第16話 ダンジョンの深層へ……
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細かいものから大きいものまで疑問は多々あるけれど、とりあえずはクエストのクリアが先。
混じり合って一つとなったというマナ。
ヨウちゃんがそのマナを籠めると、“鎖”とやらはアッサリと砕けたとのこと。
もっとも、僕にも獅子堂にも“鎖”とやらは視えないため、実情は分からないままだ。
ただ、鎖が巻き付いていたという野里教官がいきなり叫び声をあげて気を失った。間違いなく鎖とやらが壊れた影響だろう。たぶん。きっと。メイビー。
ヨウちゃんの覚醒後に教官が大人しくなったのは、もしかしてコレを予見していたからなのか。
ヨウちゃんは無事? に“プレイヤー”として覚醒したみたいだけど、何故かステータスウインドウがない。
感覚的な“光”の導きとやらで、クエストの察知やストア機能を利用できそうだという話だけど……ステータスウインドウ=インベントリが使えないから、自分が触れている物をストアの能力で強化する感じになるのかな。購入する系のアイテムはどうなるんだ? まぁその辺りは後々の検証か。その検証に僕が関われるかは分からないけどさ。
ちなみに、今まで聞こえていた“光”の声や導きの印象が変わり、今はやたらと機械的な感じがするらしい。以前はもっと人間味があったとヨウちゃん談。
あと、ドロドロの昏いマナからの焦燥感を掻き立てるような声はもう彼女には聞こえていない。
結局、あのドロドロのマナは原作を壊す僕を排除したかったのか? 原作世界……“源流”とやらとダンジョン絡みのシステムっていうのは敵対してる?
原作……“源流”とやらの強制力的なモノに囚われていたのは、野里教官だけじゃなくヨウちゃんも同じだったのかもね。まぁこれは本人には言わないけど。
聞くところによると、獅子堂にもヨウちゃんの“光”と同じように、“炎”とやらが視えているというオカルト具合。
ただ、今のところ彼がプレイヤーとして覚醒する気配はない。念のために僕がマナを籠めて触れてみたけど特段の反応もない。
もしかすると、獅子堂の方はまた別のプレイヤーのクエストになっていたり……? いや、でも彼のマナは清廉なままだし、むしろ“原作”のままな気がする。拗らせていたのはむしろ野里教官の元へ行く前か。
野里教官やヨウちゃんという……自分よりも更に拗らせて狂っている実例を前に、思わずマトモになったとか?
感動する映画とか観て泣きそうになっても、自分より先にオイオイ号泣してる人を見ると引いちゃうみたいな感じか? ……うん。よく解からない例えだった。
そう言えばレオも、戦闘中には適切な道筋のようなモノが“視える”とか言ってた。ヨウちゃんや獅子堂も似たような感じだったのかもね。一つの目安みたいなモノだろうか。
ツラツラとそんなことを考えながら、クエストの完全なクリアを確認し、僕たちは野里教官を含めた意識不明な八名を連れてダンジョンを出た。……とりあえず、メイちゃんたちは後回しだ。ゴメンよ。
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……
…………
………………
「結局、野里教官は素直に事情聴取に応じてるんですね」
あれから一ケ月が過ぎた。
バタバタと後始末に奔走する大人たちをよそに、僕ら子供組は敢えて問題に触れないように過ごしていた。というか、僕らもまとめて謹慎扱いだったし、ダンジョンダイブも止められていたから、メイちゃんやレオと集まって駄弁るだけという日々。滞っていた勉強の方は進んだけどさ。
そんなある日、ひと段落したのか波賀村理事に呼び出される。僕一人。何でだよ。
「ああ。ダンジョン症候群を発症したこと自体より、生徒たちを相手に殺す気で大立ち回りをしたことが堪えたようだ。聞けば、身体の自由は効かないが、意識自体は割合とハッキリとしていたようだ。……もう少しで殺すところだったと……以前の面影もないほどに意気消沈している。ただ……『井ノ崎。アイツは別だ。もっと本気で打ち込むべきだった』とも言っているようだがね」
「はは。まぁそんな悪態がつけるならまだマシでしょ」
僕はあれから野里教官とは会っていない。
ダンジョンを脱出した後、【白魔道士Ⅱ】へクラスチェンジして《ディスペル》を使用したときが最後だ。
残念ながらというか、やはりというか……波賀村理事の時と同じくダンジョン症候群は完治するまではいかなかった。あくまで寛解という状態。ダンジョンに立ち入れば再び発症する可能性が残ったまま。良くも悪くも、野里教官がダンジョンダイブをする機会はもうないだろうね。
「……それで、僕が呼び出されたのはどういう理由なんですか? 野里教官……いや元・教官ですか。あの人の近況報告だけという訳じゃないんでしょう? ……ここに呼び出されると、嫌な感じしかしないんですけど……」
「はは。まぁそう言わずに。……君たちの今後のことについての相談なだけだ」
ほら、もう嫌な予感しかしない。
現状、西園寺派は改革派と共に動いており、学園の派閥は軋轢はあるも、概ね一つにまとまりつつある。僕たちの処遇については保留扱いのままだけど、流石にずっとこのままという訳でもないだろうさ。
「『特殊実験室A』は解散で決まりでは? 僕やレオも高等部ですし、ダンジョンダイブは表向きには部活的な扱いになるって聞いてましたけど?」
部活て。前世のことを考えるとついつい笑ってしまうけど、こっちの世界ではままあることらしい。
元々組んでいた班では合わないと感じる生徒同士が、課外活動として他の班員とチームを組むんだってさ。高等部では、一定のルールの下でだけど、そんな感じのダンジョンダイブも許されるらしい。
「……井ノ崎君。君はこの一ケ月の間、川神君や獅子堂君に浪速君……彼等のことについて、敢えて聞こうとしていなかったね? 今でも知らないままだ」
「……ええ。知らないですね。僕にはその資格はないと思っています。それに、聞いてしまうと、どうしても考えちゃいますし……」
メイちゃんやレオとは、ヨウちゃんのプレイヤーへの覚醒について情報を共有しており、その経過や今後について好き勝手に検証したりはしたけど、ヨウちゃん自身とは、あれから話をしていない。
クエストのこともあるけど、どういう訳か僕の中では『終わった』という扱いだ。今後、ダンジョンの先を目指すにしても、恐らくヨウちゃんの歩む道とはもう交わらない。レオのように同盟を組むこともできない。これは僕やヨウちゃんの好き嫌いの問題じゃなく、システムとしてそんな仕様のような気がする。
ヨウちゃんはこの世界の“現地プレイヤー”として、獅子堂たちと共に深層を目指すような気もしている。まぁ学園がそれを許すならだけど……
「残念ながら、ダンジョン症候群を発症した浪速君は野里教官と共に療養名目でしばらくは学園での隔離となる。同じく呪物を扱っていた佐渡姉妹にもダンジョン症候群の前兆がみられた。彼女たちは呪物を手放してからは安定しているが、今後も要観察という対応となる。この佐渡姉妹にも、ダンジョン外で《ディスペル》をかけてもらいたいというのが要件の一点目だ」
「……良いですね。直接的に人助けとなる力の使い方は“綺麗”ですから……」
「ふっ。そう警戒せんでもいいだろう?」
よく言うよ。警戒するに決まってるだろ? 何だかんだと言いながら、僕はまだ子供だ。自分でも分かってる。当然に波賀村理事だって、僕が権力パゥワーに盾突くことができないって知ってるクセにさ。けっ。黒い大人め。
「今後も継続的に《ディスペル》を始めとしたダンジョン症候群の治療・研究に協力を仰ぎたいのだが……井ノ崎君なら快く了承してくれると思っている」
「エエソウデスネ。イノサキハ、ヒトダスケノタメニハ、キョウリョクヲオシミマセン」
早く次を言えよ。どうせこんな“綺麗”な頼みは前フリなんでしょ?
「……まぁ勿体つけるのは止めにしようか。私としては君の希望を尊重したいのだが、西園寺理事からのオーダーでね。……ダンジョンダイブについては、君が“プレイヤー”として、今後も自由にダイブすることを学園は可能な限りバックアップする。ダンジョンの謎が少しでも解明される可能性があるなら、それはむしろ当然のことだ。……ただ、後進のプレイヤーを育てろと言ってきている。レベル上げの協力だけでなく、プレイヤーとしての権能についても色々と検証をしろというのが、西園寺理事からのオーダーだ」
ほら、面倒くさい。そりゃ何となく分かってはいたよ。ダンジョンでの効率的なレベル上げ。その方法が確立されたなら活用しようってのは当然のことさ。レオという実例もあるしね。はぁ。この世界の常識である、寄生プレイへの嫌悪感はどこへいったのやら。
あと、一言で“プレイヤー”と言っても、その仕様は個々人でかなりの違いがあるっていうことにも、以前から
「……まぁ別にレベル上げだとか、その特性や能力の検証なんかは別に構いませんけど……西園寺理事は、“後進のプレイヤー”と語るほどに、プレイヤーを確保してるんですか?」
「その辺りは私にも分からない。彼女がどの程度の規模でプレイヤーを研究していたのかは、かなり厳重に秘匿されていたからな。ただ、少なくとも一人は心当たりがあるだろう?」
ヨウちゃんか。
ただ、どうしても僕の中のナニかが、ヨウちゃんと共に在ることを拒絶している。プレイヤーモードの警戒みたいな感じだ。レベル上げとかなら我慢できるか? はは。今度は僕の方が、昏いマナに囚われていた当時のヨウちゃんみたいになっちゃってるじゃないか。
「……はぁ。聞きたくないですけど聞きますよ。それで? ヨウちゃんは……川神さんや獅子堂くんはどうしてるんですか?」
「二人とも謹慎という形だが、二人に共通するという見えないモノを視る力についても検証している。もしかすると、今回の川神君がプレイヤーとして覚醒したように、獅子堂君や同じような力を有する者にも可能性があるのではないかとね」
……はぁ。マッドなサイエンティストの道を突き進んでないか? 頼むよ。せめて見えないようにやってくれ。
クエストを発注しているシステム側は、ヨウちゃんがプレイヤーとして覚醒し、あの中二病の香りがする“陰陽のマナ”とやらを発現することを望んでいたはずだ。あのヨウちゃんのマナが“源流”だとか“鎖”だとかを壊せたわけだし。
昏いマナは原作の強制力みたいなモノか? そしてキラキラしたマナは元々のヨウちゃんの素養だったり、システムの介在によるもの?
順番からすると、原作から乖離する⇒強制力が働く⇒原作を壊すヤツ許さないウーマン登場⇒システムが介入する⇒原作の強制力と混ざる⇒中二病なマナ
うーん。意味不明。本当にこの順番が正解かも確認できないし。ただ、少なくともヨウちゃんに関しては、元々の素質の部分も大きいはず。だって、彼女が正真正銘の天才なのは間違いないし。
だったら獅子堂も……って感じだけど。彼は今の状態が凄く安定しているし、あの清廉なマナはまさにアニメ版主人公の面目躍如だとも思う。原作からの乖離ってのは、もはや望めない気もする。いや、無理に闇堕ちを繰り返す必要もないだろうし。
一応、メイちゃんやレオとまた話をして、それとなく西園寺理事に伝えてもらうか。
「……とりあえず、今後もダンジョンダイブを続けたいなら、言う事を聞けってことなのは理解しましたよ。っていうか、とっくに理解はしてましたけど。……まずはヨウちゃんですか? もしかして獅子堂くんも一緒に?」
「西園寺理事は二人をセットで考えている。今の段階では、川神君と獅子堂君の能力の検証やレベル上げへの協力だな」
はいはい。学園の狗として働きますよ。権力には尻尾を振るのが得策だろうからね。子供の身が少し恨めしい気もする。ま、この学園相手じゃ大人であろうがどうしようもない気もするけど。
「先に言っておきますけど、ヨウちゃんと獅子堂くんとは、チームを組んでダンジョンの先を目指すとかはしませんからね?」
「……むしろしないでくれ。そもそも彼女たちの扱いは謹慎処分であり、井ノ崎君とのダイブはあくまで研究の一環ということになる。時間などの制限も設けるようになるだろう。二人とも十階層までをクリアしているが、十五階層のボス部屋に連れて行くような真似はしないでくれ」
十階層で検証したいこともあるし、悪いけどヨウちゃんたちのことは片手間だ。
次だ。とにかく次へ行きたい。
学園がダイブについて文句を言わないというなら、次へ行く。
どさくさ紛れだったけど、とにかく十階層まで到達した。
あと、十一階層へ到達したからなのか、オークとの会話アイテムと思われるヤツもクエスト報酬に出てきた。
もし十階層のボス部屋にルフさんの世界への入り口があるなら……次は何か進展があるのか?
それともレベル上げ用の部屋か?
はたまた全く別のモノ?
さてさて、ダンジョンの先には、一体どんなモノが待っているんだろうね。
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