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第1話 新・特殊実験室

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 高等部に進学……中高一貫の学園だから、内部進級っていうのか? まぁ呼び方はどうでも良いか。一応、高等部では勉強の方にも力を入れるのと、社会性を養うとかで、割と他のクラスとも交流が増えるらしい。


 ただ、何故か僕とレオは中等部からの『特殊実験室』仕様のままときた。


 中等部までとは違い、高等部はダンジョン活動の資質だけじゃなく、勉強の成績や興味のある分野、これまでの学園での過ごし方なんかを加味してクラスが振り分けられる……って聞いてたのに、なんと、僕とレオだけは別。二人だけ別枠。一年先輩のメイちゃんはともかくとして、ヨウちゃんや獅子堂は普通に他の生徒と同じような扱いなのにだ。


 レオは『たぶん前世云々があるからでしょ? 私としては、今更〝高校生〟やるよりは気が楽だけど? 中等部の時も周りに合わせるのはちょっとしんどかったし。どうせクラスにいても、大叔母さんの親類ってことで色眼鏡で見られるだろうしね』なんて言いぐさ。一応、前世については学園には言ってないんだけど……普通にレオから漏れてるようだ。くそ。ま、分かってたけどさ。


 ほとんどの人にとって、学生生活って言うのはその時々で一度しかないんだぞッ!?  ……ってな感じで熱くなったフリはしたけど、僕の方も特に異存はない。だって、面倒くさいし。


 それに今はガッツリ体制側……学園の狗として活動する以上、この世界の一般社会で通用するための経歴やらなんやらに便宜を図ってくれ……と、波賀村理事を通じて、学園とは黒い取引済みだ。使えるモノは使わないとね。


 学園を卒業したとしても、僕はダンジョン絡みで体制側に利用されるだろう。だったら、こちらからも相手が応じられる範囲で注文つけるくらいは良いでしょ?


 一応、家族や周りの人たちに〝それなり〟の説明は必要だしさ。


 まぁそんな感じで、ヌルっと僕の高等部生活は始まったわけ。

 


 ……

 …………



 さて、今日も今日とてダンジョンだ……と言いたいけど、実のところ、僕等のダンジョンダイブは久々だったりする。


 呪物派の騒動もあり、流石に学園側もバタバタしてたから、今日は本当に久しぶりというか、改めての顔合わせという感じだ。そう、新たな『特殊実験室』のね。


 ストーリーモードの主人公の一人で、超越者プレイヤーとして覚醒した、ヨウちゃんこと川神かわかみ陽子ようこ


 アニメ版主人公で、憑き物が落ちた今となっては、どちらかと言えば常識人枠の元・拗らせストーカー、獅子堂ししどうたける


 前世の記憶を持ったまま、学園理事の親類に転生した、レオこと新鞍にいくら玲央れお


 アニメ版ヒロインにしてボッチ&ストーカー被害者だった、メイちゃんこと鷹尾たかお芽郁めい


 そして、前世の記憶を持っての転生……というより、途中から〝井ノ崎いのさきまこと〟に憑依したというか、入れ替わったというか……とにかく、この世界で目覚めた〝僕〟こと、イノ。

 

 これが『新・特殊実験室』のメンバーだ。高等部においても、既に僕等のことはある程度は公表されており、普通にクラスメイトがいるメイちゃん、ヨウちゃん、獅子堂は、割と好奇の目に晒されてるらしい。


 メンバーと言っても、あくまでヨウちゃんと獅子堂は暫定というか、レベル上げと超越者プレイヤーの検証の為にいるという感じ。……いや、特殊実験室の主旨から言えば、むしろそっちのがメインになるのか?


 まぁどっちにしろ、僕が学園に協力しているのは、ダンジョンダイブを邪魔されない為の根回し活動的な感じなんだけどね。ビバ権力。ノット敵対。


 あ、ちなみに形式的なダイブの引率は長谷川はせがわ教官だ。今は少し離れた所で待機してくれている。まずはメンバー同士で話をしろってな感じ。僕等にかなり気を遣ってくれてるのが分かる。さり気ない配慮。デキる大人の男だ。


 色々あったけど、これからはこのメンバーで活動する機会も増えるんだけど……獅子堂がいる所為なのか、メイちゃんがちょっとピリピリしてたりする。彼に対しての負の思いは、流石にもうないらしいけど、一緒に行動するのはちょっと違うらしい。


「……で、改めてダンジョンでの活動が解禁されたわけだけど……ヨウちゃんはどんな感じ?」

「うん……体の動きなんかは、特別に以前と変わった感じはないかな? ただ、気持ち的には以前よりもずっとダンジョンに馴染んでる感覚があるかも? ええと……実家に帰ってきた……みたいな? ……ごめん、ちょっと自分でも良く分からない」


 ヨウちゃんは僕やレオと違って前世を持たない。僕は心の中で勝手に〝現地超越者プレイヤー〟なんて呼んでる。


 それはどうでも良いんだけど、やっぱり覚醒以前とはダンジョンの感じ方が違うみたいだ。僕やレオがダンジョンから〝呼ばれている〟と感じる、あの感覚と近いのかも。


 ただ、同じ超越者プレイヤーと言っても、前世持ちである僕とレオにも細かい違いはあるし、戦闘時の〝仕様システム〟なんかは明らかに別物。まだまだ比較する事例が少な過ぎて検証のしようもないってところだね。


「レオはどう思う? ヨウちゃんの実家云々は、僕はダンジョンに呼ばれてる感じのヤツだと思うんだけど?」

「う~ん……どうなんだろ? 私の場合はぼんやりとだけど、一応〝声〟が直接聞こえるし……それに、実家にいるような馴染みの安心感というよりは、私の場合は焦燥感だね。なんか、こう……心を掻き立てられるような感じかな?」


 ほら、もうこんな所から違う。


 言われてみれば、ダンジョンダイブにやる気を見せてるレオだけど、彼女の場合はダンジョンそのものより、ダイブを成功させることによる名誉とか利益の方に目が向いてたか。


 この世界での勝ち組……成功者の立場を狙ってる。


 ま、レオの場合は元々が体制側で、周りから期待されてるっていうのもあるだろうけど。


 ダンジョンからの呼び声は、いちいちプレッシャーを掛けられてるみたいで彼女にとっては不愉快なのかもね。


 ダンジョンダイブを邪魔されない為に、体制側に迎合してる僕とは少し違う。僕はダンジョンから呼ばれるのを、割と好意的に受け取ってる。


「ちなみに、獅子堂くんは以前とナニかが違うとかは?」

「俺にはそんな感覚はないな。いや、呪物を手放したことによる開放感みたいなのはあるが……井ノ崎たちが言ってるのはそんなのじゃないんだろ?」

「まぁね。ただ、学園側は獅子堂くんのこともヨウちゃんと同じ……超越者プレイヤー候補だと仮定してるみたいだからね。一応、今の感覚を覚えておいて欲しいかな?」


 僕的には、獅子堂が何らかの〝クエスト〟を経て超越者プレイヤーとして覚醒するかどうかは未知数だ。学園はヨウちゃんに続いて……と、考えてるみたいだけど、僕からは分からないとしか言えない。


 ただ、一つハッキリしているのは、獅子堂が覚醒する為のクエストがあったとしても、それは〝僕のクエスト〟じゃないっていうのは間違いない。何故かは分からないけど、そんな確信がある。……ま、こんなオカルト染みた直感がある時点で、獅子堂もまた、ダンジョンが選別する何らかの〝重要キャラ〟なんだろうとは思う。

 

「……いずれ俺も川神のようになるのか?」

「さぁ……どうだろ? 学園の思惑は別として、僕は獅子堂くんがを辿る気がしない。もし超越者プレイヤー化するとしても、ヨウちゃんとはまったく別の方法じゃないかな? ……ただの勘だけどね」

「いや、井ノ崎が言うなら多分そうなんだろう……俺にはよくわからないが、心積もりはしておく」


 清廉なマナを感じる。今の獅子堂からは、以前のような嫌な感じはしない。鼻に付くような傲慢さも、明らかに不機嫌なオーラもない上に、真っ当な素直さがある。


 レオとも考察していたけど、もしかすると、野里教官の下へ行く前の嫌なガキ大将的獅子堂は、かつてのヨウちゃんと同じように何らかの〝干渉〟を受けていたのかもしれない。それがダンジョンからなのか、この世界の原作とやらからなのかは分からないけどさ。


 ま、だからと言って、獅子堂が今までにやらかした諸々がチャラになるわけもなく……その辺りについては、これから自分でケリを付けていって欲しい。


「……とりあえず、今日は安全地帯から出るなと言われてるし、ヨウちゃんの超越者プレイヤー機能を確認していく感じで良いかな?」

「うん。というか、むしろ私と獅子堂はしばらくソレ以外はするなと言われてる。何度かダイブして、その時々のデータの変化を確認したいんだって」

「はは。学園は随分と慎重だね。派閥争いや呪物派の動きを見過ごしてきた黒い組織の割にはさ。ま、それだけ超越者プレイヤーが大事なんだろうね」


 正直なところ、協力しているからと言って学園のやり方を全面的に支持してるわけじゃない。デメリットを上回るメリットがあるから従ってるだけ。


 僕にだって、機を見て学園側を出し抜いてやりたいという昏い気持ちくらいはある。そもそも、子供を平気で実験台にする組織なんだ。この世界では普通かも知れないけど、個人的には気に入らない。


「……イノ君。私は馴れてるから良いけど、川神さんや武、教官の前で学園を批判するような真似は止めておいた方が良い……」


 おっと。メイちゃんに密かな黒オーラを察知されちゃった。


「メイちゃん。せっかく冗談っぽく言ったのに……そんな風にツッコまれると、僕が学園のやり方を嫌ってるのがバレるでしょ?」

「……たぶん、皆分かってると思うよ?」


 ぐっ。曇りなきまなこで真っ直ぐに見つめられた。メイちゃんにマジなトーンで返されるとは……身も蓋もない。


「まぁまぁ。その辺りは皆なんとなくでスルーしてるんだから……メイ様も言わない言わない」

「……ん。そうなんだ。じゃあ口にしないようにする」


 レオがフォローしてくれたのは良いけど……メイちゃんがあっさり従ったのが気になる。僕への態度と明らかな格差を感じるのは気の所為かな? パーティメンバーなのに……。ま、まぁ女子同士の仲が良いのは悪いことじゃない。うん。そういうことにしておこう。


「……気を取り直して……ヨウちゃん。真面目な話、もしも学園側から無茶なオーダーがあったら、すぐに助けを求めて。今の僕なら、学園にくらいならできるから」

「……ありがと。でも、学園側が本気になれば、助けを求める間もないと思うけどね」

「だろうね。だからこそ、僕はヨウちゃんや獅子堂くんに異変があれば、


 これはただの意思表示。長谷川教官は僕等に気を遣ってくれてるけど、監視役として、この場の会話が筒抜けなのは承知してる。


 学園側も当然に馬鹿じゃない。貴重なサンプルである超越者プレイヤーのヨウちゃんを、わざわざ使い潰すような真似は流石にしないと思う。でも、逆に言えば、ヨウちゃんを使い潰すほどに形振なりふり構わないとなれば、僕も逃げる。全力で。


「イノ、物騒なこと言わないでよ。他はどうか分からないけど、大叔母さんはそんな人じゃないから」

「そりゃレオは西園寺理事の身内なんだし安泰だろうけど……僕は学園には割とビビってるんだ。弱い犬ほどよく吠える……って感じで流しといてよ。ほら、さっきメイちゃんには言ってたでしょ? スルー推奨って」

「うーん……ダンジョン内のキレキレ具合を知ってる身としては、イノの考えるの方が怖いんだけど……?」


 まさかまさか。ガキの僕が思い付く嫌がらせなんて大した事ないに決まってるじゃないか。まったく、レオは心配性だなぁ。はははは……。


 ま、そんなこんなで、横道に逸れながらも、僕等はヨウちゃんの〝性能〟なり〝機能〟なりを調査をすることになったわけさ。



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