第24話 前世
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「私のペナルティクエストの開始はしばらく後みたい。いつ開始になるかは分からないけど、しばらくは猶予がありそう。イノが消えたあの後、普通にゲートを潜って戻って来れたし」
僕ら(ヨウちゃんパーティと井ノ崎パーティ)は今、学園に戻って来てる。
結局、僕モドキ改めイノーアが語っていた通り、あの後はラー・グライン帝国の首都まで旅をしただけだった。
もっとも、戦争の影響で荒廃した地域を散々目の当たりにしたことにより、ノアさんたちの精神はかなり削られる羽目にはなったけど……それ以外では特に
イノーア曰くコソコソと女神陣営からの妨害工作はあったらしいけど、僕らへの直接的な手出しはなかった。
そもそも、実のところ女神陣営も状況をよく分かってなかったらしい。
僕(とイノーア)の記憶にだけ残る一方的に凹られて終わった一回目にしても、女神陣営は自分たちに働いていたという優遇措置が、具体的に何だったのかも知らされてなかったんだとか。
そういう意味ではダンジョンルールは公平なのかもね。
競い合う連中は全員目隠しをされ、手探りで隠されたルールを紐解いていく。そして、先にルールを把握した方が断然有利になるという
特定勢力である女神陣営に発生していたダンジョンからの優遇措置というのは、他陣営の〝プレイヤー〟にすらスキル《女神の使命》が通じて支配下に置ける、あるいは単純に《女神の使命》の効力増幅だったんじゃないか? ……というのがイノーアの推察。
だからこそ、女神陣営は僕のペナルティクエストで発生したはずの〝プレイヤーの残照(井ノ崎)〟ですら、支配下に置いてこき使えたんじゃないかってさ。
振り返ってみると、僕もそう思う。
そもそもあの《女神の使命》シリーズのスキルは、他のスキルと比べても明らかに凶悪で強力な性能だった。
てっきりデキレース的な演出のためかと思ってたけど、【プレイヤーの残照】であるローエルさんたちも元々は別の陣営だったっぽい。
で、そんな女神陣営は自分たちの優位性にも、その優位性が崩れてしまったことにも気付かなかった。単純にスキル《女神の使命》の効力が凄いのだと見ていたようだ。
イノーアは語った。
「僕が戻って来たのは、あくまでヨウちゃんに対するペナルティクエストの舞台装置としてダンジョンに喚ばれただけだ。女神陣営の駒として配置されたわけじゃない。なのに、そこを勘違いした連中が、僕にローエルさんたちの
残念ながらというか、ローエルさんたちは自我を取り戻せなかったようだけど、イノーアは違っていた。
女神陣営に従うフリをしてやり過ごし、ダンジョンから与えられた役割を果たす為に僕らの前に姿を現したという流れ。
こうして僕らはイノーア(とローエルさん一行)という護衛を引き連れ、ノアさんを帝国の首都へ連れて行き……そこで〝続・帝国へ続く道〟のクエストは晴れてクリア。
『〝続・帝国へ続く道〟のクリア条件を達成しました。おめでとうございます。これでこの階層世界でのクエストは終了となり、以降はフリーエリアとして開放されます。それでは良いダイブを!』
最後は呆気ないもの。とても『クエストクリアだッ!』みたいな達成感なんてない。特別なイベントもボス戦もなかったわけだしね。
いや、ノアさんの隠しパラメータである〝鍵なるモノ〟の称号が消えたのが特別と言えば特別かな。
こっち側に特別なアナウンスはなかったけど、女神陣営にはクエスト失敗の通知が行ったとは思う。
ちなみに〝続・帝国へ続く道〟のクリア報酬は???となってたけど、今後はこのノアさんたちの暮らす異世界へクエスト関係なしにゲートで行き来できるらしい。
流石に異世界探訪は今のところお腹いっぱいだから、実際にはまだ試してないけど。
ま、今回はクエストの過程で色々と新機能が開放されりもしたし、それらを含めてクエスト報酬という感じなのかもね。
「ねぇイノ。川神さんのペナルティクエストっていうのは、やっぱりあの世界の未来が……イノーアと女神陣営の戦いの後的な舞台になるのかな?」
「たぶんね。あるいはヨウちゃんが喚ばれるのは分岐したパラレルワールド的な感じだったり? 今はダンジョンが舞台を整える為のアップデート待ちみたいな?」
その辺りの設定は今の僕らで確認できるはずもない。それに、どうせ答えはすぐに出る。猶予があるとはいえ、ヨウちゃんのペナルティクエスト発生もそう先の話でもないだろうしさ。
「今回の件で私も思い知ったよ。やっぱりダンジョンはなんでもありだ。この先、どんなことが起こっても不思議じゃない。もう私はゴチャゴチャと考えるのは止める。塩原教官が言うように、どんな状況であろうと帰還できるよう……ひたすら準備する」
ヨウちゃんは覚悟を決めたみたい。どちらかと言えば前向きな感じじゃないし、ある意味では諦めたというべきかな。
どんな過ごし方をするにしても、この世界はダンジョンが一般にも広く認知されてて、その存在はかなり身近だ。
ダンジョン由来の技術や資源を含めれば、一般家庭の日常にも影響があると言っても過言じゃない。
もはやダンジョンは、普段の生活と切っても切れない関係。
特に僕ら〝プレイヤー〟は後ろにいるだろう
ダンジョンから離れるにしても、それこそ色々と準備がいるだろう。
特にヨウちゃんは近々のペナルティクエストが確定してる。
ペナルティである以上、ゲートに近寄らない生活をしたとしてもダンジョンは許してくれないと思う。
目を逸らしてダラダラと日々を過ごしてると、後々に後悔するのが目に見えてる。普通にクエストで詰む。そうなれば〝川神陽子〟はゲームオーバーだ。
「あの異世界でのクエストについては、大体の顛末を共有できたと思うんだけど? イノ、そろそろ話してくれない? 私と川神さん……〝プレイヤー〟だけで何を確認したいの?」
僕とレオとヨウちゃん。三人の〝プレイヤー〟は、今は学園の本棟……レトロモダンな貴賓室にいる。
当然のように外に監視は付いてるけど、この部屋でのやり取りは、公的には記録に残さないことを学園側には承諾させた。
とはいえ、学園側はまだ僕らを侮っている様子。部屋の中を覗こうとしている連中がいる。隠しカメラなんかも作動してる。
あーあ。これでまた〝交渉〟のやり直しか。西園寺理事と波賀村理事じゃ足りなかったか。学園側も懲りないね。自分が安全圏にいると思い込んでる権力者を気取る何人かとは、直接〝話し合い〟をさせてもらおうかな。
まぁ今はそんなことより、
「レオ、ヨウちゃん。僕は〝プレイヤー〟を手駒にしてダンジョン攻略に勤しむ連中の事情を知ったんだ。あくまで僕の後ろにいる連中や女神陣営、ペナルティクエストで見かけた他の〝プレイヤー〟のケースだけだから、ダンジョンに関わる全ての陣営に当て嵌まるかどうかは分からないけどね」
「陣営の事情……ひいては私たち〝プレイヤー〟の事情ということね」
「……」
ヨウちゃんはあんまりピンと来てないけど、レオは何か察してるな。
彼女は彼女で西園寺理事あたりから何かを聞かされていたのか、あるいはシステムから直に通知があったか……それともただの勘か。
「念の為の確認だけどさ。ヨウちゃんには前世なんてないよね?」
「え? ぜ、前世? えっと……イノみたいに、別の世界で暮らした別人の記憶があるかってこと? もちろん、私にそんなのはないよ」
「うん。だろうね」
言葉通り念の為の確認。一応、塩原教官にも聞いたけど、
とりあえず、前世持ちとしてちゃんと確認できる〝プレイヤー〟は、今のところ僕とレオだけ。
だけど、前世という共通項がある僕とレオについても、おそらくバックに付いてる
「イノ。何を確認したいの? 大叔母さんのこれまでの研究からも、〝プレイヤー〟の条件に前世が必須じゃないのは分かってたでしょ? というか前世をはっきり認識してる〝プレイヤー〟は私とイノだけだったはず」
「この世界ではそうなってるね。でもさ。僕は例のペナルティクエストで、
変則的な存在ではあったけど、一応【プレイヤーの残照】というクラスを持った転生者ローエルさんも、明確に自身の前世を認識していたしね。
「ダンジョンに挑む〝プレイヤー〟としては、イノや
「たぶんね。あと、付け加えるなら……僕が見てきた〝プレイヤー〟の多くは、自分のバックに付いている
「つまり、自分がダンジョン攻略の手駒であるのを受け入れていたってこと?」
「そうなる」
結果的に女神陣営に蹴散らされる羽目にはなっていたけど、別世界の〝プレイヤー〟たちは、時に自らの命を賭して自陣営の勝利に……クエストクリアに血道を上げていた。
その姿は、僕らがクエストに臨む心情とは一線を画していたよ。
クエストをクリアしないと元の世界にへ帰れないから。
自分や仲間の命が惜しいから。
理不尽なダンジョンからのオーダーになんとなく屈したくないから。
そんな感じで、僕らと似たようなモチベーションでクエストに挑む〝プレイヤー〟だっているにはいたけど……女神陣営に挑んで散って逝った〝プレイヤー〟の大半はそうじゃなかった。
クエストをクリアする為に、自分や仲間の命ですら平気で投げ棄ててみせる。
かといって、自分の命が惜しくないわけでも、仲間への情や友愛がないわけでもない。
クエストクリアの為だと自分に言い聞かせながら、心を鬼にして仲間を見殺しにして、血涙を流しながら活動する〝プレイヤー〟だっていた。
中には僕らとは精神構造がまるで違い、その行動原理が理解しがたい種族もいたりはしたけど……ほとんどの〝プレイヤー〟は、僕らでも十分に理解できる連帯や協同があったんだ。
……とまぁ、そんな前提をレオとヨウちゃんにも説明する。
「ごめん。イノが何を言いたいのかが分からない。はっきり言ってくれない? 私やイノみたいな前世持ちがダンジョンのスタンダードで、クエストへの意気込みや本気度が違うらしいのは分かったけど……結局それが何なの?」
おっと。痺れを切らしたレオからクレーム。僕に対してイラッとした模様。
実のところ、僕が確認したかったことの一つは、今までのレオのリアクションで分かった。
彼女は自身に前世の記憶がある意味を知らないまま。
まぁ僕の思惑まで見越しての演技だとしたら、もうお手上げだけどさ。
彼女が本格的な演技派じゃないとしたら、西園寺理事が持つ〝プレイヤー〟関連の情報はそこまで深いものじゃないのかもしれない。
やはりこの世界におけるダンジョン探索は、まだまだ初期段階という感じか。
「悪いねレオ。ついつい〝謎を知る思わせ振りなキャラ〟っぽいムーブしてた」
思わせ振りなキャラっていうのは、あくまで映画やゲームなんかのフィクションとして第三者的な感じで接するから許せる。
もしリアルで関わるとなれば、普通にイラっとすると思う。
少なくとも僕は嫌いだ。
あの時のイノーアじゃないけど、とりあえずは結論から。
「レオ。僕らには個別の前世なんてない。僕ら前世持ちにある記憶というのは……遠い遠い遥かな過去に、
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