第5話 ストア製の武具
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ストア製武具の胸糞設定はさて置き、正当な性能は検証する必要がある。そもそも皇さん(模擬)から『十階層以降はストアがないと厳しい』なんて情報を聞いていた訳だし。
「とりあえず、僕のこの『ただの鉈』という身も蓋もない名称の愛用品で検証してみます」
「……これがインベントリ。私の刀も『普通の打刀』になってる……ちゃんと銘はあるのに……」
元々の名称や銘とかは関係なく、インベントリに収納することで勝手に判断される仕組みのようだ。まぁ確かに以前に収納したメイちゃんの太刀と槍も『普通の太刀』『普通の槍』だった。収納した各武器の攻撃力とかが数値化される訳でもない。良し悪しの判断もつかないという始末。
ステータスウインドウを呼び出して、メイちゃんと二人で確認しながら進めていく。
まず、これまでのダイブでドロップしていた魔石やゴブリンの粗末な武器などを
ちなみに生徒がダイブで取得したドロップ品は、基本は学園が一旦徴収することになり、物によってお金や別の品物と交換というシステム。当然、僕はソロダイブ(違法)の頃から貯め込んでいた。正規ダイブとなってからも、野里教官や市川先生はドロップ品については特にとやかく言わなかったしね。
DP:125
この時点で多いか少ないかの判断がつかない。ただ、ストアシステムが解放されるのは序盤も序盤だろうし、DP自体が少ないのは確実だろう。
「この『ただの鉈』を強化するために必要なDPは10? 少なくね? 本当に強化されるのかな?」
「……そもそも本当に武器を強化するなんてことが出来るの? ……一振りの刀が鍛え上げられる過程を知っている身としては、ちょっと信じられない」
メイちゃんとあーだこーだと言いながら、実際にストア機能で『ただの鉈』を強化してみる。
予想はしていたけど、特に荘厳な演出もなくただテキストメッセージが出るのみ。
『強化しました。『ただの鉈』はストア製武器となりましたので、名称の変更が可能です』
「…………」
「………え? 終わり?」
そりゃメイちゃんも驚くわ。なんだろうね。システムにめちゃくちゃ手を抜かれてる気がしてならない。まぁ別に良いんだけどさ。いちいち大袈裟な演出が長時間あって、更にスキップ不可とかだと、それはそれで困る。
そんな手抜きシステム曰く、一度ストアで強化すると自分で名前を付けることが出来るようだ。
シンプルに『
強化した『ただの鉈』改め『鉈丸』。DP10の消費だし、どうせ大したことはないだろうと思い、気負わずにインベントリから取り出して……ビビった。
「……イノ君。そ、それ、さっきまでの鉈……で、間違いない……?」
「え、ええ。その筈です。あ、今は鉈丸ですけど……」
僕には武器の善し悪しなんて判別できない。ダンジョン内でなら辛うじて『あ、もしかして良いヤツかな?』くらいの認識がある程度。
そんな僕にでも判る。何というかオーラが違う。刀身の輝きというか妖しさも別物。姿形は大よそは同じだけど、マナが蠢いているのが分かる。一見しただけで『ヤバい業物』だ。なんというか、妖刀とか魔剣とかの類。
「……コレ、ホブゴブリンに、僕でも一撃で深手を与えられそうですね」
「……信じられない。武器自体にマナが宿ってる……?」
軽く素振りしてみる。まるで違う。何というか、重量のバランスまで変わっている? 凄く振り易い。これがストア製の武器。
いま出ているヘルプ欄を確認しても、パーティ登録をされているメイちゃんなら危険はないはず。鉈丸を手渡して、メイちゃんにも確認してもらう。
「……凄い。さっきまでのただの鉈とは、切れ味も全く違うはず。それに刃の鋭さもさることながら、恐らくかなり頑丈になっていると思う。別物みたい……」
「鉈丸を、ストア製の武器を持っても気分悪くなったりはしません?」
「……うん。それは別に大丈夫だと思う」
珍しくメイちゃんが唖然としてる。口も半開きだし。かと思っていたらゴクリと喉を鳴らす。鉈丸に圧倒されている。
これでDP10? 割とDP残ってるんだけど。
試し斬りをするまでもなく、別物みたいというか、ほぼ別の業物に強化されていることが判った。しかし、これは不味い気がする。
「……コレ、野里教官も一目で気付きますよね?」
「……うん。当たり前に気付くと思う」
パーティ登録という機能は分かった。そのためにはダンジョンで接した人たちと、お互いに友好度を上げる必要があると。
今のところ、メイちゃん以外では、僕からの友好度が高いのは、野里教官、サワくん、風見くんの三名。逆に僕に対して友好度が高いのは、ヨウちゃん、風見くん、サワくんの三名となる。
恐らく風見くんはもう少しでパーティ登録ができるだろうけど、コッチの事情に彼を巻き込む気はない。次点でサワくんの可能性があるけど、彼を登録をするにしてもせめて学園を卒業した後だろう。
……っていうか、メイちゃんの場合はいきなり罰ゲーム的な痛みの中で判断を迫られたけど、他の人も同じだったら……一定の友好度の人には近付けないな。怖すぎる。
気になるのは野里教官の僕への友好度の低さ。まぁ単に僕のことが気に入らないだけなら良いけど……少し引っ掛かるな。それに彼女の性格なら、デメリットを覚悟の上でストア製の武具を欲するだろう。ここにきて、またもや野里教官を出し抜くことを考える羽目になるとはね。
ヨウちゃんからの友好度の高さは謎だけど放置だ。あのホラー映画のような仄暗いマナ。アレを有する相手に背中を預けたくはない。僕の関係ないところで勝手に頑張ってくれ。
「ええと。メイちゃんにお願いがあります。パーティ登録のことやストア製の武器のこと、しばらくは黙っておいて下さい。この通り!」
なんなら土下座する勢いで頼んでみる。頼むメイちゃん。今はまだこんな情報を出せないんだ。
「……え? うん。別にいいよ。……何となくイノ君が懸念していることは解る」
あっさりと了承を得られた。ゴメンよ。もし、僕が鉈丸と同等の武器を量産できるのが知られると……今度こそ体制側のオモチャにされそうだからさ。
「とりあえず、鉈丸はプレイヤーの特殊効果を発揮したとかなんとかで誤魔化すとして……メイちゃんの刀たちはどうしよう? 当然強化した方が今後の探索には有益なんだけど……」
「……まだいいよ。自分のレベルアップが先。せめて六階層を今の装備で超えることができてからで良いと思う。ううん。なんなら学園を卒業するまでこのままでも良い。もう少し大人になれば……やりようもあるんじゃないかな? イノ君が心配なのはそういうことでしょ?」
理解してくれているのか。ありがとうメイちゃん。まだ十五歳なのにしっかりしてるね。
「まずは、地道にレベルアップを図るということで……」
「……そうだね。それにこんな業物を使っていると、自分の実力を勘違いしそう。身の丈に合わない武器を振るうのは
……
…………
ただ、一体どれほどのモノかを確認するため、普段は使っていない『普通の太刀』を強化してみたところ……
「……イノ君! この業物は私の物だからね! 絶対! ほら! 早く試し斬りに行こう!! ホブゴブリンをぶった斬るよ!!」
完全にメイちゃんの眼が眩んでいた。
……
…………
「落ち着きました?」
「……ごめんなさい。未熟者でした」
強化した『普通の太刀』も凄かった。『ただの鉈』よりは多いDP15が必要だったけれど、その強化具合も劇的。
鉈丸が妖刀なら、太刀の方は神器とでもいうのか、厳かなオーラを纏っていたね。ちなみに名称については、正気に戻ったメイちゃんが「畏れ多くてとても……」ということで、まだ『普通の太刀』のまま。どこが普通だよって感じだ。
メイちゃんと相談して、どうしても必要な場合は使用を躊躇しないけれど、普段はインベントリに収納しておくことになった。こんなことなら、僕も予備の短剣で強化を試せば良かった。何故にメインの得物で試したのか……浅はかだった。
このストアにおいて、武器は強化できるけれど防具の類は強化対象じゃない。というか選ぶことが出来なかった。
防御面はどうしろと? なんてことを考えながらストアを見ていくと、防具はアイテムショップ的に購入する仕組みらしい。それもただの防具じゃない。アクセサリー系でマナやスキルを底上げする感じ。防御は自前で対応しろということなのかも知れない。あと、盾は武器扱いなのか強化の選択に入っていた。区別が謎。
『影の護り』
・マナの増幅
・防御系スキル効果増
『帰還の
・マナの増幅
・防御系スキル効果増
説明欄は同じなのに購入できる物が違う。というか、今の段階ではこの二つしかストアに出てこなかった。
僕は『影の護り』というブレスレットで、メイちゃんは『帰還の懸守』という謂わば御守り。懐に入れておく感じかな。
恐らくこれは【クラス】によっての差異だろう。もしかするとクラスチェンジするとまた別の物がストアのラインナップに出てくるのかも知れない。
ちなみに二つともDP20。武器の強化より割高だけど、こちらも劇的な効果だった。強化ゴブリンの攻撃であっても、マナの集中だけで完全に防げるし、防御系スキルを使えば、消費マナが減って、その上で効果を増した。しかも特筆すべきは『鉈丸』『普通の太刀』のように変に目立たない。マナの底上げとスキルにプラス補正。これなら野里教官が一緒にいてもバレにくい。やったね。まともにストアの品が使えるよ。
……
…………
「……このお守り、頼り過ぎると防御が疎かになりそう」
五階層のボス部屋。
今回のホブゴブリンは僕が一人で相手をしたんだけど……初手、鉈丸の一振りでホブゴブリンの持つ剣ごと腕を両断した。相手からしたら本当に理不尽だね。まぁホブゴブリンも鉈丸の異常さには気付いていたけど。ご愁傷様。
強化ゴブリン六体に関しては、メイちゃんが《甲冑》で相手を務めたけど……ほぼ棒立ち状態でもゴブリン達の攻撃は《甲冑》を超えられなかった。
以前は敵の攻撃に合わせてマナの強弱を意識していたようだけど、今回は全く無操作。ただ《甲冑》を発動したままだったらしい。
「もしかすると、これがダンジョンのそもそもの難易度なのかも……?」
「……そもそもの難易度?」
この世界の住民であるメイちゃんに何処まで話をするか。悩ましいけど、まずは残酷な事実だけは伝えておきたい。
「皇さんの模擬人格曰くだけど……このダンジョン、十階層から先はストア製のアイテムがないと、先に進むのは難しいみたいです。つまりプレイヤー在りき、ストア製の武器と防御アイテムがある状態が普通ってことじゃないかなって……」
「……今のこれが普通……?」
そう考えると、初めてのクラスチェンジアイテム、五階層クリアが厳しいのも頷ける。だって、謂わば“縛りプレイ”みたいなもの。普通に使える装備アイテム使わないんだから。
それに気になっていた「装備:なし」。案の定、ストア製アイテムの事だった。つまり、ステータス画面では、ストア製アイテム以外は、これまで活用してきた刀や鉈であっても、装備品ですらないという扱い。
この鉈丸と防御アクセサリーを装備していたら、レベル【七】くらいのソロでも五階層をクリアできたかも知れない。野里教官は確か、レベル【一二】で五階層のソロクリアを達成したとか言ってたはず。
装備の差をレベルで埋めようにも、勝てる階層ではレベルが頭打ち。無理矢理に階層を進めるか、呪い憑きの武器に手を出すか……そんなことをメイちゃんにも説明する。
「……じゃあ、パーティじゃない人が鉈丸を使うと……ゆくゆくはダンジョン症候群に?」
「まだ僕の妄想、仮説に過ぎないですけど……多分そうかなと。もしかすると学園の中にも、僕以外が用意したストア製の武器が保管されているかも知れませんね」
友好度を確認してから、何故か野里教官には引っ掛かるものがあるし、ストア製アイテムについては、彼女に知られるのは不味い気がプンプンしてる。
メイちゃんには言えないけど……野里教官なら、僕との友好度を上げる為なら、女として体を使うことだって平気でするだろう。ダンジョンへの執着が一般的な倫理観を余裕で上回ってるような人だ。
まぁ今回に関しては逆。僕の友好度じゃなく、教官からの友好度の低さが問題だけどさ。
僕は狂気に満ちながら、ダンジョンに関して冷静で合理的な野里教官は嫌いじゃない。けど、恐らく彼女には僕に含むものがあるようだね。全く、これっぽっちも心当たりはないけど。
とにかく、ストア製アイテムは、現役の探索者や他の生徒に知られて良い情報じゃない。体制側だけど、既に現役探索者を引退している波賀村理事に話を持っていくべきか……? それはそれで怖いしなぁ……
さてさて、どうするかな?
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