第17話 異世界文化交流
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結局、メイちゃんのブチギレ(結界斬り)によってできたアークシュベル側の動揺……空白の一瞬を利用して、僕(とリュナ姫)は囲いを脱した。うーん……なんだか、行き当たりばったりばかりだよなぁ。まぁ今さらか。
今度は、油断なし&掛け値なしの本気の本気で潜む。【シャドウストーカー】の面目躍如だ。……こっちも今さらだけどさ。
どうにも、メイちゃんは僕やレオに〝一線を越えさせたくない〟らしい。
レオにも送ったのかどうかは分からないけど、僕にはそういうメッセージをテレパスで送ってきた……というか、淡々と叩き付けられたというべきかな。
「……この世界はダンジョン階層の一部なのかもしれないけど、ルフさんやバズさん、リュナ姫やその護衛のヒトたちは魔物であって魔物じゃない。皆が〝普通に生きている〟のはイノ君も分かってるでしょう? なのに、どうして簡単に諦めるの? しかも、根本はイノ君のミスなのに? そうまでして、イノ君は力を振るいたいの? 彼らを殺したいの?」
かなりキツく、尻を叩かれる的な注意も受けた……とほほ(死語)。
「……イノ君自身は、別に余裕ぶってるつもりはないのかもしれないけど……傍から見てると結構マヌケ。余裕こいて調子に乗って、後々で痛い目に遭う……何だか童話とかに出てくる悪役みたい。それも、途中で退場しちゃう小悪党的な役と同じ感じがする。どうしてはじめから本気を出さないの? イノ君は、未だに〝井ノ崎真〟に現実味がないまま? 一度は終わった人生だから、今回は別にいつ終わってもいいって……まだ思ってるの?」
怒鳴ったり、罵ったりする感じじゃなくて、メイちゃんは哀しみや寂しさを乗せて、そんなメッセージを寄越してきた。……いや、内容はかなり辛辣ぅ〜だけどさ。メインで伝えたいのは哀しい気持ちみたい。
ダンジョンの中にある異世界という訳の分からない場所で、クエストとかいう狂ったお使いゲームをクリアしないと元の世界に戻れないというヤバい状況。
なのに、〝プレイヤー〟である僕やレオが余りにも軽薄というか……どこか現実味に欠けて〝やらかす〟のをメイちゃんは心配してる……を通り越して、危険視してるようだ。
僕は今の〝井ノ崎真〟を現実だと認識してるけど……メイちゃんにはそう見えていないみたい。つまり、僕がそれだけ迂闊で〝やらかしてる〟ってことなんだろう。
レオについては分からないけど、確かに僕には『どうせ二回目だし……』という割り切りというか、どこか思い切った部分もないわけじゃない。半自動的な〝プレイヤーモード〟もあるわけだし。
自分ではそんなつもりはなかったけど、油断というか、慢心もある。特に今回はハッキリと結果が出ちゃってるから、そんなつもりじゃなかったというのは言い訳にもならない。
虫食いだらけのぼんやりとした記憶でしかないけど、前世の僕はこんな性格じゃなかったと思う。もっと、こう……〝普通〟だったはず。元々の〝井ノ崎真〟だってそうだ。
少なくとも、潜入先で緊張を切らして、あっさりと敵に見つかるようなポカはしないと思う。まぁ……前世の僕や元の〝井ノ崎真〟は、そもそも敵地への潜入なんて状況を受け入れないだろうし、そんなミッションをこなすようなハードな人生ではなかっただろうけど。
とりあえず、諸々のダメ出しを突き付けられた上で、メイちゃんからは『……一先ず、私が私のやり方でやる(ようするにしばらく引っ込んでろ)』と言われ、僕(とリュナ姫)は再度潜んでおくことに。復調した高慢ちきな軍人エルフの付近でね。《影渡り》様々だ。
僕らの襲撃の狙いがラー・グライン帝国の兵士たちだっていうのは、連中だって流石に勘付いてるみたいだし、次の動きに合わせてこっちも動くつもりだ。
まぁ……メイちゃんには悲しまれたり、呆れられるかもしれないけど……それでも、いざとなれば〝一線を越える〟のは仕方ないっていう僕の気持ちは変わらない。
ただ、今はメイちゃんのターン(真正面からのカチコミ)みたいだから、しばらくはおとなしく様子を見ることにしたってわけ。……べ、別にマジなトーンのメイちゃんにビビったわけじゃない。う、うん。あくまで彼女の意見を尊重しただけだから……。
『……イノ殿。少しいいかしら?』
ツラツラとそんな風に考え事をしていたら、不意にリュナ姫から声を掛けられた。
「はい。どうしました?」
『……先ほど囲まれた場面なんだけど、もしあのまま続けていたとすれば、イノ殿は力尽くで切り抜けることができたのかしら?』
「え?」
いきなり、そんな当たり前のことを尋ねられた。
「……ええと、まぁ……殺すつもりでやれば、あの程度の囲いなら力尽くで突破できましたね」
『……そう。つまり、当然に私の時も同じということね?』
「? え、えぇ。リュナ姫様や護衛の方々を相手にした時も、殺す気なら初動で終わっていました。……というか、あの時にもそう言いませんでしたっけ?」
あれ? リュナ姫は何を聞きたいんだ? なにやら真剣な面持ちだけど……?
『イノ殿。私はこれからのリ=ズルガのために、アークシュベル王国をはじめ、他国の風習や文化、法律や統治の仕組みなんかも学んでいるわ。だからこそ、イノ殿に悪しき意図がないのは分かっているつもりよ。戦士としての実力が私などよりも上なのも承知しているわ』
「そ、そうなんですか……」
これは……メイちゃんに続いてか。どうやらリュナ姫の話は、僕へのダメ出しっぽいな。
『……でも、リ=ズルガ王国の戦士氏族としては、イノ殿のそのような振る舞いは許し難き侮辱、戦士の誇りを傷付ける蛮行でしかないわ。戦士同士の合意により条件を設けた決闘や仕合いならともかく、通常の戦いにおいては、全力を尽くすのが……殺せる時に殺すのが礼儀よ』
お、おぅ。リ=ズルガ王国の戦士は、僕なんかが思う以上に〝戦士〟な模様。
修羅の国とまでは言わないけど……ようするに、僕らの認識における武士道とか騎士道精神とか、そんなのに通じる〝リ=ズルガの戦士道〟みたいなのがあるみたいだね。で、僕はソレに反していると……。
「つまり、リ=ズルガでは一旦〝戦い〟になってしまうと、全力での殺し合いが当然ってことですか?」
『……本当はそこまで極端ではないのだけれど、〝全力を尽くす〟と言う意味では、概ねそのような認識で間違いないわ。もちろん、国同士の戦の場合は落としどころも変わるけど、少なくとも、個人間のやり取りなら、年長や格上の戦士が止めない限りは、全身全霊で正面からぶつかり、結果として命を懸けることになる……というのが我々の普通よ。もちろん、今はリ=ズルガでも〝法による裁き〟と〝戦士長の制止や仲裁〟は同等だとする風潮が根付いてきているけれど……古い戦士たちは、未だに〝法〟よりも戦士の誇りに重きを置いているし、民衆に〝ウケ〟が良いのも古き良き戦士の流儀よ』
なるほどね。正面からのぶつかり合いか。僕がやったような不意打ちからの制圧……みたいなのは、戦士だけじゃなく民衆にも好まれないってわけか。まぁ不意打ちって時点で、たぶん異世界含む、どんな文化圏であっても好かれる要素が少ないのは当然だろうけど。
で、どうせ不意を突くのであれば、いっそ全力を尽くしてそのまま殺せ……というのが〝リ=ズルガの戦士道〟的な感じなのかな?
ただ、リュナ姫の語る戦士の誇りなり流儀なりが、そのままリ=ズルガを代表するものかは怪しい。だって、僕に〝不意打ちからの制圧〟を勧めたのは、この国の戦士の中の戦士であるゴ=ルフさんだ。
って、あれ? ちょっと待てよ。ゴ氏族は例外的な戦士氏族になるから主流じゃないんだっけか? となれば、やっぱりリ=ズルガのスタンダードはリュナ姫の言い分の方だったり?
うーん……今はどっちでもいいか。
リュナ姫の話についても、別にソコが本題でもなさそうだし。
「その……リ=ズルガ王国には、独自の文化として戦士の流儀みたいなのがあるのは何となく分かりましたけど……結局のところ、リュナ姫は僕に何を言いたいんですか?」
『……正直な所、私にはイノ殿の行動が奇異に映る。もちろん、異界の門からの使命を果たすという事については、もう否定などしないわ。ただ、多くの〝異能〟を操り、戦士としても十氏族の長を凌ぐほどの実力を誇るのに……イノ殿はどうしてこんな風にコソコソと隠れ潜むの?』
「え?」
ど、どうして隠れるのかって言われても……クエストで指定されてる、アークシュベルの捕虜を解放するためなんだけど……?
「ええと……隠れ潜むのはアークシュベルの兵たちに見つからないためですし、ひいては捕虜となっているヒト族たちを助け出すためで……」
『そこよ』
「はい?」
『あのヒト族の捕虜を解放したいのなら、正々堂々と正面から力と対価を示し、ハルべリア殿に〝捕虜の解放を求む〟と訴えればいい』
え? なに言っちゃってんのこのヒト? 急にポンコツになった?
普通に考えて、正面からそんな訴えなり騒ぎを起こしたところで、アークシュベル側がわざわざ僕らの話を聞いてくれるはずないでしょ?
えぇと……もしかして、普通に聞き入れてくれたりするの? マジに物理暴力&金の暴力的な外交が通用するの?
「す、すみませんリュナ姫様。確認なんですけど、今のお話はリ=ズルガでの振る舞いについてですよね? アークシュベル王国のやり方とは違うのでは? 連中には通用しない気がするんですけど……?」
『? もちろん、アークシュベルのやり方とは違うでしょうけど、ここは王都ルガーリアなのだから、リ=ズルガのやり方が通用するのは当然でしょう?』
うーん。全然話が噛み合ってない……けど、恐らくコレは僕の認識の方が間違ってたんだろうなぁ。前提とする条件が違ったというか……。
「い、今さらなんですけど……この領事館の敷地内で揉め事を起こした場合って、アークシュベルとリ=ズルガのどちらの法や風習で裁かれるんですか?」
『え? それはもちろんリ=ズルガだけど……? まぁ、その揉め事自体が露見しなければ、アークシュベルは自分たちで内密に裁くでしょうけど……』
「……」
てっきり領事館なんて言うから元の世界と同じイメージで考えてた。思い込んでた。
僕が前提としていたのは、当然に僕らの世界の常識なわけだから、この異世界で通じる保証はない。普通に考えて当たり前だ。なまじ言葉が通じる分、その言葉や単語の意味するところまで深く考えてなかった。
「……つ、つまり、リ=ズルガの正式なやり方に則れば、アークシュベル側の……あの軍人エルフでも頭ごなしの拒否はできない?」
『……ええ。もちろん、内容によっては難癖を付けたりはしてくるでしょうけど……正式な手段で堂々と申し出れば、ハルべリア殿といえどもそう簡単に拒絶できないわ』
どうやら、こっちの世界には大使や外交官の不逮捕特権とか、敷地内は本国の法が優先される的な外交ルールはないっぽい。そこまで整備されていないのか、敢えてなのかは分からないけど。
「も、もし、仮にリュナ姫が僕らと同じ立場であれば……アークシュベルの捕虜の身柄を引取るために、どんな方法を取りました?」
『? それは……当然にハルベリア殿に面会を求め、対価を示して捕虜の引き渡し交渉をするわね。ただ、あくまでハルべリア殿は連中を〝海賊〟だと主張していたから、刑罰奴隷の買い取りという形での交渉になるかもしれない。……異邦人であるイノ殿たちと同じ立場で考えるならなら、ハルべリア殿と接点を持つ前に、まずはリ=ズルガの有力者の協力が必要だから……戦士氏族への面会を求めるところからになるかしら?』
「…………」
へ、へぇ……リ=ズルガ王国だと、対価を示せば捕虜の引き渡し交渉とかできるんだ。あと、刑罰奴隷の買い取りってことは、奴隷制度も馴染んでるわけね……い、いやぁ、異(世界)文化交流ってのは勉強になるなぁ……多様な価値観、多様な文化を、現地で実際に触れながら肌で学ぶってのは素晴らしいことだよね。
そのためには、やっぱり対話っていうのが大事。言葉が通じるなら、知らないことは知ってる人に聞くのが一番。うん。調べるって字は、〝周りに言う〟と書くくらいだし……ははは……。
……こ、これは、もしかしてアレなのか?
悪い意味での『また俺ナニかやっちゃいました?』的なやつ?
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