第4話 新機能の解放

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『鷹尾芽郁、井ノ崎真、双方の友好度が一定値を超えました。パーティ登録をしますか?』

『鷹尾芽郁、井ノ崎真、双方の友好度が一定値を超えました。パーティ登録をしますか?』

『鷹尾芽郁、井ノ崎真、双方の友好度が一定値を超えました。パーティ登録をしますか?』



 ……

 …………



 何だよこれッ!? いや分かるよ! ステータスウインドウさんがメイ先輩をパーティ登録するか聞いてるってことだよね!?

 分かる分かる! 分かったから! 登録する! 登録するからッ! この痛みを止めろ!


『鷹尾芽郁をパーティ登録します。登録名を設定してください』

『鷹尾芽郁をパーティ登録します。登録名を設定してください』

『鷹尾芽郁をパーティ登録します。登録名を設定してください』



 ……

 …………



 はぁ!? 何だよ、登録名って! 痛たたたた! メイだ! メイ! 「メイ」で登録するから!


『鷹尾芽郁を「メイ」で登録しました。パーティメンバーは一部のステータス機能が利用可能となります』


『初回のパーティメンバーの登録を確認しました。「ストア」の解放を行いますか?』

『初回のパーティメンバーの登録を確認しました。「ストア」の解放を行いますか?』

『初回のパーティメンバーの登録を確認しました。「ストア」の解放を行いますか?』



 ……

 …………



 おいぃッッッ!? まだ終わらないのかよ! しかも「ストア」って十階層のクリアボーナスじゃなかったのかよ!? 痛たたたっ!? 分かったよ! 「ストア」を解放する! 解放するからッ!!


『パーティメンバー登録の初回ボーナスとして「ストア」を解放しました。利用についてはヘルプをご確認下さい。それでは良いダイブを!』



 ……

 …………

 ………………



 終わった…………ってか何だよこのクソ設定は!

 新しい機能の解放がなんで罰ゲーム方式なんだよ! バラエティ番組か! 痛みを伴う笑いは時代遅れなんだよ! ……つッ痛たた……。


「イノ君! 大丈夫!? 急にどうしちゃったの!?」


 あ、メイ先輩が泣きそうな顔に。本気で心配している。当たり前だ。いくら安全地帯とは言え、ダンジョンダイブの相棒が、急に痛みにのた打ち回ればビビるわ。

 しかも、ちょっとイイ話してた時にだ。お互いホッコリ良い感じで、改めてこれからも頑張ろうね! って雰囲気だったしさ。痛たた。くそ。未だに全身が痛い気がする。


「……だ、大丈夫です。悶絶する痛みの中、ルールも解らないまま、意味不明な選択肢を連続で選ばされ続けるという罰ゲームに興じていただけですから……」

「……意味が分からないし、全然大丈夫じゃなさそうだけど……今回は本気でダメな感じ……」


 いつも冷静沈着なメイ先輩が、アワアワしながらドン引きするくらいにはダメだね。もしかすると、今までのダンジョンダイブで一番の苦痛だったかも。


 はぁ……ヘバってばかりもいられない。ちゃんと今の内容を確認しないと。勝手にパーティ登録とかしたけど、メイ先輩に害はないのかコレ。


「……メイ先輩。体調の変化など……何処か異常はありませんか?」

「……イ、イノ君がすごく異常……」


 ほら! まだ引いてるじゃん。もう!

 とりあえず先にステータスウインドウの確認を……

 

「……ッ!」


 メイ先輩が勢いよく飛び退いた。既に戦闘態勢だ。あ、もしかしてステータスウインドウに反応した?


「イノ君! 気を付けて!」

「だ、大丈夫ですから! ……メイ先輩、もしかしてコレが見えてます?」


 目の前に展開するステータスウインドウを指差すと、ハッキリと首を縦に。僕が危険を認識していないことから、少し緊張を解いてくれた。まだ警戒してるけど。そりゃそうか。いきなり学生証機能の立体映像的なモノが現れたら警戒はする。


「……ソレはイノ君が?」

「ええ。これが僕の所有アイテムリスト……無限収納インベントリですよ。あと、このウインドウというか……画面を利用してクラスチェンジやスキルの付け替えを操作してます」


 インベントリに関しては、ある程度を説明していたから、多少は理解してくれたみたいだ。

 ステータスウインドウがメイ先輩に見えるのは、確実にさっきのはパーティ登録の効果だろうね。あと「メイ」の欄が新たに出てきたし。


 メイ:レベル八【武者:Lv7】

 装備:なし

 友好度:パーティ登録


 ん? 装備:なしが気になる。今だってメイ先輩は刀と防具を装備しているのに。

 友好度を選ぶと人物相関図のようなモノが出た。かなり曖昧ファジーな感じだけど、何となく見た感じで友好度とやらが判別できる。まぁだからどうなのか? ということが解らない。新たにヘルプ欄が解放されてるらしいし、後でチェックだな。


「……これ、私の情報?」

「ええ、そのようですね。ちなみに、今まではメイ先輩の欄はありませんでした。今回、頭の中に『メイ先輩と僕、双方の友好度が一定を超えた』とかいうメッセージが出てきてパーティ登録というのを迫られたんですよ。……悶絶する痛みの中で」


 思い出すだけでも痛い。


「パーティ登録?」

「ええと……ほら、探索者が班やチームを組むじゃないですか? あんな感じをパーティと呼ぶんですよ」


 こっちの世界はチームとか班という呼び方。『パーティを組む』という言い回しはほぼ通じない。ゲーム、特にRPGジャンルがあまり発展していないのが関係しているのかな?


「……それで、誠に勝手ながら、痛みが余りにも酷かったので……承諾なしでメイ先輩をパーティ登録しちゃいました……どんな悪影響があるかも分からないのに……すみません」


 えー! ちょっと困るんだけどぉー? 勝手にパーティ登録ってぇ? マジでキモい~! ……とか、メイ先輩に言われると軽く死ねる。だ、大丈夫だよね?


「……私は別に構わないよ。さっきの痛がりようが嘘だとは思わないし……それより友好度って?」

「事後承諾ですみません。ええと、友好度っていうのは……そのまま僕とメイ先輩の友好の度合い? みたいなものじゃないですかね?」


 友好度。メイ先輩が気になっているようなので画面を切り替える。ゲームとかでは、各キャラごとのイベント条件とかになってるヤツだろう。でも、こんな感じでステータス画面で普通に確認できるのは、少なかったような気がするけど。


「……この感じだと、私からイノ君に向けての友好度より、イノ君が私に向けてる友好度の方が少ない。……どういうこと?」


 え? 引っ掛かるのソコなの? しかも割と怒ってる感じだし。いや、まだ能面顔じゃないだけマシなんだろうけど……


「は、はぁ。た、たぶん、僕の友好度が増えたのは、さっき……僕が改めてメイ先輩を、ダンジョンの深奥を目指す“同志”だと……つ、強く認識したからじゃないですかね? ほ、ほら、僕、自分の辛さとかを、か、隠してたじゃないですか? 一線を引くって感じで……メイ先輩だけじゃなくて、割と、プレイヤーだから……って気負っていたところがあったり……だから、皆に対して、あんまり友好度ってのが高くなかったような気がしますけど……?」


 あれ? なんだか凄く圧を感じるんだけど? いや、僕は別に悪いことしてないよね? なんで僕はメイ先輩に言い訳してるんだ?


「……私は、前からイノ君のことを“同志”だと思っていたのに……イノ君は、さっきまではそうじゃ無かった?」


 え? ソコを責められるの? い、いや、この友好度のシステムがどういう仕組みか解らないし……べ、別に今までも、メイ先輩のことを嫌ってた訳じゃ無いから……あ、あれ? だから僕、なんでこんなに焦ってるんだ?


「…………ふふ。嘘。冗談だよ。別にそんなことで怒らない」


 悪戯が成功したときの子供のような笑顔。普段のメイ先輩とのギャップもあって可愛らしい。眼福眼福。

 ……い、いや、それはそれとして……良かった……割と直前までマジなトーンだったから。メイ先輩のボケ? は判りにくいよ。笑いの基本と言われる緊張と緩和じゃなくて、緊張一辺倒だよ。


「……要は、コレで名実共に私とイノ君はチーム? パーティ? ……つまり“同志”ということ?」

「え、ええ。まぁそういうことになりますかね? たぶん、このステータスウインドウの一部の機能をメイ先輩も使えるらしいですし……」


 メイ先輩のフリが何処から来るのか読めない。今は普通の会話のパターンで良いんだよね? 疑心暗鬼になっちゃう。


「……なら、先輩もさん付けも要らない。私の事は改めて『メイ』で良いよ。同志なのにイノ君に先輩と呼ばれるのはちょっと違和感もあったし……」

「は、はぁ……」


 僕は未だに“同志”の方に違和感がありますけどね。いえ、何でもありません。すみません。同志バンザイ。同志マンセー。

 ここはあんまり強く反対する所じゃない。うん。流石にそれくらいは解る。


「ええと……じゃあ今後は『メイちゃん』と呼びますね。僕のこともマコトと呼びます?」

「別に『メイ』だけでも……まぁ良いか。あと、何だかイノ君は『イノ君』って感じだから、このままにする」


 何も言うまい。ここはメイ先輩改め、メイちゃんの気の済むままが正解のハズだ。



 ……

 …………

 ………………



 とりあえず、ステータス画面を色々と確認してみた。

 まず「パーティ登録」。

 これは流れていたメッセージの通り、友好度とやらが一定値以上ある者同士でパーティを組むことが出来る機能。片思いではダメってこと。パーティ登録をした者は、ステータスウインドウの閲覧や自身のクラスチェンジ等の操作、インベントリの共有が可能になる。残念ながら、スキルの付け替えや共有までは出来なかった。


 友好度を確認できる人物相関図もある。あくまでプレイヤーである僕視点のみだけど。これを見る限りでは、メイちゃんから僕への友好度は少し前から一定値を超えていたみたい。すまぬ。よく分からないけど、心の中で謝っておく。


 メイちゃん以外にも人物相関図に登場している人たちが居るけど、顔と名前が一致するのは、風見くん、堂上君、佐久間さん、野里教官、市川先生、サワくん、ヨウちゃんだ。


 他の人は、顔は見たことがあるけど特に関わりがないような人たち。


 たぶんだけど、これはダンジョンで一定範囲まで接近した人たちがリスト化されてるんじゃないかな?


 顔と名前が一致しない人は、最初のゴブリン解体ショー、ヨウちゃんたちの襲撃の際に接した人だろう。


 獅子堂も人物相関図ここには登場していないけど、よく考えたらあの時、僕は彼にはそれほど接近しなかった。知らない名前の一人は、僕が直接ブチのめした獅子堂班の魔法アタッカーだというのは分かる。


 人物相関図を確認すると、堂上君と佐久間さんから僕への友好度はないに等しい。そりゃそうか。当たり前だね。


 他で気になるのは、何故かヨウちゃんからの友好度が高い。メイちゃんよりも上。解せぬ。


 あと、野里教官から僕への友好度はかなり少ない。僕の方から野里教官へは、メイちゃんをちょっと下回るくらいはあるのに……ぐぬぬ。

 う~ん……友好度これは度々確認するものじゃないな。結果によっては心が痛いし、逆に関係が悪くなるでしょ。どうしてもの時以外は封印だな。


 あと、今回のメインとも言える『初回パーティ登録ボーナス』としての「ストア」解放。

 皇さん(模擬)からは『十階層のクリアボーナス』と聞いていたけど……もしかすると、皇さんには友好度が一定を超えた相手が居なかった、誰ともパーティ登録をしなかったんじゃないだろうか? それともプレイヤーによって条件が違うのか。確認のしようがないのでしばらくはスルーだ。


 ヘルプ欄も確認してみたけれど、「ストア」はアイテムショップとアイテム工房が一体となったようなイメージ。


 インベントリに収納している魔石などをDPダンジョンポイントとやらに変換し、そのDPでアイテムを購入することができる。


 ストアに並ぶアイテムは多岐に渡り、普通の日用品や食料品に始まり、ポーションや帰還石、様々な効果を発揮するアクセサリー等々の不思議アイテムまである。ここまではアイテムショップ。


 武具については、元々存在する物をインベントリに収納し、それをDPで強化したり、他の武具と合成したりする仕様。完全に新しい武器を「ストア」で購入するみたいなことはできない。アイテム工房的な部分だね。


 そして、ここからが問題を孕んでいる。「ストア」で強化や合成をした武具は、プレイヤーかパーティ登録をした者以外は“まともには”使用できない。


 具体的にはバッドステータスの付与、精神錯乱や継続ダメージを受けるなど。しかも一気にじゃない。徐々に肉体や精神を蝕むようにデメリットが現れるという仕様。嫌らしい感じ。


 この世界の探索者、パーティ登録外の者でも、ストア製の武具を絶対に使用できない訳ではない。デメリットを覚悟すれば使うことができる。できてしまう。……まったく、胸糞悪い設定だ。ゲームの難易度とかの話じゃない。まるで人のさがを嘲笑っているみたいで気分が悪い。


 あくまで今は僕の想像に過ぎない。でも、たぶん正解。


 プレイヤーである皇さんは、ストア製の武具を大量に作製し、バラ撒いたんじゃないかな。誰ともパーティ登録をせずに。つまり、それを使用した者は皆が徐々に蝕まれていく。まるで呪いの武具だ。


 ストア製の武具を使用した探索者は結果を残す。ダンジョンの踏破も進むだろうさ。でも、デメリットにより徐々に侵される。そして侵蝕が限界点を超えたとき、その使用者は“ダンジョン症候群”を発症する……。


 このシステムを作った存在は、人への悪意があるのは確かだ。

 人は“素晴らしい品”を目の前にしたとき、ソレを手に入れることができるなら、使うことができるなら……例えデメリットなり、ペナルティがあろうとも手を伸ばすだろう。そういう愚かさは人の初期設定に組み込まれているはずさ。


 そして、システムの悪意と人の愚かさを、更に利用したのが皇さんなんだろう。


 いや、プレイヤーごとに解放される機能や特性に違いがあるなら別だろうけど。まぁ二十階層にいる予定の皇さん(模擬)に聞いてみるだけだ。


 もし、僕の予想通りであれば、皇さんは何を思っていたんだろう? この世界に対してソコまで悪意を持つに至った経緯は? ……想像するのも嫌になるよね。



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