第4話 お約束

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 メイちゃん……改め、メイの叱責(脅し)で憑き物が落ちたかのように冷静さを取り戻したノアさん。


 テンプルにカチンとくる高笑いキャラから、元の理知的な感じに戻った彼から語られた話によると、僕の〝眷属〟となったことで女神の声が聞こえるようになったんだそうだ。


 詳しく聞けば、ノアさんが女神の声だと認識しているのは、僕がシステムメッセージと呼ぶやつだ。あるいは似たナニか。あと、ステータスウインドウについても、女神の導きとやらで使い方を認知したんだとか。


 ずいぶんと〝仕様〟が違う。


 ステータスウインドウについて、僕やレオは特別に〝使い方講座チュートリアル〟みたいなのはなかった。そりゃゲーム的な感覚で何となくは分かったけどさ。


 それにヨウちゃん。彼女なんかは、そもそも視覚化されたステータスウインドウがない。


 機能としてはほぼ同じだけど、自身の思考の中で感覚的に操作するらしい。


 むしろ、ゲームとかに馴染みがない異世界人のノアさんなら、ヨウちゃんと同じ仕様の方が自然な気もするんだけど……謎。


『……そして、私は女神から〝導き手を頼って帝国へと戻り、その手で帝国を終わらせるべし〟という使命を授かったのだ』

「使命……ですか?」


 謎は多いけど、一番の謎はコレだ。


「……イノ君。ノアさんの使命というのは……クエスト?」

「確証はありませんけど、恐らくはそうかと。ノアさんは僕のパーティメンバーでありながら、この世界の〝超越者プレイヤー〟なのかも……?」


 ノアさんは、何故か〝超越者プレイヤー〟機能も有している。


 彼はすでに、グレンさんとジーニアさんを自身のパーティメンバーに登録……彼の言葉でいうところの〝眷属〟としているらしい。


 僕からすれば、グレンさんとジーニアさんはパーティメンバー(ノアさん)のパーティメンバー……孫的な関係性になるからか、グレンさんたちも僕のステータスウインドウを認識できた?


 うーん……解答が欲しい。攻略サイトとかないのか?


 ちなみに、ノアさんの〝女神システム〟にも、僕のステータス画面のヘルプ欄にも、今回の件についての詳しい説明なんかはない。くそ。


「ま、まぁ……ここで考えてても答えが出るはずもないし、とりあえず、僕らはノアさんを帝都に連れて行く……当初の予定通り、クエストを果たすことに集中するってことで」

「……うん。ゴチャゴチャと余計なことに気を取られず、やるべきことをやろう。考え事なら、それこそ何らかの事情を知るだろう西園寺理事たちと擦り合せをすればいいと思う」


 メイちゃんの言う通りだ。


 非正規の捕虜という、それこそフィクションでしか知らないような過酷な境遇もあってか、僕はノアさんたちに必要以上に気を遣い過ぎてた気もする。


 ついこの間、中途半端にブレるのは止めようって、メイちゃんやレオと話し合ったばかりなのに……すみませんです、はい。


 僕らはクエストのクリアを第一優先にする。多少強引にでもやり遂げる。その他のことは後回しだ。


「ノアさんが〝超越者プレイヤー〟機能を扱えるなら……グレンさんやジーニアさんがストア製アイテムを使っても問題ないでしょ。たぶん」

『ストア製アイテム……? 女神が仰る〝宝具ほうぐ〟のことだろうか?』

「ええ。たぶんソレです。確か、かつてのゴブリン・ロードも〝神威の宿りし宝具〟とやらを使用していたらしいですし、ノアさんの〝女神システム〟ではそういう呼び方なんでしょう」


 僕のステータス画面とノアさんの〝神の窓〟とやらでは、微妙に言語的な表現が違うみたいだけど……まぁ中身は同じ物でしょ。細かい違いはスルーだ。


 もう僕の中では、リ=ズルガのゴブリン・ロードも〝超越者プレイヤー〟として確定(暫定)だ。


「僕らの使命にとって大事なのは、今のところ〝ノアさんの生存〟だけです。今後、アークシュベルの追手が考えられるので、僕らはノアさんの身の安全には気を配りますが、グレンさんとジーニアさんについては、自分の身は自分で守って下さい。もうこっちが気を遣って護衛するとかは考えません。自衛ための武装なんかについては協力しますけどね。ノアさん、そういうことで良いですか?」

『……承知した。では、イノ殿よ。我らは〝宝具〟で武装しても良いのだな?』

「ええ。何なら、その武装を用いて僕らと事を構えても良いですよ? その時は、ノアさんは別として、お二人の命の保障はしませんけど」


 そうだ。僕らはノアさんを帝都に連れて行くだけ。最悪グレンさんとジーニアさんは……そりゃ寝覚めは悪いけど、僕らのクエストにとっては二人は重要じゃない。いざとなれば、それくらい思い切る覚悟も必要かもね。


『イノ殿。私は使徒である貴殿に刃を向けるつもりは毛頭ない。だが、同時にグレンやジーニアを捨て置くなども以ての外だ。使命の途上で命を手放すのは女神様に申し訳が立たんが……それでも、二人が死ぬ時は私も共に散る。もし、仮にイノ殿が二人を害するというのなら……使命を投げ捨てることになろうとも、私は二人を守るために命を賭して抵抗するだろう』

『わ、若様……』


 うん。大丈夫そうだ。さっきまでのよく分からない、女神狂いでテンションのおかしいノアさんはもういないね。


「もちろん、理由もなしにノアさんたちを害するような真似はしないと誓いますし、仲間を優先するのは僕だって同じです。ここから先は、お互いがお互いの使命を果たすために共闘する……という感じで行きましょうか」

『承知した。諸々の配慮に感謝する、イノ殿』


 井ノ崎一行パーティとノアパーティ一行での共闘。


 お互いが自分たちの使命クエストを果たす。


 とりあえず、そんな感じでやっていくことになった。そういうことにしておく。


 そりゃノアさんの〝超越者プレイヤー〟化とか、そのクエスト内容なんかが気にならないと言えば嘘になる。っていうかメッチャ気になるよ。〝帝国を終わらせるべし〟って何なんだよ。


 でも……今は我慢だ。スルー推奨。寄り道厳禁。余計なことに気を取られていられるほど、僕らにも余裕なんてない。諸々を考察するのは、元の世界に戻ってからでもいい。


 こうして、メイさんの司会進行(脅し)によって、ノアさんたちとの話し合いはスムーズに運んだ。


 さて……ということで、そろそろメイさんの司会(殺気)で気を失ったままのレオを起こそうかな?



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「……ふーん。私が気を失ってる間に、そんな感じにまとまったんだ?」


 慣れない異世界生活の疲れもあったのか、思いの外気持ち良さげにスヤスヤしていたため、そのままレオには休んでもらってたんだけど……彼女が次に目覚めた時には、色々と状況が動いていた。というか、騒がしい中でも全然目覚めなかったというべきか。


「そうそう。とりあえず、仕舞いっ放しのドロップ品から武器を見繕って強化したり、防御アイテムをストアで購入したりして、ノアさんたちの装備品を整えてたわけ」

「うんうん。それで?」

「……それから、船員のヒトに呼ばれて甲板に上がることになったんだけど……レオは熟睡してなかなか目覚めなかったから、メイちゃんがお姫様抱っこで運んだわけ」

「あ、そうなんだ。ごめんねメイ様」

「……ううん。別に大丈夫だったから……」


 和やかに話をしてる風だけど、レオからの圧は強い。


「それで?」

「……えぇっと……それから、皆で甲板に上がって行ったら……交易船の周りにも船が何隻かいてさ」

「うんうん。で?」


 いや、にこにこ笑顔で詰めて来ないで。こっちはこっちでレオかよ。僕に八つ当たりしても仕方ないでしょ?


「……結局のところ、交易船そのものがアークシュベルの手の内だったみたいでさ。いや~まいったよ。リュナ姫よりもハルベリアさんの方が一枚も二枚も上手うわてだったみたいだね。あはは……」


 僕らは今、交易船の甲板で身動きが取れない状況だ。はは。


 遠くに視線をやれば、波は穏やかで見渡す限りに海と空の青が広がってる。渡り鳥の群れみたいなのも見えたりするし……開放的なんだけどなぁ。


 視線を近くに戻すと、船長以下、言動は荒っぽいけど気の良い船員たちが申し訳なさそうに僕らを取り囲んでいるってわけ。


「……こんな状況になるまで目覚めなかった自分にもびっくりだけど……結局、船長さんたちはなんて言ってるわけ?」

「別の船へ行けってことらしい。で、今はその船からの迎えを待ってるって感じだね」


 正直なところ、船長さんたちの囲いを突破するのは容易い。別に彼らは歴戦の兵というわけでもないしね。


 ただ、彼らをブチのめしたところでどうにもならない。この大海原の真っ只中では、物理的に行く先がない。僕らだけで、この交易船を操舵できるはずもないんだから。


 そりゃちょっとは頭をぎったよ?


 リ=ズルガの港を出港する時にさ。


 船に乗って次の目的地へ……となれば、航海中にトラブルが起きて漂流したり、無人島に流れ着いたり、近海のぬし的な魔物と遭遇するとか……そんなイベントは、ゲームフィクション的にはお約束だよなぁ~とかさ。


 でも、フリじゃないんだから、何も本当にイベント発生しなくてもいいでしょ?


 いや、出港の前段階から仕込まれてたみたいだし、これは予定調和な流れなんだろうけどさ。


 それに、もとを正せば、アークシュベルに目を付けられるようになったのは、一体誰の所為なんだってことになる。はいはい、僕が悪いんですよ。


『……悪いな客人。こっちも生活と命がかかってるんでな。あんたらをリ=ズルガの目の届かない所でアークシュベルに引き渡す……というのが、当初の契約なんだ。恨むなら、まんまと引っ掛かったリ=ズルガのお姫様にしてくれや』


 オーク族の船長がそう語る。


 ま、そりゃ確かにまんまと引っ掛かったリュナ姫や僕らがマヌケだったのは間違いない。でも、相手が間抜けだから罠に嵌めてもいいなんてわけないでしょ? 仕掛けた方が悪いに決まってる。〝イジメられた方にも問題があった〟みたいに言わないで欲しいね。まったく。


「船長たちの行動自体については、僕ら……いやはどうとも思ってませんよ。アークシュベルに逆らえないんだろうなぁ……っていうのは何となくは分かりますけどね。ただ、こうやって以上、アークシュベルじゃなくて自分たちこそが、やり返されても文句の言えない立場になったっていうのは承知しておいて下さい」


 どうせ仕掛けるんなら、薄っぺらい自己弁護で人の所為にするなって話だ。


 悪事を悪事として自覚した上で仕掛けたんだから、堂々としてればいいよ。その代わり、やり返された際にいちいち被害者ぶったりしないでね。


『ふん。まぁ精々ほざいてるんだな。アークシュベルの恐ろしさを知らない異邦の人族が……!』


 オークの船長は、苦々しい顔で僕らを睨み付けはするけど……実際には何もできない。僕らを囲んで様子を見るだけ。実力行使に出るような真似はしない。近付けない。


 メイちゃんが《威圧》してるからね。


『……イノ殿、若様も。我々はこれからどうなるのでしょう? 海の上では連中に従うしかないのでしょうけど……』

『ふん。解放されたかと思えば、また虜囚の身かよ……』


 ジーニアさんとグレンさんが不安を口に出してるけど……ノアさんには不安はない。


『二人とも案ずるな。確かに窮地ではあるが、我々には女神の恩寵があり、使徒であるイノ殿もついている。もはやアークシュベルのマナ封じ程度で我らを縛ることなどできない。唯一の心配事はここが海の上というだけだ。捕らわれたフリをして陸地に到着すれば、後はどうとでもなる。……そうであろう? イノ殿よ』

「ええ。もちろん、平和的に話が進むならそれに越したことはないし、慣れない海の上で無茶はしたくありませんけど、いざとなれば僕らで船を乗っ取ることもできなくはないでしょうね」


 ほんの短い時間しかなかったはずだけど、ノアさんは〝超越者プレイヤー〟の機能を十分に把握してる。今の自分が〝できること〟をちゃんと認識してる感じだ。


 思うに、〝女神システム〟はかなりの親切設計みたいだし、もしかするとノアさんは、僕よりも諸々の機能を把握してるのかもしれない。……改めて話をしておきたいね。


「あ。小さめの船が近付いてくる。あれがアークシュベル側のヒトたちかな?」

「……たぶんそうだと思う。この船の船員さんたちよりも〝戦える〟気配を持つヒトたちみたいだから……でも、今の私たちを力尽くでどうこうできるほどじゃない……かな?」


 すごいなメイちゃん。まだかなり離れてるのに、そんな気配まで分かるの?


 うーん……いくら〝プレイヤーモード〟があっても、僕にはそこまでの武人肌的な感覚なんかはない。


 こういう場面では、メイちゃんの感覚に頼るのが吉だろうね。

 


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