第9話 初クエスト
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六階層でのレベル上げの日々。
ストア製アイテムたちの使用にも慣れ、戦い方もそれに合わせて調整も出来てきた。僕の方は「なんとなく……」で済んだけど、細かい武器の扱い、立ち回りについては、メイちゃんの方がアジャストに時間が掛かった。
彼女曰く、僕はテキトー過ぎるらしい。なんかゴメン。実際、武器の細かい違いとかあんまり解ってない。鉈丸は良く斬れるなー頑丈だなーってくらいだ。
そんな風に過ごしていたら、遂に来た。「クエスト」だ。
『クエスト発生条件を確認しました。“プレイヤーの残照”が開始されます』
『初回のクエスト発生を確認しました。ヘルプを開放します。詳しくはヘルプをご確認下さい。それでは良いダイブを!』
さてさてクエストさん。はじめまして、ごきげんよう。
「……イノ君。これは何? クエストって?」
「さぁ何でしょうねぇ……?」
ああ。メイちゃんの相手をする気力がない。フリじゃ無いって言ったじゃん。
とりあえず、開放された新たなヘルプを確認する。っていうか、初クエストの前にヘルプなり説明欄なりを解放しておいてくれ。システムの通知がいちいち不親切だ。
文句を言っても始まらない。
ヘルプによると、クエストには三種類あるらしい。
まずは討伐型クエスト。魔物を一定数倒すだけ。お手軽。魔物の種類やその数によって
二つ目が探索型クエスト。ダンジョン内の秘密の通路や隠し部屋を見つけていくもの。その先には宝箱などが設置されているらしい。別に無視しても良さそうだ。
最後に条件型クエスト。今回のヤツ。一定の条件を満たしていたら有無を言わさず発生する、云うなれば強制クエスト。拒否はできない模様。しかも、内容、難易度、クリア条件もクエストによって千差万別という仕様だそうだ。なんで初めてのクエストが強制なんだよ。……いや、チュートリアル的には当たり前なのか?
「……何らかのお題が出されて、それをクリアするとご褒美があるようですね」
「……え? い、意味が分からないんだけど……?」
うん。大丈夫。僕にも意味が分からない。
クエスト:プレイヤーの残照
発生条件:一人以上のパーティ登録済み。六階層で一定時間(累計)が経過する。
内容:もう一度会いたい。戻れないのは知っている。
クリア条件:プレイヤーの残照の撃破。
クリア報酬:???
おぅ。大丈夫じゃない。本当に意味が分からない。
ただ、内容を見る限り、強制とは言いながら別に制限時間とかペナルティはないのか?
「えーと……何でも“プレイヤーの残照”という敵を撃破する必要があるようですね。いや、必要はないのかも……?」
「……ど、どうするの? 私、よく分かってないよ?」
はは。大丈夫だよメイちゃん。僕もよく分かってないから。
さてどうするか? いや、流れ的には、クエストに取り掛かるのが正解なんだろうけどさ。ふぅ。ダンジョンシステムに踊らされてるなぁ。
……
…………
ヘルプにも、クエストの説明欄にも記載は無かったけど、何故か視界の端に矢印が出てきた。こういう所だけ親切設定かよ。この矢印の先にクエストの目的、プレイヤーの残照とかいうターゲットがいるようだね。
そもそもどんな相手なんだか。ネーミングが気になり過ぎる。プレイヤーって……
「……すごい違和感があるんだけど……この矢印」
「慣れるしかないかと。多分、クエストをクリアするまでこのままかな?」
はじめは新たな機能に少し興奮気味だったメイちゃんも、今や若干不機嫌だ。当たり前か。僕だって
ただ、このクエスト関連が開放されてから、マップ機能まで追加となった。ステータス画面でマップと現在地を確認できる。こっちは素直にありがたい。でも、逆を考えると、それだけクエストには必須な機能という扱いかな。
このマップ、基本は自分が訪れた場所が追加されていく感じだけど、クエストの目的地には、ご丁寧にマップ上でピンが立っている。矢印とこのピンで目的地へ辿り着けということなんだろうけど……ここに来て、使い勝手の良い親切機能はちょっと不安になる。気にしてもどうしようもないけど。
マップと周囲を確認すると、矢印はどうやらオフィス街の高層ビルの一つを指しているようだ。
当然ビル郡も廃墟化しており、倒壊して瓦礫と化しているモノも多い。メインストリートに積み上がった瓦礫をえっちらおっちらと進み、目的のビル自体が目視できる距離まで来た。
「……
「恐らくは。それもゴブリンやウルフタイガーじゃないのは確実です。もし、敵と当たってみて、ダメそうなら帰還石で戻りましょう。メイちゃんも躊躇しないで下さい」
緊急時の動きや注意点を確認し、防御力アップの《ディフェンス》、スピードアップの《ヘイスト》を掛けて、いざ。
矢印の向きはほぼ地面と平行であり、上層階とかではないはず。
一階が吹き抜け構造で、受付フロア的な広い空間となっている。恐らくは自動ドアがあったのであろう正面玄関から中を覗くと、既にそこに居た。人?
「(……居ますね)」
「(……あれは探索者?)」
実用というよりは見た目を重視したと思われる、吹き抜けフロアにある大階段。その階段に腰掛けた“誰か”が居る。プレイヤーの残照……かつてのプレイヤーなのか?
思ったより気配は普通だけど、まさか、ただの人という訳でもないだろう。相手もこちらに気付いているけど、動きはない。ステータス画面や矢印に変化もない。
「(とりあえずもう少し近付きます。油断はしないで)」
「(……分かった)」
臨戦態勢、帰還石も即座に使える状態でビルの中へ踏み込む。まだ相手に動きはない。
静かに近付いていき、一旦、二十メートル程の距離を置き相対する。相手の視線も動いているし、完全にこちらを認識している。
比較的軽装な二十歳前後の男性。左右の腰に一振りずつ剣を佩びている。双剣使いか?
『……よう、プレイヤー。今は何年だ?』
「……!?」
普通に喋った。メイちゃんは動じてないけど、僕はビビった。質問? 何年? 西暦を聞いているのか?
「……今年は二〇二二年ですよ。貴方もプレイヤー?」
『……二年振りか。割と間隔が短い』
ぼんやりと独り言ちた。いや、コッチの質問を無視しないでよ。自己完結系の電波さんなのか?
『……おう悪いな。おっと、すまないがそれ以上は近付くなよ? どうせ一戦やらかすことになるが、少しお喋りしようぜ』
僕の内心の悪感情を察知したのか、こっちをちゃんと見た。割とフランクな感じ。でも、戦うのはやっぱり確定なのか。
『俺の名は
プレイヤーの残照か……皇さん(模擬)が言っていた八人のプレイヤー。その内のダンジョンで亡くなった人?
それにしても二〇一六年、六年前と言えばまだ最近だね。学園にデータとか残ってるかも?
いやいや、普通に受け入れちゃってるよ僕。メイちゃんはちょっと引いてるのに。
「……えーと。幽霊というにはガッツリ実体ありますよね?」
『おう。フレッシュゴーレムとか、フレッシュゾンビってヤツでな。普通に魔物扱いだ。まぁ幽霊というか、ゴースト系の魔物とは別物だな』
か、軽すぎない? 割とヤバいこと口走ってるけど?
「はぁ。そ、それで、坂城さんは何故にこんな事に? 僕は初クエストがコレなんですけど?」
『まぁ俺もよく解ってないんだが……ダンジョンで死んだプレイヤーは、こんな風に再利用されるみたいだな。ただ、記憶はあるが、今の俺が生前の俺と連続性があるかは知らん。五階層の皇さんの模擬人格のように、ある程度独立したモノかもな。俺も特に説明はなく、気付いたらココでクエストモンスターになってたからな。今はステータスウインドウも呼び出せないしよ』
語り口は軽妙だけど、内容がハード過ぎる。なんだよ“再利用”って……プレイヤーは死んだらクエストモンスターにされちゃうの? いまさらだけど、倫理観がオカシイよね?
あと、ニッコニコの笑顔で説明するの止めて。怖いから。
「……イ、イノ君? 私、い、意味が分からないんだけど……? 坂城さんは既に亡くなっている?」
「……みたいですね。ここに居るのは坂城さんの記憶を持った魔物……になるのかな?」
僕はやたらとハッキリ覚えてる、前世のゲーム的なフィクション知識から『そういう事もあるのか……』くらいだけど、メイちゃんが引くのは当然だ。こんなの、普通に頭オカシイもん。
『それにしても……早いな。年齢的にまだ学園生だろ? 既にパーティ登録済みで、武器もストア製? 俺なんか自分がプレイヤーだと気付いたのが高等部の卒業間際だったぞ。十階層を超えるまでストアは開放出来なかったし、パーティ登録は更にその後だったぜ』
「……? プレイヤーに気付いた?」
やはりプレイヤーも人によって違いはあるのか。もしかしてスタートもバラバラ?
『そうだ。俺は“何か違う”という感覚はあったが、プレイヤーとしてステータスウインドウを呼び出せたのが卒業間際の時期だった。その後、ほぼ偶然から五階層へ行く用事があり、そこで皇さんに色々教えて貰ってな。自分は特別だ! な〜んて浮かれてたけど、結局は十五階層で呆気なく殺られちまったよ』
今の彼に悲壮感はない。でも、何だか胸が苦しい。僕も“こう”なってしまうのか? 坂城さん。出来るなら、生前にプレイヤー同士で会いたかった。
『ちなみに俺もまだクエストモンスターとしては新米でな。実はお前らで二回目でしかない。初めてが二年前になるが、そのときは俺も混乱しててな。相手が学園の生徒で、当時が二〇二〇年だと言うくらいしか話が出来なかった。あまりに接近されると、俺は問答無用で襲いかかる仕組みになっているようだ』
そこに自分の意志はないと……まさにクエストモンスター化しているわけか。
『……で、だ。もし、お前の少し年上の男のプレイヤーに会ったら謝っておいてくれるか? いきなり不意打ちで深手を負わせちまったからな……あれは悪いことをした』
「その人は
『……! おお! 知ってるのか! 確かそんな名前だった』
「僕も直接の面識はまだありませんけど、皇さん(模擬)に聞きました。いずれ伝えますよ。……でも、伝言を残すということは、僕らを倒す意思はない?」
どうなんだろう? 今の坂城さんはクエストモンスターとしてダンジョンに配置されているし、さっき襲いかかるとか言ってたよね?
『当たり前だ。俺にその意思はない。だが、そうも言ってられないというのもある。こうしていても、俺はお前らを倒す算段を考え始めている。魔物の悲しい
先に言っておく。まず、俺はレベル十四の【双剣士Ⅱ】で、クラスの通り双剣使いだ。まともな攻性魔法スキルや遠距離攻撃の手段はない。バリバリの近接戦闘派で格闘スキルもある。恐らく魔物化した今も生前のスキルを使える。武器は愛用品がコピーされているが、ストアでの強化前のヤツだから、何とか防げるだろ。
前回は魔法スキル持ちに遠距離から削られて終わったが……見たところ、お前らはそうじゃなさそうだからな。何とか近接戦闘で仕留めろよ?』
自分の戦闘方法を明かす。でも、ソレをそのまま信用できないのも切ない。
どこまでが坂城さんの意思で、どこからが魔物の意思なのか……嫌だね、こんな事を考えないといけないなんて。ダンジョンシステムは悪趣味の極みだ。
「……イノ君。本当に戦うの? 坂城さんと……」
メイちゃん。当たり前だよね。僕も戦いたくない。このクエスト、ペナルティや制限時間がないなら、別に無視してもいいんじゃないかと思い始めている。
『ありがとうな。お嬢ちゃん。だが、このクエストはクリア必須だ。俺とエンカウントした時点で、既に出る側のゲートは閉じ、帰還石も使えなくなっているはずだ。クソッたれなダンジョンシステムだが、バランス調整はされているっぽい。今のお前らで倒せない程の実力差はないと思うぞ』
そっと帰還石にマナを送る。皇さん(模擬)の時と同じ。発動しない。くそ。
フロアボスは良くても、クエストモンスターは駄目なのか……逃げられない。
『まぁそう気負うな。俺はもう魔物だ。……だが、お前もプレイヤーなら解るだろ? 俺を殺すのはお前の役割だからな? お嬢ちゃんにさせるなよ?』
「……ええ。そこは理解しています。あ、ちなみに僕は井ノ崎真で、二〇二二年で十四歳。学園卒業後はそのまま探索者になるつもりです。とりあえず、クエストモンスターとして記憶の連続性はあるんでしょ? 次にプレイヤーが訪れたら、僕に会いに来るように伝言をお願いしますよ」
一応、コッチからも伝言をお願いしておく。まぁ次のプレイヤーがいつになるのかは分からないけれど……
『はは。任されたぜ。なら、俺からも追加だ。もし俺を倒した後、俺
僕を見据えながら、坂城さんは何処か遠くを見てる。在りし日の影か……
「……ええ、確実に。間違いなく坂城さんの願い通りに実行しますよ」
深くは聞かない。それは野暮ってものだ。
ダンジョンシステム、クエスト……何が“プレイヤーの残照”だ。くそ! 馬鹿にしやがって!
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