第16話 魔道士クラス

:-:-:-:-:-:-:-:-:-:



 諸々の確認のために三階層でのゴブリン退治。もう懐かしいね。


 新鞍さんは【黒魔道士:Lv6】で得意属性は「風」。


 魔道士クラスは個人で得意属性が決まっており、その属性によって扱える魔法スキルに差があるらしい。つまり同じ《黒魔法》でも人によって火属性の《ファイア》が使えたり風属性の《ウインド》が使えたり……となる。

 基本属性は「地」「水」「火」「風」「光」「闇」「無」の七つ。「雷」や「氷」みたいなのはレア属性で別枠らしい。謎。

 よくある、複数属性持ちでスゲー! も現実にあるそうだ。


 ちなみに《白魔法》は「回復」「攻撃」「防御」の三つの属性があった。

 僕は防御属性。防御寄りの強化バフ系魔法スキルが使える。

 攻撃属性なら名の通り攻撃系や弱体デバフ系の魔法スキルが使える模様。

 回復属性はそのまんま。バフやデバフより正真正銘の回復魔法に特化したスキル構成になるようだ。勿論、あくまで傾向であり、どの属性でも白魔法の基本である回復魔法スキルは使える。


 プレイヤーとしての特性なのか、新鞍さんはクラスの他、この属性も自分で選べたそうだ。僕は【白魔道士】の際に属性まで選ぶことは出来なかった。選択の余地もなく「防御」の属性だったよ。これもまた謎。


「《エア・カッター》!」


 一瞬のタメの後、薄い緑のエフェクトと共にマナで形作られた風の刃が射出される。

 憐れゴブリン。危険を察知するも回避することは叶わず。風の刃が通り抜けた後にはゴブリンのバラバラ死体が残される。……苦手だとか、心理的なショックが強いという割には、猟奇的な結果をもたらすスキルを使うとはね。


 ま、なんだかんだと言いながらも、普通のゴブリン相手なら、相手の数にもよるけど、新鞍さんでもソロで問題なく対処できるみたい。

 ただ、本人が自己申告するように、近距離で魔物と相対することは苦手で、距離を詰められると焦ってしまい、スキル発動までに少しモタついてしまうようだ。

 僕は魔道士の良し悪しが分からないけど、新鞍さんは使い手としては下の上くらい?


「メイちゃんはどう見ます? 僕、レベル【六】の黒魔道士がどの程度か知らないんですけど……」

「……良くも悪くもない……かな? 近付かれてバタバタするのは、別にこのレベル帯なら新鞍さんに限ったことじゃないと思う」


 あら。そうなのね。

 魔物に近付かれて怖いなら、ストア製アイテムで防御面を底上げすれば少し余裕も出てくるでしょ。


 そんな風に考えてたら、いつの間にかゴブリン二体に接近されてる。


「くッ!《エア・ハンマー》!」


 相手を倒すことより距離を離す為の面を攻撃する一手。射程範囲は短いものの、広範囲に衝撃を与えるスキル。魔法スキルは選択肢が多くかなり汎用性が高い。


 目論見通りに《エア・ハンマー》でゴブリンたちを吹き飛ばす。倒れた拍子に一体は頭部を痛打し、首が曲がってはいけない方向へ。ご愁傷様。

 それを確認し、新鞍さんはそのままバランスを崩したもう一体に向かってマナを集中して瞬時に放つ。

 実体のない空気の弾丸が射出され、ゴブリンの口の辺りに直撃。鼻から下が弾け飛ぶ。確認するまでもなく致命傷。

 今のは《エア・ブリット》という速射性に優れた魔法スキル。ただ、銃弾と同じ程度の効果範囲なので、ちゃんと狙わないと躱されるらしいけど、キッチリ命中させてる。


 うーん。パッと見た感じでは、本人が卑下するほどに悪い動きとは思わないけどな。



 ……

 …………



「……どうだった?」


 おずおずと縮こまっての上目遣い。

 とてもついさっきゴブリン達を血祭りにあげた少女と同一人物とは思えない。……今さら僕たちが言うことじゃないけどさ。


「……現状、良くも悪くもない。私はまだ新鞍さんに負の感情がある。その上での評価」

「……ッ! ……うぅ……」


 おぅ。メイちゃんは大人だね。辛辣だけど公平だ。新鞍さんはシュンとしちゃったけど、割と褒められてるほうだと思うよ。


「僕は割と良かったと思う。ストア製アイテムと“狩場”を活用できれば、レベルはすぐに上がるだろうし……スキルやマナの使い方を訓練して、徐々に慣れていけば良いんじゃない?」

「ほ、ほんとッ!? まともにダイブ出来るようになる!?」

「………………」


 いい笑顔だ。……でもなんだろう。新鞍さんが上向きになると、若干メイちゃんからの圧が増える気がする。うん。気の所為だ、きっと。気の所為気の所為……


「……ねぇイノ君。彼女は“同志”じゃないよ。ストア製アイテムが使えるの?」

「うーん。まずはそれを試そうかと。ステータス画面の中にさ、新鞍さんに会ってから『同盟』って項目が増えてるんだ。メイちゃんにはあります? あ、新鞍さんも確認してみてよ」

「え? そんな項目無かったはず……」


 ステータスウインドウを開き、確認して首を振るメイちゃん。それに対して新鞍さんは「あった!」という反応が返ってきた。やはりこの『同盟』はプレイヤー同士のモノかな。

 ちなみに僕とメイちゃんは新鞍さんのステータス画面は見えない。恐らく逆もまた然り。たとえプレイヤー同士であっても、相手側のステータス画面を認識は出来ないようだ。


「特に通知とか無かったし、ヘルプの追加も無い。でもプレイヤーの二人にだけ項目がある。それに、パーティ登録のための友好度の一覧に新鞍さんはいないんだ。長谷川教官は追加されてるのにね。後は試してみるだけかなと……」


 軽く説明。

 ただ、初めてパーティ登録した時のあの激痛。あれ以来、新たな機能の解放にはビビってる。今回は新鞍さんもいるし。


「あ、『同盟』を選んだらメッセージ。……『同盟を組むパーティを選択して下さい』だって。井ノ崎パーティが欄に出てきた」


 なんでだよ! 新鞍さんにはあの激痛はないのかよ!? いや、彼女にのた打ち回れとは言わないけどさ。何だか不公平だろ!


 お、僕のステータス画面で『同盟』の項目も点滅している。さっさとチェックしろということか。


『以下のパーティから同盟の要請がありました。受諾しますか?』


 更に『新鞍パーティ』という欄が点滅している。一人でもパーティ扱いなのか。『はい』を選択する。

 ビリッとかバリッとした痛みが走る。

 痛ってえぇ! くそ。やっぱりあるのか。まぁあの時よりはマシだ。


「痛ぁぁッ! な、なんなの!?」


 おっ。新鞍さんにも出たか。いきなりの痛みで不可解な顔してる。はは。ちょっと親近感。あぁダメな公平感を求めてしまった……すまぬ。


「僕もよく知らないけど、特定の機能が解放されるときに罰ゲーム的な痛みを受ける場合があるみたい。メイちゃんと初めてパーティ登録するときは、こんなの比じゃない位の痛みで、時間も長かったよ」

「……はぁ!? な、なにそれ? 今のも割と痛かったんだけど……?」

「……あの時のイノ君。本気で心配した。あれは酷かったなぁ……」


 メイちゃん、煽るね。ちょっと意地悪な顔になってるし。ダメだぞ? 僕も人のこと言えないけど。


 それは措いといて『同盟』の確認だ。いつの間にかヘルプも増えてる。いちいち親切なのか不親切なのか微妙なラインを攻めてくるな。このシステム。


「やっぱり、この『同盟』はプレイヤー同士のパーティ登録代わりみたい。お互いのインベントリの共有は出来ないけど、ストア製アイテムの使用にペナルティはなさそう。まだ無理だけど、新鞍さんがストアで作製したアイテムを僕やメイちゃんが使用することもできる。DPを擬似的に共有する感じかな」

「でぇーぴー?」


 そっか。『ストア』が開放されていないから、まだ知らないのか。


「その辺りはまた後で説明していくから。とりあえず、僕のDPで新鞍さんの武具を強化するから、手持ちで一番質が良いヤツ持ってきてよ。どうせなら西園寺理事におねだりしても良いし」


 西園寺理事はプレイヤーの情報を集めているし、その蓄積もある。ストア製のアイテムと呪物の関係も把握してるなら、新鞍さんのおねだりの真意にも気付くだろう。


「ちなみに、魔道士の杖とかロッドってどんな仕組みなの? 剣や斧とかと違ってほぼダンジョンテクノロジー?」

「あぁそれはね…………」


 新鞍さん曰く、魔道士系クラスの杖やロッドは最終的には鈍器だけど、主たる目的はマナの効率の良い集束と増幅だそうだ。

 杖やロッドの中には、複数の魔石が回路として設置されており、使用する魔石の質や数、配列の仕方で効果が変わるらしい。

 そして、マナの伝導率を高めるため、ダンジョン由来のミスリル鉱石や霊木が用いられることが多く、マナを纏わせると普通に金属と打ち合うことも出来る。ただし、それはあくまで緊急用。魔石回路の基盤は精密なので、普通は打撃武器として使わない。打ち合うこと前提で、敢えて近接武器として造られた物もあるようだけど。


 魔道士系の武器事情。魔道士クラスはマナを主体としている以上、僕らが防御アイテムとして活用している、ストア製アクセサリーもかなり有用だろうね。


「新鞍さんの育成プランは割と大丈夫そう。あとは新鞍さん自身が魔物との戦いに慣れていくしかないね。メイちゃん、不本意かも知れないけど……お願い」

「……大丈夫。一度決めた以上、新鞍さんを引き上げる。そこで手を抜いたり、悪感情で判断を左右しないよ」

「た、鷹尾先輩……あ、ありがとうございます! なるべく早く、足を引っ張らないようになりますから!」


 いやいや新鞍さん。いま、メイちゃんは割とハッキリと『お前に悪感情がある』って言ってたぞ。まぁ本人が良いなら構わないけど。

 ただ、いずれは二人にも打ち解けてほしいね。ギスギスしたままダイブするのは胃に悪い。


「長谷川教官や市川先生も待たせてるし、今日は帰りますか。新鞍さん、武具の準備が出来たらまた連絡もらえる?」

「うん。分かった。あと、私の事はレオで良いよ。私もイノって呼んで良い?」

「良いよ。じゃあこれからは『レオ』って呼ぶよ」


 僕からしたら前世込みでずーっと年下だけど、彼女は前世で二十代まで過ごしてたらしいし、流石にちゃん付けは悪いかな? ふとそう思っただけ。特に他意はない。ホント。


 ゆらりと視界に入る影。


「……ねぇイノ君。……私は『メイちゃん』……新鞍さんは『レオ』……どうしてかな?」

「「え?」」


 ソコに引っ掛かるの? まったく、割と面倒くさいぞ。メイちゃん。


「ア、ハイ『レオちゃん』トヨビマス」

「ア、ワタシモ『イノ君』ッテヨビマス」


 でも、圧が怖いから逆らいません。メイちゃんの地雷が分からない。


 ちなみにメイちゃんは『新鞍さん』のまま。当然レオも『鷹尾先輩』呼び。

 メイちゃんにも前世の話をしておいた方が良いかな?



 ……

 …………

 ………………



 レオとの顔合わせの後、数日経ってもまだ『特殊実験室A』のメンバーとの顔合わせはない。このまま顔を合わせずに済ませるのかも知れない。出来ればそうしてくれ。


 ただ、所属は早々に切り替えとなり、今後は僕とメイちゃんとレオの三人で『特殊実験室A』としてダイブすることになる。公表はされたけど、前のようなゴタゴタはない。ひっそりと知らされ、さり気なく活動するという感じ。


 野里教官たちは学園側ではなく、探索者側のゲートを使用してダンジョンに籠っている。既に学園内でその姿を見かけることがない……と、波賀村理事や市川先生がぼやいていた。

 野里教官率いる向こうの班は、六階層から先、十階層のフロアボス撃破を目指しているのだろうと言うのは、長谷川教官の話。

 胸糞悪いことに、既に生徒たち……ヨウちゃんや獅子堂にも『呪物』が支給されているらしい。ダメ。ゼッタイ。とか言いたくなる。

 

 僕らは日帰りのダイブが基本で、今となっては“狩場”でのレベル上げになってるけど、六階層をウロウロしている時にはその広さに辟易したものだ。


 廃墟エリアは実在の都市まるごとなので、徒歩移動はかなりキツい。マナによる身体能力の強化があっても、エリア内を少し詳しく調べようとするだけで何日もかかる。

 そんなエリアが続くため、六階層から十階層のフロアボス撃破までは最短ルートでもかなりの日数になる。まぁコレは十階層以降も同じこと。

 ダンジョンの中は異世界であり、階層が進めば、惑星一個分の広さを持つ階層も十分にあり得るという研究者もいるそうだ。


 本当に十階層のフロアボスを倒すつもりなら、野里教官たちがダンジョンから出てくるのは、しばらく先になるだろう。別にいちいち凱旋式をするわけでもないし、戻ってきても会わないだろうけど。


 西園寺派、九條派、野里教官個人の目論見はどうであれ、頼むから僕らを抗争とかに巻き込まないでもらいたい。

 悪いけど、もう野里教官たちが『呪物』を活用しようが、なかなかプレイヤーには届かないと思う。それがハッキリするくらいにはダンジョンシステムが解ってきた。

 わざわざ他のことに構わず、それぞれが自分たちの目的に邁進して欲しいね。


 ただ、ヨウちゃんが問題かな。

 異常に高い僕への友好度。それをそのまま「友好」の度合いとして受け取るほどバカじゃない。明らかに悪い方の「執着」だろう。

 心当たりは直接ブチのめしたこと以外にないし、リベンジマッチがヨウちゃんの望みか。モテる男はツラいね。……全然嬉しくない。



:-:-:-:-:-:-:-:-:-:

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る