第15話 プレイヤーへの覚醒

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 坂城さんモドキの双剣。

 思わず出しちゃったけど、ちょっと前にやって意味無かったしな。


「はぁ。後は何をすれば良いんだか……? 意識を失っている人たちも心配だし……」


 せめてクエストはクリア条件を明示してくれよ。

 ほら。ダンジョンなのかシステムなのか知らないけど、僕をはじめプレイヤーにナニかをさせたいんじゃないの?

 こんな曖昧なやり方でオッケー出したのは一体誰の判断だよ。言っても仕方ないけど。


「イノ? そ、その剣は……?」

「え? ああ。コレはかつて野里教官が組んでいたチームメンバーの遺品のような物なんだ。その方はダンジョン内で亡くなったんだけど、諸々があって、つい最近僕が手にする事になってね。で、関係者の方から『野里教官に渡してくれ』と頼まれていたんだよ。……本当はこの剣を渡すのが目的じゃなくて、ちゃんと野里教官と話をしてくれって言いたかったんだと思うけどね。その方は教官が狂気にのまれかけていたのも知っていたみたいだし……」


 ふと視線を感じたと思ったら、何故かヨウちゃんが反応してる。


「…………イノ。これがその“クエスト”に関連することなのかは分からないけど……その剣から鎖のようなモノが出ているのが“視える”。そして、私の中の“光”が反応している。『壊せ』と……」

「はぁ?」


 え? マジでコレが当たりだったのか?

 ヨウちゃんによく見えるように双剣を前に出す。彼女の目にはナニかが“視えている”らしい。


「騒いでいる。私の中の二つのマナがそれぞれに。ドロドロのマナは『その剣を取り返せ』と煩いし、“光”の方も『楔を壊せ。囚われた魂を解放しろ』と喚いてる。良く解からないけど……その剣から出ている鎖が、野里教官に巻き付いているのが“視える”。……今まで、野里教官を見てもこんなモノは視えなかったのに……」


 本当に正解っぽい。


 囚われた魂を解放しろね……そういえば、塩原教官も言ってたっけか。『スゥあの子はダンジョンに囚われた』とかなんとか。


 そう考えるとやはり気味が悪い。

 野里教官や塩原教官、坂城さんもか。巻き込まれた数々の人たちはこのイベントの前フリか? ……馬鹿にしている。そんな筈はないと思いたい。


 今回のクエストは僕個人のモノ。パーティメンバーのメイちゃんにも、同盟を組んだレオにも共有できなかった。

 そして、クエストの主はヨウちゃんと野里教官だ。

 他の人たちはそうじゃないと信じたいけれど……ヨウちゃんの幼馴染である『井ノ崎真』として僕がプレイヤーになった理由の一つは、このイベントのためで間違いない気もしている。

 だって、このクエストの報酬は『井ノ崎真の存在保証』。“失敗したら分かってるよな?” ……的な脅し文句に見えて仕方がない。


 もしかすると、今後もこんな風にクエストで僕はコントロールされ続けるのか?


 ……うーん。まぁ今さらか。


 一瞬だけシリアスに考え込んでしまったけど、そもそもの始まりが転生なり憑依なりという訳の分からない超常現象だしね。

 その上、ダンジョンだ、スキルだ、クエストだ……と、コレらも有り得ない不思議現象に他ならないし、そんなモノが身近にある世界でナニを今さらって話だ。


 僕が自意識を持った瞬間から、システムに沿って自分自身でロール・プレイング・ゲームをプレイしているようなもの。

 どうせシステムに逆らえないなら、精々楽しむだけか。この世界のダンジョンを探求したいという好奇心もあるし、そのついでにシステムの要求クエストに応えてやるさ。


 さて、いつまでもトリップもしてられない。


「とりあえず、この剣や鎖とやらはヨウちゃんが触れても大丈夫そうなの? 『剣を取り戻せ』っていうドロドロのマナに引っ張られて、触れた瞬間に《バーサーカー》みたいになるとか?」

「……私のことは信用できないかも知れないけど、たぶん大丈夫だと思う。二つのマナがそれぞれに煩いけど……何だか、急激に混じり合って一つになっていくのが解かる。ドロドロも“光”も囁きが遠くなっていく感じ。でも、念のために、私をすぐに取り押さえられるようにしておいて欲しい」


 自分でも気付いているのか? 確かにヨウちゃんのマナが変質してきている。


「……なら、いざとなれば俺が川神を止める。井ノ崎の実力は承知しているが、野里教官の縛を緩めるわけにもいかないだろう?」


 実のところ《獣装》の切れた教官なら、逃さないように捕縛の出力を保ったたまま、《纏い影》を追加で出すことくらいは出来る。何なら教官をとっとと絞め落として無力化するのも可能だ。


 ただ……ここは獅子堂にも何かしてもらおう。いまは役割を求めているようだし、そもそもヨウちゃんは彼のチームメンバーだ。


「そうだね。そっちは獅子堂くんに任せるよ。……じゃあ、準備ができたら渡すよ?」


 ホントに頼むからね? フリじゃないから。マジで。コレでこのクエストは終わりにしてくれ。


 一縷の望みを託すように、双剣をヨウちゃんへ。その背後にはマナを集束した獅子堂が待機。何らかのスキルを使う準備もできている。


「………………」


 双剣を受け取ったヨウちゃん。目に見える反応はない。


 静寂。いや、野里教官は変わらずにガウガウ言ってるけど。

 それにヨウちゃんの中でマナが一段と騒がしくなった。ただし、特別に嫌な感じはしない。


「……イノ、獅子堂も。陰陽のマナっていうのが何なのかは解らないけど……私がこの“鎖”を壊すのが……野里教官を解放するのがクエストだ。これを壊すことで『源流に囚われた魂の解放』をしろだってさ。野里教官はダンジョンじゃなくて源流とやらに囚われてるのかな? ……意味はよく解らないけどさ。あと、まだ壊せる気がしない。マナを籠めても反応がない」

「………………」


 ……はは。“源流”ね。それってどうなんだろう。ここはレオに立ち会ってもらうべきだったかな?


 確かレオ曰く、野里教官はゲーム版のストーリーモードではどのキャラが主人公でも敵として出てくるんだったっけか。

 アニメ版は“倒して”終わりで生死はボカされ、エピローグなどでもその後は描かれてないそうだ。


 この世界でもそうだけど、普通に犯罪者として捕まるか、闇に葬られて更にヤバい実験サンプルにされるか……どう転んでも碌な結果は待っていないだろう。


「……ヨウちゃん。今更だけど“プレイヤー”って言葉に何か感じるモノはない?」

「“超越者プレイヤー”? ……秘密らしいけど、イノがそうなんでしょ? 教官がボヤいていたのを聞いたことがある。詳しくは教えて貰ってないけど……」


 グタグタじゃねぇか。教官、その辺りはちゃんとしようよ。大人なんだからさぁ。九條派の連中はともかく、ヨウちゃん達には黙っとけよ。まったく。


「プレイヤーっていうのは、謂わばダンジョンの先へ進むための便利アイテムみたいなモノらしい。クエストって言うのもプレイヤー特有のダンジョンからのお使いみたいなモノ。僕は、ヨウちゃんもそうじゃないかと考えている」

「……私が? も、もしかして、この“光”の導きはイノにもあったの?」


 あのテキストの指示がそうなのかもね。視覚的にはステータスウインドウか?

 ヨウちゃんが視ているという“光”よりも味気無いけど、具体性はちょっとマシなのかな。あとインベントリなんかの便利さは比べ物にならない。


「たぶんヨウちゃんのような形ではないけど、似たようなモノは僕にもある。実は『呪物』をペナルティなしで扱えるのもプレイヤーの特性の一つだったりする」

「……イノ、からかってるの? 私も獅子堂も、呪物を扱う度に『浸食されている』実感があった。アレはペナルティそのものだよ」


 ヨウちゃんが少し顔を歪める。ああ。やはりペナルティの実感はあったのか。でも、それはストア製アイテム作製者のパーティメンバーじゃないからだろうし……


 いつからかは分からないけど、いま現在、パーティ登録の目安である友好度の欄から、ヨウちゃんの名前が消えているんだよ。レオと同じだ。もう彼女がプレイヤーなのは間違いないと思う。


「……ええと、ヨウちゃん。とりあえず一度マナを直に感知してもいい? 少し触れるだけなんだけど……?」

「……それこそ今更だよ。ダンジョンを出る事ができるなら、何でもやってもらって構わない」


 チラリと獅子堂を見る。頼むよ。何かあったら止めてくれ。

 本当は得体が知れないヨウちゃんのマナに触れたくはない。僕に何かあると野里教官も野放しになる。でも、これが正解だろうという感覚もある。南無三。


 覚悟を決め、そっとヨウちゃんの肩に触れる。


 バチリと電気が走ったかのような痛み。くそ。ここでコレかよ。レオのときよりも遥かに軽いけど……思わずビクっとなり、ヨウちゃんと獅子堂も何事かとビビっちゃったじゃないか。


『川神陽子の原作の楔が解けかけています。プレイヤーへの覚醒を促しますか?』


 しかもこのテキスト。


 何だよ。ヨウちゃんに触れるだけで良かったのか? しかも覚醒って、陰陽のマナとかじゃなくて、“プレイヤー”への覚醒かよ……もっと具体的なヒントをくれよ。いやクエストのテキストには確かに書いてあったけどさ……足りないんだよ、色々と。


 しかもガッツリと“原作”って言っちゃってるじゃん。楔が解けかけてるって何なんだ。


 まぁ良い。考えるのは後だ。後でレオに協力してもらって考察しよう。


 今は『はい』一択しかないけど……残酷だな。


「……ヨウちゃん。僕のクエストはヨウちゃんをプレイヤーに覚醒させることだったみたい。どうする? ……とは言っても、このクエストが終わらないと出られないから選択の余地はないんだけど……」

「……よく解らないけど必要なことならして。……どうせ私たちが探索者としてダンジョンに関わるのはコレで終わりだろうし……プレイヤー云々なんてどうでもいいよ」


 甘いよヨウちゃん。

 もしかしたら、今度は西園寺派のサンプルとしてアレコレさせられるかも知れない。だからと言って、クエストをクリアしない訳にもいかない。

 はぁ。これじゃ僕も野里教官や呪物派の連中と変わらないな……結局、ヨウちゃんの逃げ道や将来を潰してしまうことになる。


「もしかすると、かなりの激痛があるかも知れない。その覚悟はしておいて欲しい」

「……わ、分かった。痛みね……」


 ぐっと歯を食いしばり、全身に力を入れてスタンバイするヨウちゃん。本当にごめんね。


『川神陽子の原作の楔が解けかけています。プレイヤーへの覚醒を促しますか?』


『はい』


 ……

 …………

 ………………


 案の定、痛みがあった。それも、僕がメイちゃんをパーティ登録した時みたいな感じ。ヨウちゃんはのた打ち回る羽目に……コレはこれでごめん。僕が謝る所じゃないんだけどさ。

 思わずガウガウ言ってた野里教官も大人しくなっちゃったよ。……自分もされると思ったのか?


「……あの……お、落ち着いた……?」


 クタクタになって大の字になってるヨウちゃんにギッと睨まれた。


「…………イ、イノ……ッ! 必要ならやってくれとは言ったけどッ! この痛みは本当に必要なことだったの……ッ!? し、死ぬかと思った! ……痛たた……まだ痛い気がする……」

「……お、おい。大丈夫か? 興奮すると障るんじゃないか?」


 獅子堂も気を遣っているけど腰は引けている。そりゃそうだ。見知った女子が叫びながらのた打ち回る姿なんて……トラウマものだ。目の前でされるとどんなホラー映画よりも怖いよ。


「き、きっかけは僕だけど、痛みについてはそもそもの仕様らしいから……」


 苦しい言い訳だな。いまのヨウちゃんには欠片も響いてないのだけは分かる。

 恨みがましい目は敢えて無視して話を進めていく。


「ほ、ほら。とにかくヨウちゃんの中で何か変化はあったでしょ? その検証をしないと!」


 ちなみに僕のクエストはクリア扱いで終了した。にも関わらずまだダンジョンから出れない。恐らく、ヨウちゃんのクエストをクリアすることが本当の終わりだ。


「……くっ……確かにね。…………えっと……マナがすごく安定したかな。二つあったのが完全に一つになった感じがする。今ならあの鎖は壊せそう。あと……何故か解らないけど……もう『呪物』を使っても問題ない気がする。それどころか、今の装備を強化? して呪物化することも出来る気がする……」

「……え?」


 あれ? ステータスウインドウとかは?

 試しにステータス画面を展開。


「ねぇヨウちゃん。僕の目の前に画面のようなモノは視える?」

「……え? な、何も視えないけど?」


 何だ。僕やレオにも仕様の違いはあったけど、前世とステータス画面は共通していた。パーティ登録したメイちゃんにもステータスウインドウは使えたのに……


 ヨウちゃんはダメなのか?

 現地プレイヤーだから?

 でも、ストア製アイテムは使える?


 謎。


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