストクリアの為にレオを蹴落とすような真似はしたくないしね」
今の彼女に通じるかはさておき、一応は言っておく。
〝同盟〟を組んでるにもかかわらず、突発的にレオと対立するようなクエストが発生してしまったなら……そこで井ノ崎真は身を引く。
ゲームオーバーだ。
前のイノーアと違って、今の僕は自ら幕を下ろすことも可能だから。
その辺りの判断については、〝僕〟としては譲れないところだ。
「うん。イノ君やレオの選択を否定はしない。だけど私は……」
その瞳に迷いはない。
いつぞやのサワくんと同じ。
メイちゃんも吹っ切れたか。
「それでも私は諦めないよ。イノ君やレオと共に歩む道を目指す。学園の思惑なんてどうでもいい。このダンジョンにこそ認めさせて見せる。名実ともに、鷹尾芽郁が二人の〝同志〟であることを……ッ!」
彼女は本気だ。
今の鷹尾芽郁には、大地に根を張る大樹のような揺るぎない決意が宿ってる。
「メ、メイ様、気持ちは嬉しいけど、現実的に私とイノは……」
「レオ。言葉は無意味だよ。危険予測や条件がどうであろうと、現実的にどれだけ厳しいかを語ろうとも無駄。学園の指示にしたって、結局は吹けば飛ぶ程度のこと。……だって、ダンジョンはなんでもありなんでしょ? ちっぽけな私たちの想像なんかを遥かに超えて来るんだから……あり得ないなんてことはあり得ないよ。私の願いが叶う未来だって十分にあり得る」
「「……」」
こりゃ参ったね。一本取られた。
確かにメイちゃんの言う通りだ。この狂ったダンジョンは、まさになんでもありの超存在。
僕らのスケールで測れるわけもない。
「……はは。分かったよメイちゃん。また一緒にダイブしよう。パーティメンバーとして、〝同志〟としてダンジョンで逢おう」
僕とメイちゃんはお互いに固く手を握り合う。別れではなく、これは再会の契り。
「うん。必ず。もちろん、その時はレオも一緒だからね?」
「え? い、いやぁ……学園を卒業する頃には、探索者協会の裏方やこれから発足する新機関でそれなりのポジションを用意してくれそうだし……そもそも、私はダンジョンダイブから身を引きたいんだけど……」
「レオも一緒だからね?」
「ア、ハイ。ワカリマシタデス」
折れたな。というか、爽やか笑顔のメイさんの圧が酷い。
僕やレオの選択を否定したくないとか言ったそばから。はは。
あと、どうでもいいけど、僕のシステムもいちいち反応するなよ。
『メイ、井ノ崎真、双方の友好度が一定値を超えました。再度パーティ登録を行いますか?』
『メイ、井ノ崎真、双方の友好度が一定値を超えました。再度パーティ登録を行いますか?』
『メイ、井ノ崎真、双方の友好度が一定値を超えました。さっさとパーティの再登録をしなさい』
『メイ、井ノ崎真、双方の友好度が一定値を超えました。再度パーティ登録を行いますか?』
……
…………
あの激しい痛みはないけど、その代わりなのか、サブリミナル的に微妙にメッセージ変えてくるのとか止めろ。鬱陶しい。なんで命令形なんだよ。
:-:-:-:-:-:-:-:
さてと。
というわけで、今日も今日とてダンジョンだ。
色々と思うことはあるけど、とりあえずは久しぶりの単独行。
とは言っても、学園も非公式の違法ダイブを推奨はしないらしく、完全ソロじゃない。
きちんと事前に届出した上で、正規のゲートからのお行儀の良いダイブ。ま、その届出はチームでのダイブという体で、学園公認の虚偽なんだけどね。
いざという時、同じゲートからダイブしている生徒や教官にSOSを発信できるし、事前の届出期限内に戻らなければ捜索(救助)隊が出る手筈になってる。
あくまで形式的なものだけど。
もし、僕がダンジョン内で行方不明になったとしても、学園は本腰を入れて救助に動いたりはしない。
せいぜい波賀村理事が個人的に動いてくれる程度かな?
あの人は、得体の知れない薄気味悪い存在である僕なんかでも、辛うじて学園の生徒として扱おうとしてくれてる。
だけど、〝
事故で勝手に消えてくれるなら、それならそれで構わないという割り切りくらいは学園側にもあるはず。
……なんて風に思ってたんだけど、思いの外に学園側は僕が邪魔だったのかな?
うーん。どうなんだろ? ちょっと早くね?
色々と
しばらく様子見かなって思ってたんだけどなぁ。
「そうですねぇ……一応、言っておきましょうか? 〝ど、どうしてあなたがここにッ!?〟」
目の前に現れた人物(待ち伏せされた)に、いっそ大袈裟に、わざとらしく驚いておく。様式美ってやつだよ。はは。
「ふっ。相変わらずくだらんやり取りが好きな奴だな、井ノ崎は。とりあえず、私がここにいるのは、別にお前が思うような理由からじゃない。その物騒なスキルを解けとまでは言わんが……そう
眼鏡を掛けたクールなインテリという風情ながら、どこかくたびれたような、枯れた雰囲気を纏う細身の男性。
西園寺派の荒事担当を兼ねる現役探索者にして、学園の魔道士クラスの教官も受け持っている。
一時はレオのお守り役もしていた模様。
聞けば、チームや班は違えど、野里教官や塩原教官とは同期で、学園生の頃から付き合いがあるんだとか。
長谷川教官。
本人の言葉通り、確かに僕を始末しに来たという雰囲気はない。
今も軽く両手を上げて、戦意がないアピールをしている。
でも、僕は《纏い影》を解かない。臨戦態勢を維持。解いてたまるか。
知ってる。
長谷川教官は〝フリ〟が巧い。その体幹が弱そうな立ち姿や隙のある仕草なんかはフェイク。全く信用できない。
【クラス】による戦法や《スキル》の違いも大きいけど、この人は普通にヤバい。
何しろ、〝プレイヤーモード〟のレオよりも魔法の制御が巧みだ。
レベルや到達階層は別としても、その技量だけなら、現役探索者の魔道士クラスの中でもトップクラスらしいというのも聞いてる。
〝プレイヤー〟だのなんだのとイキったところで、ダンジョン内でまともに戦えば負ける。
距離を取られて魔法をバカスカ撃たれたら、ソロの僕じゃ手も足も出ない。
遠距離攻撃に乏しい僕がこの人にソロで安全に勝つには、気付かれずに近付いての不意打ちしかない。
今みたいに、お互いの姿を確認し合った状態からだと不利なのはこっちだ。
僕の全力の踏み込みよりも、長谷川教官の魔法の発動の方が早いんだから。
「僕が西園寺理事の顔に泥を塗りまくった上に、割と強めに土足で踏ん付けたりもしたから、その腹いせに刺客として長谷川教官が差し向けられた……みたいな話じゃないってことですか?」
〝プレイヤーモード〟のアラートはないけど、今の状況は地味にピンチだ。平和的な解決を求む。マジで。
「ふっ。ヒステリックな老害ババアと化した今の西園寺理事ならやりかねないが……流石に他の理事や側近が止めるさ。学園という組織もそこまで落ちぶれてはいない」
老害ババアて。
僕が言えた義理じゃないけど、長谷川教官もずいぶんと口が悪いな。一応はあなたも西園寺理事の派閥でしょうに。
「まぁなんだ。警戒したままでいいからとにかく聞け。井ノ崎がダンジョン内で一人になるタイミングを狙ってわざわざ会いに来たのは、
「塩原教官に頼まれた?」
「ああ。口先だけでは信用しないだろうからと言って、わざわざ〝コレ〟を持たされた」
害意がないアピールとして、長谷川教官は敢えてゆっくりと
それは〝
「……ということは、野里教官もこの一件を知っているということで?」
「あぁそうだ。とはいえ、野里は塩原に従っているだけだがな。……ふっ。まぁそういう私も人のことは言えないか……塩原に言われるがままだ。まったく……結局は学園側もあいつに押し切られた形だしな……」
何やら自嘲気味の乾いた笑いが漏れてる。
ヨウちゃんも言ってたけど、野里教官と長谷川教官は、どうにも塩原教官には頭が上がらないらしい。
あと、学園側にも無理を通した感じ?
「それで? 長谷川教官は塩原教官から一体何を頼まれたんです?」
気は抜かない。油断もしない。
だけど、どうやら僕を始末しに来たわけじゃない……というのは本当っぽい。
システムが反応した。
「もう察しているだろうが……私がここへ来たのは、塩原から〝西園寺理事も落ち目だし、暇を持て余してるんだったら
「……」
『長谷川
微妙にテキストメッセージが違うのはなんでだよ。なんか今度は馴れ馴れしくなってるし。
メイちゃんの時といい、
この先、パーティメンバーがいないと進めない仕掛けがダンジョンにあるのか、単にソロだと危険だからか?
ま、今はシステムについてはいいや。
とりあえず長谷川教官の件だ。というか、この人亮って名前だったのか。知らなかった。
あと、完全にこっちの勝手な思い込みだけど、長谷川教官は一匹狼な感じだと思ってた。
だけど、塩原教官に言われたら渋々でも従うのか。狼というよりも、急にワンコ感が漂ってくるな。
何だかんだと言いながら、狂犬みのある野里教官だって素直に従ってるし……同期の教官組には、どうにも微妙なパワーバランスがある模様。
見た目や雰囲気こそおっとりした感じだけど、実は塩原教官って、しつけに厳しいボス的な感じなのか?
学園側にも融通を効かせたみたいだし。謎。
:-:-:-:-:-:-:-:
結局、そのままの流れで僕は長谷川教官とパーティ登録をした。
システムもそれを望んでたわけだしね。
それ自体はまぁ良いよ。
僕だって、ソロで先に進むのに不安がないわけじゃなかったしさ。
で、その結果として、僕らはあっさりダンジョンに閉じ込められたってわけだ。
くそ!
またかよ!
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