第22話 後ろにいるモノ
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このダンジョン内の異世界では、ダンジョンシステムを利用している勢力同士が〝プレイヤー〟を使って陣地取りのように競い(争い?)合っている……らしい。
特定の勝者には〝世界の管理権〟が与えられるとかなんとか。
管理権と言っても、具体的にナニをどうすることができる権限なのかは知らないけど、とにかくスケールがデカいということだけは分かる。
僕が〝ダンジョン〟そのものだと認識していた、諸々の通知を寄越してくる存在も、結局は大元となるダンジョンシステムを利用する勢力の一つでしかないっぽい。
僕を〝プレイヤー〟として扱う連中の具体的な詳細までは知らない。でも、このノアさんたちが暮らすダンジョン内の異世界において、〝女神〟の信奉者を増やそうとする勢力があるのは間違いない。
女神システム。女神陣営。くそったれカルト。世界の管理権とやらを狙ってる勢力の一つ。
で、一回目の僕らは、その女神勢力に気付くこともなく、あっけなく押し流されてクエスト失敗という結果に。
その後、再挑戦の権利を掛けた罰ゲームに参加させられ、幽霊みたいな状態になって約五百年におよぶその後の異世界の推移を僕は見てきた。
厳密には、ノアさんを含めた神聖オウラ法王国のその後を見せつけられたって感じだ。
「……イノ君が幽霊みたいになってたっていう五百年くらいの間に、女神勢力と敵対する他の〝プレイヤー〟もこの世界に来ていた?」
「ええ。それぞれがどういう陣営なのかまではシステムも教えてくれませんでしたけど、僕らのように
メイちゃんとレオ、正気を取り戻したノアさん一行にも、僕の見てきた世界の推移やダンジョンの仕組み的なものをざっくりと伝える。
はっきりと明言されたわけじゃないけど、あのペナルティクエスト自体が、〝ダンジョンにはこういう事情がある〟という説明のようなモノだった気もする。チュートリアル的な。
とにかく、僕らが失敗した後の神聖オウラ法王国には、数多くの〝プレイヤー〟が介入してきた。
VS女神勢力って感じ。
結局、その〝プレイヤー〟たちを女神勢力が撃退することによって、連中がこの世界で根を張っていく様を僕は延々と見せられてきたってわけだ。
今のメイちゃんとレオからすれば、あり得たかもしれない未来のお話。
うん。言われなくても、自分でも〝こいつ頭おかしいんじゃね?〟系の話なのは分かってるよ。
「……このままクエストに失敗すると、イノ君が見てきた未来に繋がってしまう?」
「僕に一回目の記憶がある以上、まったく同じではないにせよ、結局は女神勢力が栄えていくことになるでしょうね。もっとも今回失敗すれば僕らに次はないらしいので、未来がどうなるのかの確認すらできないでしょうけど……」
「ふぅん。流石に二度目の
ペナルティクエストの報酬であるリロード。
これは本当に僕一人にだけ効果を及ぼす機能だった。
つまり、今、僕の目の前にいるメイちゃんとレオは、共にクエストに失敗し、
共に辛酸を舐め、クエスト失敗を共有する分岐したその先の記憶を持つ二人はリロードという奇跡によって消えた。
この二回目の世界線では存在しない扱い。
僕の記憶に残るのみ。
もしペナルティクエストが発生せずにあのままだったとしたら、僕らは普通に死んでたし、時間を遡ってやり直しができるというのは十分過ぎるほどの奇跡だ。
目の前にいる二人が、正真正銘、本物の鷹尾芽郁と新鞍玲央なのも間違いない。
でも……ほんの少しだけ胸が苦しい。できることなら、僕は共にクエストに失敗した二人を助けたかった。
「えっと……要は私たち〝
おっと。若干センチメンタルなジャーニーにトリップしてしまった。
今は目の前の二人にちゃんと向き合わないと。次のやり直しはない。もう失敗できないんだから。
「たぶんね。前々からの疑問だった〝
「アプリのバージョン違い……それぞれの陣営でOSそのものが違う可能性も?」
「十分にあり得ると思う」
バージョン違いというより、ソフトウェアそのものが違う可能性。
M○cとWin○ows、i○SとAn○roid……みたいな?
あるいはゲーム的な感覚で言うなら、この〝ダンジョン〟というのが
『えぇー!? 私の〝プレイヤー〟ってAn○roidなの!? じゃあいらない! 他の子にハブられちゃう! ダサいし!』
『あーあ。セールだったから買ったけど……やっぱ投げ売りされるだけあって、この〝プレイヤー〟ってクソじゃん。全然使えないし!』
なんて感じだと嫌だな。うん。
「まぁとにかく……クエストの種類によっては競い合う〝敵勢力〟がいる場合もあるってこと。この異世界で課せられた一連のクエストの本題は……〝敵勢力にノアさんを取られるな〟という感じで、タイトルがズバリ〝ノア・バルズ争奪戦〟だったしね」
僕の勝手な妄想は一旦置いておき、今後の方針についてだ。
でも、シンプルに考えると、実のところ〝続・帝国へ続く道〟のクリアを目指すだけだったりする。
僕らはノアさんを連れてラー・グライン帝国の首都へ行く。
色々と穏やかならざるダンジョン事情がチラチラと見え隠れしてるけど、やること自体は今までと変わらないと言えば変わらない。
「……ねぇイノ君。結局のところ、ノアさんというのは一体何者なの? 時間を遡ったり、異世界転生をさせたり、私たちに訳の分からない機能を付け足したり……そんなとんでもない事を平気で実現できちゃう勢力が、ダンジョン内の異世界人であるノアさんを取り合っているのは何故?」
メイちゃんからの当然の疑問。
話の内容がぶっとび過ぎて、正直ノアさんたちがどこまで理解しているかは分からない。でも、このメイちゃんの質問により、ノアさんたちからの圧が強くなった気がする。まぁ……当たり前か。
『それは私も是非に聞きたい。まさに神に等しい……いや、我らが思う神すらも越える者たちが、何故に私ごときに固執するのか?』
ごもっとも。僕らからすれば、神の如き権能を持つ連中が、どうしてわざわざ〝プレイヤー〟なんて手駒を使ったり、ダンジョンの中でクエストというお題に沿って競わせてんだって話にも通じる。
「正直なところ、ノアさんがどんな風に特別なのかは僕には分かりません。ただ、この世界でノアさんが特別なのは、別に〝プレイヤー〟の後ろにいる連中が決めたわけでもないみたいです。少なくとも、僕に通知を送ってくる陣営のシステムは、どうしてノアさんが選ばれたのかということについては知りませんでした。もちろん、単に教えてくれなかっただけかもしれませんけど……」
僕らを〝プレイヤー〟として扱う連中だって、今の地球の文明レベルからすれば正真正銘の超越者なのは間違いない。でも、だからといって全知全能というわけでもない。連中にだって解明できていないことも多い。
「……じゃあ、ノアさんは一体誰に……ナニに選ばれたの?」
メイちゃんが重ねて問う。とはいえ、すでに彼女も察している模様。
「ノアさんを選んだのはダンジョンそのものであり、この世界においてのノアさんは〝鍵なるモノ〟だそうです。ダンジョン内には、ここ以外にも無数の世界が存在し、その世界ごとにダンジョンが設定した
『〝鍵なるモノ〟? 世界の管理権?』
「「…………」」
実のところ、この世界の管理権を得る可能性があるのは、現状では女神勢力だけ。この世界における特定の勢力というやつだ。
他の陣営が〝鍵なるモノ〟に接触したところで、この世界の管理権を得ることはできないらしい。他の陣営からすれば、この世界で女神陣営と敵対するのはいわば〝通常クエスト〟でしかない。
この世界のクエストをクリアすれば、次の階層なり異世界的なステージへと進む。
それが無理なら、いっそ別の〝プレイヤー〟で
「あくまで妄想的な推察でしかないけど……結局のところ、僕らを〝プレイヤー〟として扱う連中だって、所詮はダンジョンから得た技術や権限を利用してるだけというか……ダンジョンからクエストというお題を与えられて、右往左往してるのは同じなんじゃないかな? 直接的にダンジョンへ介入できないから、〝プレイヤー〟という手駒を介してダンジョンに挑んでいる……みたいな?」
『ふっ。要するにイノ殿であっても、今はまだ何も分からないに等しいということか?』
「ええ。ダンジョンの目的も、〝プレイヤー〟を遣わせる連中の詳細も、ノアさんが選ばれた理由やその存在の意味なんてものはサッパリ分かりません。当初は僕も〝ノアさんたちを
使いたくはない。口にしたくもない。
でも、ノアさんにとっては、まさに〝運命〟だとか〝宿命〟というやつだったんだと思う。
そして、それは僕たちにとっても同じ。
井ノ崎真という存在は、〝プレイヤー〟になるべくしてなっただけだった。
強制的に不眠不休で活動し続ける約五百年という時間やシステムとの対話をきっかけに、僕は思い出した。思い出してしまった。自らの使命を。与えられた役割を。
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