第13話 潜入
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さて、今日も今日とて
結局あの後、リ氏族のリュナ姫様は〝見くびっててゴメンナサイ〟をしてくれた上で、〝快く〟僕らの
「……イノ君、流石にやり過ぎ』
「うわぁ……身柄を拘束してたんだし、ここまでやらなくてもよくない?」
だってさ。メイちゃんやレオにドン引きされてしまった。
ただ、ここがダンジョン内部の異世界というよく分からない場所であり、後ろ盾もない僕等の立場を考えれば、暴力を用いて話を進めたこと自体に後悔はない。
そもそもリ=ズルガでは、腕っぷし頼りの交渉も割りと普通だと聞いてたしね。
……まぁ、それでもちょっと加減を間違えた気はしてる。護衛の六人全員にかなりの重傷を負わせてしまった。結果だけを見れば、確かにやり過ぎたかもしれない。
とは言え、僕にも言い分はある。あの状況下においては、たとえ逆転の目がなくても護衛のヒトたちは勝手にギブアップなんてできるはずもない。
あの場での意思決定権者は間違いなくリュナ姫だった。
なのに、彼女はアワアワと困惑するばかりで、状況を正しく理解するのに余計な時間を費やしたわけ。ある意味では、鈍い上司のお陰で護衛のヒトたちは痛い目を見る羽目になったと言っても過言じゃない。……うん。詭弁だ。そうさ。責任転嫁だよ。
なにはともあれ、リュナ姫様は護衛たちが重傷を負わされて、ようやくにギブアップしたわけだ。
そして、今に至るってね。
「さてと……それじゃ、お姫様の準備もできたみたいですし、僕は行きますよ。いざという時はよろしく」
「……こちらも配置についてる。いざという時は任せて。レオも大丈夫?」
「ま、私はメイ様と一緒だし問題ないよ。むしろ、イノの方が心配かなぁ……?」
あーはいはい。レオの心配は、単に僕の身を案じているわけじゃないのは分かってる。彼女は僕が
ちなみに、今の僕はメイちゃんとレオとは別行動。女子二人は退路と潜伏先の確保をお願いしてる。もちろん、リ氏族の〝協力者〟と共にね。
で、僕の方はというと、リュナ姫様やその護衛と共に、アークシュベルの領事館へ交渉という名のカチコミ。
つまり、今は僕とメイちゃんたちはかなり離れている。なのに、普通に意思の疎通ができてる。ダンジョン内では機能が制限されて使えないけど、学生証による通話やメール機能よりもスムーズだ。
どういうわけか、クエスト途中なのに開放された〝新機能〟のおかげでね。
リュナ姫が〝見くびっててゴメンナサイ〟をした直後、ダンジョンシステムからの通知が来た。
『おめでとうございます。クエスト進捗に合わせて〝テレパス〟が開放されました。それでは良いダイブを!』
まったく意味が分からないけど、もう今さらの話。
ちなみにこの〝テレパス〟というのは、基本スキルである《念話》の強化版みたいな機能だった。言葉の意味は似たようなものだしね。
《念話》は距離制限のあるスマホ的な通話だけだったけど、このテレパスには距離の制限がなく、パーティメンバーや同盟を組んだプレイヤー同士が意思疎通……通話だけじゃなく、視覚情報やある程度のイメージなんかも共有できるという優れもの。
まさに〝テレパス〟。本当の超能力者になったみたいだ。……いや、ダンジョンでレベルアップしたり、スキルとか使ってる時点で十分に超能力者だけど……ほら、気分的にね?
まぁそんな便利機能がいきなり開放されたわけ。脈絡もなく、説明もまったく足りてないけど、ダンジョンシステムに無意味な機能はない。まだまだダンジョン経験は浅いけど、流石にその程度は理解してる。身に沁みてる。
このダンジョンってやつは、自由度がメチャクチャ高いくせに、要所要所では〝プレイヤー〟の
とにかく、今のタイミングで新機能が開放されたということは、この〝テレパス〟を活用する機会が今後増えていくということを示唆している……と思う。少なくとも僕はそう考えた。
今後はパーティメンバーの別行動が増えて行くというか……視覚情報やイメージの共有を用いた工夫が必要になってくるんじゃないかと見越してる。考え過ぎかもしれないけど、考えなしで先へ進んで後々に詰むよりはマシだ。
あと、いきなり開放された〝テレパス〟の機能が、今回の
『……イノ殿。あくまで我々はアークシュベルの目を引き付けるだけ……本当にそれで良いのね?』
おっと。テレパスでメイちゃんたちとやりとりしてたら、リュナ姫に話し掛けられた。一瞬反応が遅れる。このテレパスの情報共有、確かに便利ではあるけど、慣れない内は自分自身の周囲への注意が散漫になってしまう。要訓練だね。
「ええ。今回の〝協力〟については、領事館の敷地内に僕を送り届けるのと、その後、あのヒト族一行を連れて出国できるように手配してくれれば……領事館での
『承知したわ。それにしても……本当に、どこからどう見ても
リュナ姫が素直に感嘆してる。
一度負けを認めてしまえば、グチグチと後には引かないのが、リ=ズルガの戦士流みたい。今のところ、特に含むところはなさそう。
大怪我を負わせた護衛のヒトたちにしても、今となっては僕への敵意などはない。少なくともそういう気配は感じない。僕にそう感じさせないようにしてるだけかもしれないけど。
あの時の護衛のヒトたちに対しては、流石に悪いと思って白魔法で治療したんだけど、それについてもかなり驚かれた。
こっちの世界では、複数の《
リュナ姫たちからすれば、インベントリに妖しい業物、纏い影、白魔法……一連の諸々はすべて《異能》に類するものだと認識されてる。こっちの世界にも魔法はあるようだけど、即効性のある治癒魔法みたいなのは稀少で、それ自体が特殊能力扱いなんだってさ。
僕らからすれば、今まで通りダンジョンシステムに乗っか掛って魔法やスキルを使ってるだけなんだけど、この世界では僕らは稀有な存在というわけだ。
その上で、今の僕の見た目は完全にゴブリンになってる。正しくは、バズさんの姿をそっくりそのまま使わせてもらっている。
《シャドウコピー》
名前の通り、事前に登録しておいた相手の姿になるという【シャドウストーカー】のスキル。
ちなみに、《纏い影》でも自分自身の幻影を作り出して、『ふっ。それは残像だ……』的なことはできるけど、別の誰かに擬態するとかは無理。
一方、この《シャドウコピー》は他人になりすますことができる。ただし、あくまで姿だけ。基本的な能力や声なんかは元のまま。本当に姿を変えるだけのスキル。使い方はともかく、スキル効果自体は《纏い影》のように創意工夫や応用が利く類のものじゃない。
体格とか形状が違いすぎるとコピーできなかったりするようだけど、ゴブリンとヒト族という種族の差なんかは飛び越えてオッケーというファジー具合。流石に四足歩行の魔物とかはコピーできない感じだった。
ダンジョンの浅い階層の小柄なゴブリンとは違い、バズさんやリュナ姫たち……リ=ズルガの戦士階級は普通にヒト族と遜色ない体格で、平均するとヒト族より少し身長が低いくらいの二足歩行の種族。なので、特に問題なく《シャドウコピー》は発動した。
見た目だけだし、質量……体重とかは変わってないみたいだから、達人的な観察をされると動作に違和感を持たれるかもしれないとはメイちゃん談。ただし、メイちゃんは、本物のバズさんとコピーした僕を同時に観察して、ようやく違和感に気付いたくらい。たぶん、普通に突っ立ってるだけだと、初見ではバレない……はず。
ちなみに、今の僕とバズさんだと、身長は僕のがまだ少し低い上に、骨格や筋肉の質というか……体の厚みについてはまるで違う。バスさんというか、戦士階級のゴブリンはずんぐりとしたレスラー体型で、割と体格差はあるんだけどコピーできた。……まぁスキルについては深く考えても仕方がない。スルーだ。発動したならそれで良しとする。
この《シャドウコピー》は割と早い内に覚えてたスキルだったんだけど、学園でのダンジョン探索では使い所がまったくなかった。いわゆる死にスキル。
仮に使い所があるとすれば対人戦。探索者同士の抗争とか騙し討ちとか……そんな物騒な使い道しか思い付かない。
ダンジョンの魔物を騙せるのかと思って、《シャドウコピー》を使って魔物になりすましたこともあるけど、まったくお構いなしに襲われた。
魔物を騙せないなら意味ないじゃん! ……と、早々に二軍スキルへ格落ちしてたんだけど、ここへ来て話が変わったというわけ。
この
色々と考えさせられる。
ダンジョンシステムでは、【クラス】ごとに様々なスキルが用意されてるみたいだけど、中にはこの《シャドウコピー》のように使い道が微妙だったり、効果が説明と違うとか、効果があるのかどうかが謎だったり、そもそも発動しないスキルだってある。
ダンジョン関連の研究機関や現役の探索者からは、〝ガラクタスキル〟なんて言われたりしてるやつ。
レオの【黒魔道士】にも《不吉》というガラクタスキルがあり、これは魔物の関心を自分に向けさせる……いわゆるヘイトを稼ぐ的なスキルだと説明があるのに、ダンジョンの魔物に使用しても効果があるようには思えなかった。実際、ダンジョン学園や研究機関の調べでも、このスキルによる魔物への影響はないと結論付けられてるらしい。
でも、このリ=ズルガ王国で《不吉》を使えば……対象者からの敵意を引き出せる気がする。ルフさんやバズさんに使用して、取り返しが付かなくなるのも嫌だから試してないけど。
〝普通のダンジョン〟で使い道がないスキルや魔法なんかは……もしかすると、この異世界的な場所での使用を想定されてるとか?
ま、考えたところで答えは出ない。
ただ、使えるモノは使うだけ。
この《シャドウコピー》で
聞くところによると、それなり以上の立場であるリュナ姫はともかく、その護衛については、事前に申請して認められた二人以外は領事館の本館には立ち入れないそうだ。
なので、他の護衛たちを何人連れて行こうが、結局は敷地内の離れで待機を命じられることになるんだけど……その際、待機させられる護衛について、アークシュベル側の警戒は薄いとのこと。
なんでも、領事館本館には結界魔法が張られており、許可された者以外はそもそも立ち入ることができないそうだ。
アークシュベル側はその結界魔法に全幅の信頼があるというか、リ=ズルガ側の魔法技術の拙さを嘲笑っているのか、『侵入できるものならやってみろ』と言わんばかりなんだとか。
ちなみに、遠目からレオにその結界魔法を確認してもらったけど……結界に逆らわないようにマナを集中すれば、たぶん普通にすり抜けられるだろうとのこと。
アークシュベル王国というのは、この世界では魔法技術の先進国らしいけど、ダンジョンシステム由来の魔法やスキルと比べる限りは、どうにも僕らが普通に扱ってるダンジョン式の方が優秀らしい。
なにはともあれ、僕は
潜入&要人救出クエストってわけ。
ま、僕がメインで使っている【シャドウストーカー】というクラスは、そのスキルや特性なんかから、〝人知れず密かに動く〟とか〝攪乱する〟って使い方が本筋らしいしね。
このダンジョン内の異世界に来て、まさに本領発揮だ。
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